※一※ (名)
(1)動物が飲食物をとり入れる器官。 高等動物では頭部の下方にあって, 唇・歯・舌があり, 下あごによって開閉する。 音声や鳴き声を発する器官ともなり, 鳥類では嘴(クチバシ)となる。
「~でくわえる」
(2)話すこと。 声を出してものを言うこと。 (ア)話す時に使うものとしての口。
「~を開けば嫁の悪口ばかり」「~をつぐむ」(イ)話す動作。 声に出すこと。 また, その言葉。 「~で言うほど簡単ではない」「~に出す」「~ほどでもない」(ウ)(文章などによらず)直接話すこと。 口頭。 「~で伝える」(エ)うわさ。 評判。 風説。 「世間の~を気にする」(オ)話し方。 話し方のよしあしや多寡(タカ)。 「~が悪い」「~が達者だ」(カ)呼び出し。 誘い。 「~がかかる」
(3)飲食すること。 (ア)飲食する時に使うものとしての口。
「~をつける」(イ)飲食物を味わうものとしての口。 また, 味覚。 「~に合う」「~あたり」(ウ)生活のために必要な量の食事をとるものとしての口。 また, 食事をする人数。 「~が干上がる」「~を減らす」「一人~(ヒトリグチ)」(エ)飲食する動作。 飲み食いすること。 「酒は~にしない」
(4)通り抜けることができる空間。 複合語としても用いる(この場合, 多く「ぐち」となる)。 (ア)穴やすき間。
「傷の~」「船腹に~があく」(イ)ものを出し入れする所。 また, そこをふさぐもの。 「瓶の~」「~がかたくて抜けない」(ウ)人の出入りする所。 戸口。 「~が狭い」「登山~(トザングチ)」「非常~(ヒジヨウグチ)」
(5)〔(1)が体内への入り口であることから〕
物事の初め。 最初。
「序の~」「宵の~」
(6)物事を分類するときの, その一つ一つの類。 種類の一。
「飲める~」「そっちの~がだめなら, 別の~に当たってみよう」
(7)はいっておさまる所。
「嫁の~をさがす」「就職~(シユウシヨクグチ)」
(8)馬の口につける縄。
「馬の~をとる」
※二※ (接尾)
助数詞。
(1)口に飲食物を入れる回数を数えるのに用いる。
「一~で食べる」
(2)刀剣などを数えるのに用いる。
「太刀一~」
(3)多くの人から金銭を集める時の, 出してもらう単位を数えるのに用いる。
「一~五千円で加入できる」
<i>~が上が・る</i>
(1)食えなくなる。 生活の手段を失う。 口が干上がる。
(2)口がじょうずになる。 物言いが巧みになる。
「たんと~・つたの/浄瑠璃・淀鯉(下)」
<i>~がうま・い</i>
話がじょうずだ。 また, 口先でごまかしたり, だましたりするのがうまい。
<i>~がうるさ・い</i>
いろいろと批評や非難をする。
「世間の~・い」
<i>~が奢(オゴ)・る</i>
食べ物に贅沢(ゼイタク)である。 うまい物しか食べない。
<i>~が重・い</i>
(1)口数が少ない。 無口だ。
「~・い人」
(2)言いにくい。 言うのをはばかる。
「いい話ではないのでつい~・くなる」
<i>~が掛か・る</i>
芸人などが客から招かれる。 また, 人から誘われる。
「主役の~・る」
<i>~が堅(カタ)・い</i>
秘密などを軽々しく他へもらさない。
⇔ 口が軽い
<i>~が軽・い</i>
(1)物言いが軽率である。 秘密などを不注意に口外する。
⇔ 口が堅い
(2)多弁である。
<i>~が腐(クサ)っても</i>
秘密などをもらさない決意を表すのにいう語。
「~言わない」
<i>~が肥・える</i>
うまい物を食べ慣れている。 口がおごる。
<i>~が裂けても</i>
(下に打ち消しの語を伴って)口外しないことを強調する語。
「~言えない」
<i>~が過・ぎる</i>
言ってはならないことを言う。 失礼なことを言う。 言いすぎる。
「君, ちょっと~・ぎはしないか」
<i>~が酸(ス)っぱくなる</i>
同じことを何度も繰り返して言うさま。
「~ほど言ったのにまだわからないのか」
<i>~が滑(スベ)・る</i>
言ってはいけないことを, うっかり言ってしまう。
「つい~・って余計なことを言ってしまった」
<i>~が干上(ヒア)が・る</i>
生活の手段を失う。 あごが干上がる。
