この法案を審議する中国の全人代の常務委員会が、28日から3日間の日程で北京で始まり、国営の新華社通信によりますと、初日の28日、法案の審議が行われたということです。
また、中国共産党系のメディア「環球時報」の英語版は、香港選出の全人代の代表の話として、法案の内容について委員の意見がほぼ一致したと伝えました。
一方、香港から唯一選出されている常務委員会のメンバーで、親中派の重鎮の譚耀宗氏は、NHKのインタビューで、30日までの会期中に法案が可決され、香港が中国に返還された日にあたる来月1日に合わせて施行される可能性を示唆しています。
法案には、中国当局が香港で直接、取締まりなどにあたる管轄権の行使が盛り込まれていて、法案が成立すれば、高度な自治を認めた「一国二制度」を完全に形骸化させることにつながるとして、香港の人々や国際社会の間で懸念が広がっています。
香港国家安全維持法案の概要
中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会は、これまでに香港国家安全維持法案の概要を明らかにしています。
法案では国家の安全に危害を加える犯罪行為として、▽国の分裂、▽政権の転覆、▽テロ活動、それに▽外国の勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為の4種類を規定しています。
具体的な刑罰については明らかにしていません。
また中国政府は、香港に新たに「国家安全維持公署」という治安機関を設け、香港政府を監督・指導するとともに、情報収集や分析、それに事件の処理などを行うとしています。
「国家安全維持公署」と中国の関係機関は「特定の状況のもとで、国家の安全に危害を加えるごく少数の犯罪に対し、管轄権を行使する」として、香港での管轄権の行使が認められています。
一方、香港政府は行政長官をトップとする「国家安全維持委員会」を新たに設置し、治安情勢の分析や政策の策定などを行い、中国政府が監督し、「顧問」も派遣するとしています。
香港の警察当局などは、治安維持を担う部門を設け、国家の安全に危害を加える犯罪事件の裁判を担当する裁判官は、香港の行政長官が指名するとしています。
さらに香港のほかの法律と矛盾する場合には、香港国家安全維持法の規定を適用し、法律の解釈権は、全人代の常務委員会が持つとしています。
異例のスピードで法案を審議
香港国家安全維持法案は、先月28日に全人代=全国人民代表大会で制定に向けた方針が決定された後、全人代の常務委員会が異例のスピードで審議しています。
全人代の常務委員会は2か月に1回開かれるのが一般的で、中国の「立法法」では通常、法案は3回の審議を経て採決を行うと定められています。
しかし、香港国家安全維持法案は、今月18日から20日まで開かれた前回の会議で1回目の審議が行われ、1週間余りで再び開かれる今回の会議で可決される可能性があります。
可決されれば、常務委員会で審議が始まってからわずか10日余りで法律が制定されることになり、中国でも異例の対応がとられることになります。
香港では、来月1日はイギリスから中国に返還された日にあたり、例年、大規模なデモ行進が行われています。
また、来月18日には9月に行われる議会にあたる立法会の議員選挙に向けて、立候補の受け付けが始まる予定で、民主派は初めての過半数の議席獲得を目指して、選挙運動を活発化させています。
中国としては、こうした日程も念頭に、法律の制定を急ぐことで香港の人々の反発を抑えこみ、民主派の抗議活動や選挙に向けた動きに圧力を強めるねらいがあると見られます。
法律の制定をめぐっては、アメリカをはじめ国際社会から懸念の声が出ていますが、中国は「内政干渉だ」などとして反発し、あくまで制定に向けた手続きを進める姿勢を強調しています。
全人代常務委員 法案可決の可能性示唆
「香港国家安全維持法」の策定にあたっている中国・全人代の香港選出の常務委員が、NHKのインタビューに応じ、今回の審議で法案が可決される可能性を示唆しました。
香港での反政府的な動きを取り締まる「香港国家安全維持法」は、28日から始まった全人代=全国人民代表大会の常務委員会で、条文や運用の仕組みについて再び審議されるものとみられています。
これを前に、香港から唯一選出されている常務委員会のメンバーで、親中派の重鎮の譚耀宗氏がNHKのインタビューに応じました。
この中で、譚氏は「香港でも、中国でも、立法手続きを一刻も早く終わらせてほしいという声がある。これは香港の再出発だ」と述べて、30日までの会期中に法案が可決され、香港が中国に返還された日にあたる、来月1日に合わせて施行される可能性を示唆しました。
譚氏は、中国当局が香港で直接、取締まりなどにあたる管轄権の行使が法案に盛り込まれていることについて「香港政府が処理できないような特殊な案件に対応するために必要で、万が一のためだ。香港政府がきちんとこなせば、中国政府が手を出す必要はない」と述べ、中国が管轄権を行使するのは、ごく一部のケースに限られると強調しました。
一方で、具体的にどのような言動が取締まりの対象になるかについて、譚氏は「法律では、そこまで詳しく書くことはできない」と述べたうえで、例えば、中国共産党を直接、批判するスローガンを唱えた場合は、背後関係など全体の状況を踏まえ、個別に判断することになると説明しました。
さらに、刑罰について、法案では最も重い場合で禁錮10年とされていることを明かしたうえで「委員からは刑罰が軽すぎて、抑止効果がないという意見が多かった」と述べ、制定の段階で、罰則がさらに強化される可能性もあるという見方を示しました。
そのうえで、譚氏は「香港の市民でなくても、守らなければならない」と述べて、香港で生活する外国人にも法律が適用されると明言しました。
香港市民 審議の行方に関心
中国の全人代=全国人民代表大会の常務委員会で審議が進められる「香港国家安全維持法」について、香港の市民の間では、審議の行方に関心が高まっています。
このうち、20代の男性は「どんな立場の人であれ、すべての香港の市民が注目しなければならない。法律は市民の言論の自由を奪うものだ」と話していました。
また、30代の女性は「法律の可決は避けられないが、具体的にどんなことが違法とされるのかについて、詳しく説明してほしい」と話していました。
一方、50代の男性は「香港にとってよいことだと思う。法律がなければ、混乱が起きてしまう」と話していました。
香港の九龍半島の繁華街では28日、SNS上で法案に反対しようとデモ行進が呼びかけられていたことから、大勢の警察官が出て、警戒にあたっています。
ただ、呼びかけに応じて集まった人は少なく、警察がこのうちの数人を呼び止めて、所持品などを確認する姿が見られました。