❶人間の体の中にあって, 広く精神活動をつかさどるもとになると考えられるもの。
(1)人間の精神活動を知・情・意に分けた時, 知を除いた情・意をつかさどる能力。 喜怒哀楽・快不快・美醜・善悪などを判断し, その人の人格を決定すると考えられるもの。
「~の広い人」「~の支えとなる人」「豊かな~」「~なき木石」
(2)気持ち。 また, その状態。 感情。
「重い~」「~が通じる」
(3)思慮分別。 判断力。
「~ある人」
(4)相手を思いやる気持ち。 また, 誠意。
「母の~のこもった弁当」「規則一点張りで~が感じられない」
(5)本当の気持ち。 表面には出さない思い。 本心。
「~からありがたいと思った」「笑っていても~では泣いていた」
(6)芸術的な興趣を解する感性。
「絵~」
(7)人に背こうとする気持ち。 二心。
「人言(ヒトゴト)を繁みこちたみ逢はざりき~あるごとな思ひ我が背子/万葉 538」
❷物事の奥底にある事柄。
(1)深く考え, 味わって初めて分かる, 物の本質。 神髄。
「茶の~」
(2)事の事情。 内情。 わけ。
「目見合はせ, 笑ひなどして~知らぬ人に心得ず思はする事/徒然 78」
(3)言葉・歌・文などの意味・内容。
「文字二つ落ちてあやふし, ことの~たがひてもあるかなと見えしは/紫式部日記」
(4)事柄の訳・根拠などの説明。 また謎(ナゾ)で, 答えの説明。
「九月の草花とかけて, 隣の踊りととく, ~は, 菊(聞く)ばかりだ」
❸
(1)心臓。 胸。
「別れし来れば肝向かふ~を痛み/万葉 135」
(2)(「池の心」の形で)中心。 底。
「池の~広くしなして/源氏(桐壺)」
(3)書名(別項参照)。
<i>~合わざれば肝胆(カンタン)も楚越(ソエツ)の如(ゴト)し</i>
〔荘子(徳充府)〕
最も近い間柄の人でも, 気が合わないと疎遠な他人と同じである。
<i>~入(イ)・る</i>
心が引きつけられる。 夢中になる。
「そのうつくしみに~・り給ひて/源氏(末摘花)」
<i>~内(ウチ)にあれば色(イロ)外(ソト)にあらわる</i>
⇒ 思い内にあれば色外にあらわる(「思い」の句項目)
<i>~後(オク)・る</i>
(1)心の働きが劣る。
「うちをば思ひよらぬぞ~・れたりける/堤中納言(逢坂)」
(2)気後れする。
「あやしう, ~・れても進み出でつる涙かな/源氏(梅枝)」
<i>~重・し</i>
思慮深い。 慎重だ。
「世の中に~・くづしやかに思はれ給ひつる人の/宇津保(国譲中)」
<i>~及・ぶ</i>
(1)想像がつく。
「これこそ翁らが~・ばざるにや/大鏡(道長)」
(2)気が付く。 気持ちが行き届く。
「心の及ばむに従ひては, 何事も後見きこえむ/源氏(澪標)」
<i>~が痛・む</i>
すまないという気持ちで苦しくなる。
<i>~が動・く</i>
(1)そうしたいという気が起こる。
(2)気持ちが平静でなくなる。
<i>~が通(カヨ)・う</i>
互いの気持ちが通じ合う。 心が通じる。
<i>~が騒・ぐ</i>
心配や不吉な予感などのため, 心が落ち着かない。
<i>~が弾(ハズ)・む</i>
楽しい期待で気持ちがうきうきする。
<i>~が晴・れる</i>
心配事や疑念が解決して, こだわっていた気持ちが消える。
<i>~が乱・れる</i>
あれこれ思いわずらい, 平静でなくなる。
<i>~利(キ)・く</i>
気がきく。 才覚がある。
<i>~ここに有(ア)らず</i>
〔大学〕
他の事に心を奪われていて, 眼前のことに心を集中できない。 心ここにあらざれば視(ミ)れども見えず。
「~という有り様でそわそわしている」
<i>~知・る</i>
(1)事情・訳などを知っている。
「~・らぬ人々は, …ととがめあへり/源氏(末摘花)」
(2)情趣を解する。
「~・らむ人に, などこそ聞え侍りしか/源氏(紅梅)」
<i>~好・く</i>
風流を好む心がある。
「すぐれて~・き給へる人にて, つねは吉野山をこひ/平家 1」
<i>~付(ツ)・く</i>
※一※〔「付く」は四段〕
(1)そういう心になる。
「かの大臣のかたざまは思ひのく~・きなむ/寝覚 3」
(2)物心がつく。 分別がつく。
「彼の者~・きて, 父は何処にやらんと尋ね候ふべきなれば/義経記 5」
※二※〔「付く」は下二段〕
(1)好意を寄せる。 関心を持つ。
「まま母の御あたりをば~・けてゆかしく思ひて/源氏(若菜下)」
(2)気付かせる。 注意させる。
「若き人に見習はせて~・けんためなり/徒然 184」
<i>~解(ト)・く</i>
警戒心が薄れる。 うち解ける。
「人離れたる所に~・けて寝ぬるものか/源氏(夕顔)」
<i>~に浮か・ぶ</i>
考えつく。 思い浮かぶ。
<i>~に懸(カ)か・る</i>
気がかりに思う。 気にかかる。
<i>~に懸(カ)・ける</i>
心にとめる。 気にかける。 心配する。
<i>~に適(カナ)・う</i>
望んでいたことにうまく当てはまる。
<i>~に刻・む</i>
深く心にとどめる。
<i>~に染(ソ)まぬ</i>
自分の気持ちに合わない。
<i>~に染(ソ)・む</i>
気に入る。 意にかなう。