<i>~が減らない</i>
言いこめられてもまだあれこれと理屈を並べて言い返す。 へらず口をきく。
「~やつ」
<i>~が曲が・る</i>
尊敬すべき人や恩ある人の悪口を言うと, 罰(バチ)があたって口がゆがむの意。 そういう人の悪口を言ってはいけないということ。
<i>~から高野(コウヤ)</i>
〔口が禍(ワザワイ)のもととなって, 頭を丸めて高野山へ入らなければならない意〕
「口は禍のもと」に同じ。
「おつと, のろまは~つ, と/滑稽本・浮世床(初)」
<i>~から先=に(=へ)生ま・れる</i>
口の達者な者やおしゃべりな者をあざけっていうたとえ。
<i>~が悪・い</i>
憎まれ口をきくくせがある。
<i>~食うて一杯(イツパイ)</i>
食べるだけで精いっぱいで, 余裕のない生活をいう。
<i>~では大坂の城も建(タ)つ</i>
口ではどんな大きなことでも言えるというたとえ。
<i>~と腹とは違う</i>
言うことと考えていることが違う。
<i>~尚(ナオ)乳臭(ニユウシユウ)あり</i>
〔史記(高祖本紀)〕
口がまだ乳臭い。 年が若く経験に乏しいこと。 口なお乳(チチ)くさし。
<i>~に合・う</i>
飲食物が好みに合っている。
<i>~にする</i>
(1)食べる。 味わう。
(2)口に出して言う。
「そんなことは~すべきでない」
<i>~に=税(=年貢(ネング))はかからない</i>
どんなことを言っても税金を取られることはない。 すき勝手なことを言うたとえ。 口に地代(ジダイ)は出ない。
<i>~に出・す</i>
言葉にして言う。
<i>~に乗・せる</i>
口車(クチグルマ)に乗せる。
<i>~に乗・る</i>
(1)人の甘言にだまされる。 口車に乗る。
(2)人々の話題になる。 広く知られる。 人口に膾炙(カイシヤ)する。
「人の~・れる歌にて侍るは/古本説話 39」
<i>~に針</i>
物の言い方に悪意や皮肉が感じられるたとえ。
<i>~に蜜(ミツ)あり、腹に剣(ケン)あり</i>
〔唐書(李林甫伝)〕
言葉は優しいが, 悪意を抱いているさま。
<i>~の下(シタ)から</i>
言い終わるか終わらないうちに。
「やせなければと言った~間食している」
<i>~の虎(トラ)は身を破(ヤブ)る</i>
⇒ 「口の虎」の句項目
<i>~の端(ハ)</i>
⇒ くちのは(独立項目)
<i>~は口、心は心</i>
言うことと心の内で思っていることとはまた別ものである。
「いかに~と三代相伝の君に敵し申ぞ/盛衰記20」
<i>~は心の門(モン)</i>
心に思っていることはとかく口に出して言いがちである。 ことばには十分に気をつけよ, の意。
<i>~は禍(ワザワイ)の=もと(=門(カド)・(モン))</i>
うっかり言った言葉が思いがけない禍を招くことがある。 不用意にものを言ってはならない。 口から高野。
<i>~塞(フタ)が・る</i>
驚いたりあきれたりして, ものが言えない。
「珍らしきがなかなか~・るわざかな/源氏(末摘花)」
<i>~も八丁(ハツチヨウ)手も八丁</i>
しゃべることも, することも非常に達者なこと。 口八丁手八丁。
<i>~を合わ・せる</i>
しめし合わせて同じ内容のことを言う。 口裏を合わせる。
<i>~を入・れる</i>
「くちばしを容(イ)れる」に同じ。
<i>~を掛・ける</i>
(1)誘う。 声をかける。 申し入れておく。
「二, 三人~・けておいた」
(2)芸娼妓などを座敷へ呼ぶ。
<i>~を固・める</i>
口止めをする。
「人に知らさせ給ふなとよくよく口をぞかためける/太平記 1」
<i>~を箝(カン)・する</i>
口をふさぐ。 口をつぐむ。
<i>~を緘(カン)・する</i>
「口を箝(カン)する」に同じ。
<i>~をき・く</i>
(1)話す。 しゃべる。
「一言も~・かない」
(2)仲介やあっせんをする。 とりもつ。
「嫁入りの橋渡し, 妾(メカケ)の周旋, 何でも~・くやうぢや/社会百面相(魯庵)」
(3)幅を利かせる。
「私は, 地下でも~・く者で御座るに依て/狂言・横座(虎寛本)」
<i>~を切・る</i>
(1)言い始める。 また, 大勢の中で最初に発言する。
