❶
(1)種子植物の生殖器官。 一定の時期に枝や茎の先端などに形成され, 受精して実を結ぶ機能を有するもの。 有性生殖を行うために葉と茎が分化したもので, 花葉と花軸からなる。 花葉は普通, 萼(ガク)・花冠(花弁の集合)・おしべ・めしべに分化して, 花の主体を形成する。 形態上の特徴は分類上の指標となる。
「~が咲く」「~が散る」
(2)特定の花をさす。 (ア)春の花を代表する桜の花をさす。 ﹝季﹞春。
「~に浮かれる」「願はくは~のしたにて春死なむ/山家(春)」
〔中古後期頃に一般化した用法。 現代語では「花見」「花ぐもり」など他の語との複合した形でみられる〕
(イ)古くは, 百花にさきがけて咲くところから, 梅の花をさした。
「今のごと心を常に思へらばまづ咲く~の地(ツチ)に落ちめやも/万葉 1653」「春や疾(ト)き~や遅きと聞き分かむ鶯だにも鳴かずもあるかな/古今(春上)」
(3)神仏に供える花や枝葉。
「手向けの~」
(4)生け花。 花道(カドウ)。 また, 生け花にする材料。
「お~の稽古」「~を生ける」
(5)(特に桜を対象として)(ア)花が咲くこと。
「~便り」「向つ峰(オ)の若桂の木下枝(シズエ)取り~待つい間に嘆きつるかも/万葉 1359」(イ)古くは, 花を見て賞すること。 花見。 「尋ね来て~にくらせる木の間より待つとしもなき山の端の月/新古今(春上)」
(6)(しばしば鳥・雪・月などと対比されつつ)自然美の代表として草木に咲く花を総称していう。
「蝶よ~よと育てる」
❷色や形の類似から, 花になぞらえていう。
(1)(主としてその白さによって)雪・霜・白波・月光・灯火などを花に見たてていう語。
「雪の~」「波の~」「硫黄(イオウ)の~」
(2)麹黴(コウジカビ)。 麹花。 また, 麹のこと。
❸花にちなんだ事物。
(1)造花。 飾り花。 また, 散華(サンゲ)に用いる紙製の蓮(ハス)の花びら。
(2)〔もと露草の花のしぼり汁を原料としたところから〕
(ア)青白色。 また, 藍(アイ)染めの淡い藍色。 縹(ハナダ)色。 はないろ。
「御直衣の裏の~なりければ/大鏡(伊尹)」(イ)薄い藍色の顔料。 「頭には~を塗り/栄花(本の雫)」
(3)(ア)芸人などに与える金品。 また, 芸娼妓や幇間(ホウカン)の揚げ代。 花代。
〔「纏頭」とも書く。 花の枝に贈り物を付けたところから〕
(イ)芸娼妓や幇間の花代を計算するために用いる線香。 また, それで計る時間。
「~を恨み, 鶏を惜(ニク)み/洒落本・南遊記」
(4)花札。 花ガルタ。 また, それを用いた遊び。 花合わせ。
「~を引く」
❹花の美しさ・はなやかさにたとえていう。
(1)はなやかで人目をひくもの。 多く女性についていう。
「社交界の~」「職場の~」「両手に~」
(2)美しく貴く思うもの。 また, はなやかで興趣に富むもの。
「高嶺(タカネ)の~」「この世の~」
(3)(「花の…」の形で, 連体修飾語として)はなやかで美しいものである意を表す。
「~の都」「~の顔(カンバセ)」
(4)(多く「…が花だ」の形で, 述部として用い)最もよいこと。 最もよい時期。
「知らぬが~だ」「若いうちが~だ」
(5)はなやかで, そのものの特色を表しているもの。
「火事と喧嘩(ケンカ)は江戸の~」「古代美の~」
(6)若い男女。
「箱入の~もの云はぬ病が出/柳多留 42」
(7)美しい女。 また, 遊女。
「~に遊ばば祇園あたりの色揃へ/浄瑠璃・忠臣蔵」
(8)世阿弥の能楽論の用語。 観客の感動を呼び起こす芸の魅力, おもしろさ, 珍しさ。 また, それを追求・工夫し, 感得する心の働き。
❺花の移ろいやすく, はかなく散るさま, また見かけだけであだなさまにたとえていう。
(1)外観。 うわべ。 実質を伴わないはなやかさ。
「~多ければ実少なし」
(2)人の心や風俗などの変わりやすいこと。
「色みえで移ろふものは世の中の人の心の~にぞありける/古今(恋五)」
(3)人の心などが, うわべばかりで誠実さのないこと。
「今の世の中色につき, 人の心~になりけるにより, あだなる歌はかなきことのみ出でくれば/古今(仮名序)」
(4)「花籤(ハナクジ)」の略。
「ほんに当る因果なら, ~ばかりでおけばいいに/黄表紙・金生木」
(5)文芸論の用語。 和歌・連歌・俳諧などで, 意味内容を実にたとえるのに対し, 表現技巧をいう。
「古の歌はみな実を存して~を忘れ, 近代のうたは~をのみ心にかけて, 実には目もかけぬから/毎月抄」
❻歌曲名(別項参照)。
<i>~が咲・く</i>
(1)植物の花が開く。 開花する。
(2)盛んになる。 にぎやかになる。
「思い出話に~・く」
(3)時期が来て栄える。
「人生に~・く」
<i>~と散・る</i>
満開の桜の花がすぐ散るように, 潔く死ぬ。 特に, 戦場で死ぬことをいう。
<i>~に=風(=嵐(アラシ))</i>
⇒ 月(ツキ)に叢雲(ムラクモ)花(ハナ)に風
<i>~は折りたし梢(コズエ)は高し</i>
手に入れる方法がない, 思うようにならないことのたとえ。
<i>~は桜木(サクラギ)人は武士</i>
花の中では桜が最もすぐれており, 人の中では武士が最もすぐれているということ。
<i>~は根に鳥は故巣(フルス)に</i>
咲いた花はその木の根もとに散ってこやしとなり, 空飛ぶ鳥は巣に帰る。 物事はすべてそのもとに帰るという意。
<i>~はみ吉野(ヨシノ)、人は武士</i>
桜の花は吉野がすぐれ, 人は武士がすぐれているということ。
<i>~開・く</i>
(1)つぼみが開いて, 花が咲く。
(2)長年の努力などがみのる。
(3)文化が盛んになる。
「~・く天平文化」
<i>~も恥じらう</i>
〔美しい花さえひけ目を感じる意〕
若い女性の美しさをいう語。
「~一八歳」
<i>~も実(ミ)もある</i>
外観も内容もともに備わっている。 名実ともにある。 また, 人情の機微に通じている。
<i>~より団子(ダンゴ)</i>
〔花をながめて目を楽しませるより団子を食べて食欲を満たす意〕
風流より実利を選ぶことのたとえ。
<i>~を咲か・せる</i>
(1)成功して名声を得る。
「地道な努力がやがて~・せ実を結ぶ」
(2)盛んにする。 はなやかにする。
「昔話に~・せる」
<i>~を添・える</i>
美しいものの上にさらに美しさを加える。
「祝賀会に~・える」
<i>~を持た・せる</i>
勝利や名誉をゆずる。 相手をたてる。
「若い者に~・せる」
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