「~・まぬ妻定め, 左右なう引くべき様はなし/浄瑠璃・国性爺合戦」
<i>~に付(ツ)・く</i>
※一※〔「付く」は四段〕
気にいる。
「~・かば, 速やかに取れ/今昔25」
※二※〔「付く」は下二段〕
関心を持つ。 心にかける。
「おもしろき家造り好むが, この宮の木立を~・けて/源氏(蓬生)」
<i>~に留(ト)・める</i>
いつも意識し, 忘れないでおく。 心にかける。
<i>~に残・る</i>
感動がのちのちまで続く。
「~・る名画」
<i>~に任(マカ)・せる</i>
(1)自分の思うままにする。
(2)思い通りになる。
「~・せぬ恋の道」
<i>~にもな・い</i>
本気でそう思っている訳ではない。 自分の本心とは違う。
「~・いお世辞をいう」
<i>~の欲する所に従えども矩(ノリ)を踰(コ)えず</i>
〔論語(為政)〕
自分の思うがままに行なっても, 正道から外れない。 孔子七〇歳の心境を述べたもの。
→ 従心
<i>~広く体(タイ)胖(ユタカ)なり</i>
〔大学〕
心にやましいことがなければそれが形にも表れて, 心身ともにのびやかである。
<i>~を合わ・せる</i>
(1)同じ目的に向かって心を一つにする。
(2)示し合わせる。 共謀する。
「こなたかなた~・せてはしたなめ煩はせ給ふ時も多かり/源氏(桐壺)」
<i>~を致(イタ)・す</i>
心を尽くす。 心をこめる。
「食を断ちて~・して願ふ所を祈請す/今昔 7」
<i>~を痛・める</i>
あれこれと心配する。 心を悩ます。
<i>~を一(イツ)にする</i>
多くの人が考えを一つにする。 心を合わせる。
「~して困難にあたる」
<i>~を入れ替・える</i>
今までのことを反省し, 考えや態度を改める。
<i>~を打・つ</i>
深い感銘を与える。
<i>~を奪(ウバ)・う</i>
強く心を引き付ける。 夢中にさせる。
<i>~を置・く</i>
(1)心配・未練などの気持ちが残る。
「幼子に~・いて出かける」
(2)うちとけない。 遠慮する。
「我に心置き, ひきつくろへるさまに見ゆるこそ/徒然 37」
(3)用心する。 警戒する。
「後の巡査に聞えやせんと, ~・きて振返れる/夜行巡査(鏡花)」
<i>~を起こ・す</i>
(1)心を奮い立たせる。 元気を出す。
「~・して御湯などをも御覧じ入るるつまとやなる/寝覚 5」
(2)信仰心を起こす。 発心(ホツシン)する。
「~・してたしかに一部を書写し畢(オワ)りて/今昔 6」
<i>~を躍(オド)ら・せる</i>
気持ちをたかぶらせる。
<i>~を鬼(オニ)にする</i>
気の毒に思いながら, その人のためを思ってやむなく厳しくする。
「~して破門する」
<i>~を傾(カタム)・ける</i>
一つのことに精神を集中する。
<i>~を砕・く</i>
(1)いろいろと力を尽くす。 苦心する。
「~・いておもてなしをする」
(2)心配する。
「人知れぬ~・き給ふ人ぞ/源氏(須磨)」
<i>~を配・る</i>
周囲の人や物事に注意を払う。 配慮する。
<i>~を汲(ク)・む</i>
相手の気持ちを思いやる。
<i>~を籠(コ)・める</i>
思いを託す。 真心をこめる。
「~・めた贈り物」
<i>~を掴(ツカ)・む</i>
「心を捉(トラ)える」に同じ。
「聴衆の~・む演説」
<i>~を尽く・す</i>
(1)精魂を傾ける。 できる限りのことをする。
(2)神経をすりへらす。
「海山の道に~・し/竹取」
<i>~を留(ト)・める</i>
(1)注意する。 気を付ける。
(2)愛着を感じる。 心を寄せる。
<i>~を捉(トラ)・える</i>
人の気持ちをつかんで離さないようにする。 心をつかむ。
「読者の~・える表現」
<i>~を取・る</i>
取り入る。 人の機嫌をとる。
「山門・南都・園城寺の衆徒の~・り/太平記 8」
<i>~を引・く</i>
(1)関心・興味を引く。
「墨絵に~・かれる」
(2)それとなく相手の気持ちをためす。 気を引く。
<i>~を開・く</i>
うちとける。 隠し立てをしないで, 本当の気持ちを話す。
<i>~を用(モチ)・いる</i>
気をくばる。 注意する。
<i>~を以(モツ)て心に伝(ツタ)・う</i>
「以心伝心(イシンデンシン)」を訓読みした語。
「拈花(ネンゲ)瞬目の妙旨を~・へたり/太平記24」
<i>~を破(ヤブ)・る</i>
人の機嫌を損ねる。
「~・らじとて, 祖母おとどいであふ/源氏(玉鬘)」
<i>~を遣(ヤ)・る</i>
(1)思いをはせる。 遠くの人や物を思う。
(2)憂さを晴らす。 心を慰める。
「酒飲みて~・るにあにしかめやも/万葉 346」
(3)思う存分にする。 満足する。
「おのがじし~・りて人をば貶(オト)しめ/源氏(帚木)」
<i>~を許(ユル)・す</i>
信頼して, 警戒心をもたないで相手に接する。 また, うちとける。
「~・した友人」
<i>~を寄・せる</i>
(1)好意をいだく。
「ひそかに~・せる」
(2)傾倒する。 熱中する。
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