〔「見(メ)す」と同源〕
(1)貴人が人をそば近くにお呼び寄せになる。 (ア)そばにお招きになる。
「殿に~・される」「呼べとて~・せば, 参りたり/枕草子 9」(イ)お招きになってある役職につかせる。 また, 任ずる。 「歌会始の講師に~・される」「もろこしの判官に~・されて侍りける時に/古今(雑下詞)」(ウ)(受け身の形で用いる。 キリスト教で, 神のそば近くに招かれる意から)死ぬ。 または, 特別な使命を受ける。 「天に~・される」「聖職に~・される」(エ)女性を寵愛なさる。 「皇孫因りて~・す/日本書紀(神代下訓)」
(2)「飲む」「食べる」意の尊敬語。
「御酒を~・していらっしゃるようだ」「夏痩せに良しといふものそ鰻捕り~・せ/万葉 3853」
(3)身につける意の尊敬語。
「和服を~・した方」「~・しもならはぬ草鞋しめはき給ひて/御伽草子・鉢かづき」
(4)貴人や相手を敬って, その動作・状態などについて言及する語。 (ア)多く慣用的表現として用いられ, 「年をとる」「気に入る」「風邪をひく」などの意の尊敬語。
「お年を~・す」「お気に~・す」「お風邪を~・す」(イ)特に「腹を切る」意の尊敬語。 切腹なさる。 「かなはぬ所にて御腹~・されん事, なにの義か候べき/平治(中・古活字本)」
(5)風呂・行水などを使う意の尊敬語。
「御行水を~・さばや/平家 3」
(6)人に命じて物を取り寄せる, 差し出させる, 意の尊敬語。
「御硯急ぎ~・して/源氏(空蝉)」「田内左衛門をば, 物の具~・されて, 伊勢三郎に預けらる/平家 11」
(7)「買う」意の尊敬語。
「通例(ヨク)御侍様が刀剣(カタナ)を~・す時は/怪談牡丹灯籠(円朝)」「よきつみや~・すとうり歩きけるを/続詞花集」
(8)名付けて呼ぶ意の尊敬語。
「其比はいまだ鶴蔵人と~・されけるを/平家 4」
(9)「する」「なす」意の尊敬語。
「連歌~・せ~・せ萩も候/迹祭」
→ 召される
(10)車などに乗る意の尊敬語。
「其処までだから一所に~・していらつしやい/義血侠血(鏡花)」
(11)(補助動詞)
動詞の連用形に付いて, 尊敬の意を添える。 …なさる。
「木曾殿も死に~・したりやお娘は浪人/浄瑠璃・ひらかな盛衰記」
〔(11)は近世での用法。 近世でもまれなもので, 普通は「めされる」が用いられる。 → めされる(2)〕
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