娘むすめの寿命延じゅみょうのばし

あるところに女房にょうぼうがなくなって、一人娘ひとりむすめを一歩いっぽも外そとに出ださず、自分じぶん(父親ちちおや)以外いがいの人間にんげんとは話はなしもさせずに大事だいじに大事だいじに育そだてている男おとこがいた。

娘むすめが18歳さいになったとき、父親ちちおやのいない間あいだに旅たびの坊主ぼうずが一杯いちはいの水みずを飲のませてくれと頼たよんできた。 坊主ぼうずをかわいそうに思おもった娘むすめは、父親ちちおやとの約束やくそくを破やぶってその坊主ぼうずに水みずを手渡てわたした。 その時坊主ときぼうずは娘むすめの顔かおをみてたいそう驚おどろき去さっていった。

父親ちちおやが家いえに帰かえり、娘むすめはその坊主ぼうずの話はなしをした。 父親ちちおやは失礼しつれいな坊主ぼうずだと怒いかり後あとを追おいかけ坊主ぼうずを捕つかまえた。 坊主ぼうずはそこで、かつて自分じぶんにも同おなじ年頃としごろの娘むすめがいたこと、そしてその娘むすめが亡なくなったこと、自分じぶんの娘むすめと同おなじ死相しそうがその父親ちちおやの娘むすめにも出でていること、娘むすめは今年ことしの8月がつに亡なくなるだろうということを告つげた。

父親ちちおやは驚おどろき、坊主ぼうずに助たすけを求もとめた。坊主ぼうずは娘むすめに目隠めかくしをし、たくさんのご馳走ちそうと酒さけと一本いっぽんの杖つえを持もって1人ひとりで東ひがしの方向ほうこうに3日みっか3晩歩ばんあるかせ、行ゆき止どまりいる3人にんをもてなすよう言いい残のこし立たち去さる。

娘むすめは言いわれたとおりに旅立たびだち、3日みっか3晩歩みばんあるいたところで行ゆき止どまり、そこに3人にんの僧そうが一心いっしんに仕事しごとをしていたので、静しずかに箸はしや銚子ちょうしを持もたせご馳走ちそうした。3人にんの僧そうは黙もくもく々と食しょくべていたが、そのうちの1人ひとりがご馳走ちそうと娘むすめに気付きづいたので(それまで気付きづかず食たべていた) 、娘むすめは18歳さいで死しぬのは嫌いやだと懇願こんがんした。

3人にんの僧そうが手てもとの台帳だいちょうで娘むすめの名前なまえを調しらべると、確たしかに娘むすめは18歳さいの8月がつに死しぬ事ことになっていた。 ご馳走ちそうを食たべたのに願ねがいを聞きいてやらないのはかわいそうだとおもい、僧そうの1人ひとりが死亡年齢しぼうねんれい｢十八じゅうはち｣となっているところを｢八十八はちじゅうはち｣と書かき足たしてやった。娘むすめは、88歳さいまで生いきたという話はなし。