「妻の方から先に~・った」
(2)缶や樽(タル)などの封を切る。
(3)手綱をゆるめて馬を出発させる。
「権三が馬は逸物(イチモツ)の~・つて角を入れ/浄瑠璃・鑓の権三(上)」
<i>~を極(キワ)めて</i>
ほめたりけなしたりするときに, 最大級の言葉を使うさまをいう。 ありったけの言葉で。
「~ほめる」「~ののしる」
<i>~を過ご・す</i>
(1)言わなくてもよいことを言う。 余計なことを言う。 言いすごす。
「兄弟子に口過ごす涎(ヨダレ)くりめを/浄瑠璃・菅原」
(2)生計をたてる。
「われ鍋にとぢ蓋の女夫(メオト)が~・しかね/浄瑠璃・ひらかな盛衰記」
<i>~を酸(ス)っぱくする</i>
何度も繰り返し意見する。 口を酸(ス)くする。
「~して言っても, 言うことをきかない」
<i>~を滑(スベ)ら・す</i>
言ってはいけないことや, 余計なことをついうっかりしゃべる。
<i>~を揃(ソロ)・える</i>
別々の人が皆同じ内容のことを言う。
「~・えて反対する」
<i>~を出・す</i>
他人の会話に割り込んでものを言う。 さし出口をする。
「横から~・すな」
<i>~を叩(タタ)・く</i>
口数多くしゃべる。 言いたい放題のことを言う。
「大きな~・く」
<i>~を垂(タ)・る</i>
自分を卑下した言い方をする。
「加判してもらへば五人組年寄に~・れ/浮世草子・織留2」
<i>~を衝(ツ)いて 出る</i>
すらすらと口から言葉が出る。 また, 無意識に思いがけない言葉が出る。
「次から次へと秀句が~出る」「悲痛な叫びが~出た」
<i>~を噤(ツグ)・む</i>
口をむすんでものを言わない。
<i>~を慎(ツツシ)・む</i>
余計なことや出過ぎたことを言わない。
<i>~を尖(トガ)ら・す</i>
唇を突き出して, 怒ったり口論したりする。 また, 不満そうな顔をする。
<i>~を閉ざ・す</i>
「口を閉じる」に同じ。
<i>~を閉・じる</i>
口をしめて話をしない。 口を閉ざす。
「彼はその件に関しては~・じたままだ」
<i>~を濁・す</i>
⇒ 言葉(コトバ)を濁す
<i>~を拭(ヌグ)・う</i>
〔盗み食いをした後で口を拭って知らん顔をする, の意から〕
悪いことをしていながら無関係を装う。 また, 知っていながら知らないふりをする。
<i>~を濡(ヌ)ら・す</i>
(1)「口を糊(ノリ)する」に同じ。
「尋中の教師に~・しても志は風教の木鐸(ボクタク)を以て任じ/社会百面相(魯庵)」
(2)少し飲食する。
「そんなら祝うて口濡らしていなしや/浄瑠璃・長町女腹切(上)」
<i>~を糊(ノリ)・する</i>
やっと生活をする。 口に糊する。 口を濡(ヌ)らす。
「雑文を書いて~・する」
<i>~を挟(ハサ)・む</i>
他人の会話に横から割り込む。
<i>~を引き垂(タ)・る</i>
口をへの字形にする。
「~・れて, 知らぬことよとて, さるがうしかくるに/枕草子 143」
<i>~を顰(ヒソ)・む</i>
声をひそめて話す。
「只御敵にこそ成るべかりけれと, ~・めけれども/太平記 39」
<i>~を開・く</i>
(1)口をあける。
(2)話し始める。 しゃべりだす。
(3)〔「口を開けば」の形で〕
何か物を言う。 発言する。
「~・けば自慢話だ」
<i>~を封・ずる</i>
秘密などを知っている人に, それを他人に言わないように頼む。 また, 脅したりして黙らせる。
<i>~を塞(フサ)・ぐ</i>
「口を封ずる」に同じ。
<i>~を守ること瓶(カメ)の如(ゴト)くす</i>
〔癸辛雑話〕
不用意な言葉が口から出ないように慎重にすることを, 瓶から水がこぼれないように注意するさまにたとえた語。
<i>~を毟(ムシ)・る</i>
誘いをかけてその気があるかどうかさぐる。 鎌をかける。
「夜がふけやせうと~・る也/柳多留 14」
<i>~を結・ぶ</i>
口を閉じる。 だまる。
<i>~を割・る</i>
白状する。 うちあける。
「容疑者が~・る」
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