生協は全国各地で店舗を運営したり、宅配事業を行ったりしていますが、日本生協連は、コメをはじめとする食材などの調達を行っています。
しかし、去年収穫されたコメの調達量が前の年の7割程度にとどまったことから、各地の生協ではコメの購入点数を制限するなどの対応をとっています。
こうしたなか、日本生協連では、卸売会社と商談を進めていて、備蓄米を確保できる見通しが立ったとして、今月下旬以降、関東や関西にある10の生協の店舗で販売を始められるよう準備を進めています。
「5キロあたり4000円を下回るか」
日本生協連の農畜産部の高杉康彦部長は「店頭で備蓄米という表示はできないが、備蓄米が並べばいま空いている棚に物が入って消費者が安心して購買できるようになる。1日も早く商品として棚に備蓄米を並べたい」と話していました。
また、販売価格については「まず備蓄米をどんどん流通させていくことが必要だと思っているので、利益を確保しようとはあまり考えていない。備蓄米の落札価格を踏まえると5キロあたりの価格は4000円を下回って、いま流通しているものと比べて安い価格で販売できる可能性はある」と話していました。
コメの値上がりは止まらず
全国のスーパーでのコメの平均価格は3月16日までの1週間で5キロあたり税込みで4172円となり、去年の同じ時期の2倍を超える高値になりました。
政府の備蓄米が放出されたあとのコメの価格の変化が焦点になっています。
入荷時期や量が見通せないスーパーも 新潟
新潟市内のスーパーでは備蓄米の入荷に期待を寄せていますが、その時期や量は見通せない状況となっています。
新潟市西区のスーパーでは、先月から仕入れるコメの量がこれまでの半分ほどに制限されたため、1家族につき1袋という条件を設けて販売を行っています。
また、仕入れ価格の上昇に伴い、今月11日には、新潟県産のコシヒカリの販売価格を5キロあたり400円引き上げたということです。
買い物に訪れていた60代の女性は「もう少し安くなってほしい。コメを食べる量を減らすために別の食材を食べています」と話していました。
このスーパーでは備蓄米が入荷すれば、価格や販売量の安定につながると期待を寄せていますが、入荷の見通しは立っておらず、問屋からの連絡を待っている状況だということです。
スーパー「ichiman」の高井栄二朗店長は「備蓄米が入荷すれば、お客に販売できる量を確保でき、値段も落ち着いてくると思う。いつどのくらいの量が入荷するか分からないので首を長くして待っています」と話していました。
流通大手 販売量や価格の調整進める
備蓄米の販売に向けて、流通大手は卸売会社との間で販売量や価格などについて調整を進めています。
NHKが流通大手各社に取材したところ、イオンでは、卸売会社との間で販売する量や店頭に並べる時期などについて調整を進めているということです。
ただ、現時点で具体的な時期はわからないとしていて、調整が終わりしだい、販売を始めたいとしています。
また会社では、JA全農が備蓄米だと分からない形で販売するよう取引先に要請していることを踏まえ、自社の店頭でも備蓄米とは表記しないで販売する方針です。
ほかの流通大手も、備蓄米の販売に向けて卸売会社との間で販売量や価格などについて調整を進めていると答えていて、早ければ今週中にも店頭に並ぶことになりそうです。
コメ作付け面積は増える見通し
ことし、計画されているコメの作付け面積について、農林水産省が1月末の時点で各都道府県に聞き取ったところ、19の道と県で増える見通しでした。
全国の合計では、主食用は128万2000ヘクタールと、去年より2万3000ヘクタール、率にして1.8%増える見通しです。
農林水産省の担当者によると、この作付け面積をもとにことしのコメの収穫量を単純に試算した場合、690万トン程度と、去年より10万トンから12万トンほど増える結果になるということです。
各道県別で増加する面積を見ると、北海道が3400ヘクタールと最も大きく、次いで、福島県が3200ヘクタール、茨城県が2100ヘクタールなどとなっていて、主な産地では、軒並み増える見通しです。
農林水産省はコメの価格上昇などを受けて農家の間で、増産の意欲が高まっているのではないかとみています。
コメ増産も種もみ不足の課題 山形
コメの価格高騰を受けて、山形県のことしのコメの生産量は増える見込みですが、種もみの不足という課題に直面しています。
東北有数のコメどころ山形県では、県や農協が独自に設ける「生産の目安」をことしは6年ぶりに引き上げ、32万トン余りとしています。
生産者の間でも増産への意欲が高まっていて、庄内地方の生産者、斎藤勝幸さん(45)は冷凍チャーハンなどにも加工される「はえぬき」という品種を増産しようとしています。
飼料用米を作っていた田んぼ、およそ6ヘクタールでこの品種を育てることにしていて収入はおよそ600万円増える見込みだということです。
斎藤さんは「機械への投資などもあり、先立つものがないと経営ができないので増産を決断した」と話していました。
ただ、コメの増産には種もみが必要となり、斎藤さんは去年10月ごろに飼料用米からの変更を決めていたため、種もみを確保できましたが、周りには確保できていない生産者も多いということです。
こうしたなか、コメの保管施設にある出荷前のコメを種もみに転用する動きも出ているということで、種もみを受け取ることができた50代の生産者は、「なんとか確保できて助かった」と話していました。
種もみ 急な増産は難しく 富山
農協で作る富山県主要農作物種子協会によりますと、富山県は全国で都道府県をまたいで出荷される種もみのおよそ6割を生産する全国有数の産地です。
富山市にある県農業研究所は、種もみの元となる種子を生産し農協に出荷していて、職員が水につけていた種子を土が敷き詰められた箱にまく作業を行いました。
元になる種から作付けに適した品質の良い種もみを作るまでには3年の期間がかかるということです。
富山県内の農協には、コメの作付けを増やしたい全国の農家などから問い合わせが相次いでいて、この研究所では冷蔵保存していた種子を例年よりやや多めに農協に供給する対応をとっていますが、生産に時間がかかるため、急な増産は難しいということです。
専門家「生産は簡単に増やせないと考えるべき」
農業政策に詳しい三菱総合研究所の稲垣公雄研究理事は、コメの増産について「加工用米や飼料用米も、予定していたものを全部、主食用に変えることはできない。これまでコメを作っていないところでコメを作るというのも種もみの問題などもあり、生産はそんなに簡単に増やせないと考えるべきだ」と指摘しています。
その上で、コメの需給を安定させる方策については「この1年2年で対応できることではなく、もう少し中長期的にコメの生産をどうやって維持していくのか。もう少し余裕を持っておかないと怖くてしかたがない状態ではあるので、総合的に考え直していくことがいま問われている」と話していました。