世界ランキング9位の日本は世界2位のアイルランドと28日午後、
静岡県袋井市のエコパスタジアムで対戦しました。
試合は前半13分にアイルランドが巧みなキックから先制トライを決め、20分にも同じような形で2つめのトライを奪いましたが、日本も田村優選手が3つのペナルティーゴールを決めて、9対12と競り合いに持ち込んで折り返しました。
後半は一進一退の攻防が続きましたが、日本はスクラムからの連続攻撃で素早くパスをつなぎ、最後は途中出場の福岡堅樹選手が18分にトライを奪って逆転に成功し、このあとのゴールも田村選手が落ち着いて決めて16対12としました。
日本はこのあと、アイルランドの強力フォワードにも力負けせず押し気味に試合を進め、31分に相手の反則から田村選手が、この試合4つ目のペナルティーゴールを決めてリードを7点に広げ、屈強な相手の攻撃を最後まで体を張って守り、19対12で勝ちました。
日本は、前回大会の南アフリカ戦に続き、今度は地元開催の大会で
またも歴史に残る番狂わせを演じ、1次リーグ2連勝で勝ち点を9に伸ばして初めてのベスト8進出に前進しました。
これでグループAは日本がトップに立ち、アイルランドは日本に敗れましたが、7点差以内だったためボーナスポイント1を獲得して
勝ち点6で2位となりました。
まだ1試合しか戦っていないサモアが、勝ち点5で3位で続き、ロシアとスコットランドは勝ち点0となっています。
日本は次はサモアと、来月5日に愛知県の豊田スタジアムで対戦します。
4年前に続く、歴史的な勝利をあげた日本代表。
優勝候補の一角、強豪のアイルランドに対し、驚異の守備の粘り強さを見せた見事な逆転勝ちでした。
スタジアムでは4万7813人が試合の行方を見守りました。
日本代表は序盤、守りに回る時間が多くなって、警戒していた相手とのキックの競り合いで負け、2つのトライを奪われました。
一方で、磨きをかけてきた1人の相手に2人でタックルする「ダブルタックル」をたびたび決めるなど、守備の粘り強さを見せました。
こうした中、ナンバー8のアマナキ・レレイ・マフィ選手が脇腹を痛めて、交代し、キャプテンのリーチ マイケル選手が出場。リーチ選手はたびたび前に出るとともに、日本は、密集での攻防で一歩も引かず、連続攻撃で、相手のペナルティーを誘い、司令塔のスタンドオフ、田村優選手が、45メートルほどのペナルティーゴールを決める場面もありました。
極めつけはスクラムで、世界トップクラスの相手を押し込んでペナルティーキックを獲得するなど、前半は世界トップクラスの強豪を相手に互角の戦いをみせました。
後半、日本は徐々に流れを引き寄せました。相手ゴール前のスクラムから連続攻撃をしかけ、センターのラファエレ ティモシー選手が、急きょメンバー入りして途中出場したウイングの福岡堅樹選手につないでついに逆転トライを奪いました。
この時のパスは日本が強化合宿で毎日のように練習してきた短いパスでした。
その後も日本はリーチ選手のタックルなどでアイルランドの攻撃をしのぎ、最後まで緊張の糸が切れることはありませんでした。
当時、世界ランキング3位の南アフリカ戦に勝って「世紀の番狂わせ」と
言われてから4年。開催国としての誇りを胸に世界2位で優勝候補の一角、アイルランドを倒し、日本のラグビーの歴史を変える勝利をあげました。
リーチ途中出場の効果
この試合、控えに回っていたキャプテンのリーチ マイケル選手は、
ナンバー8のアマナキ・レレイ・マフィ選手のけがで前半30分に途中出場し、体を張ったタックルや勢いのある突進でチームを奮い立たせました。
ジョセフヘッドコーチは、試合前、リーチ選手を控えにした意図について「苦しいときに経験値が高い選手が出てチームを落ち着かせることが大事」と話し、あえて精神的主柱を控えに回した理由を説明していました。
試合では、リーチ選手が途中出場してから選手たちは自信を増したように密集での攻防で一歩も引かず、その後はアイルランドに得点を許さず、ジョセフヘッドコーチのねらいがピタリとはまった形となりました。
試合後、ジョセフヘッドコーチは「思ったよりも早い投入だったが彼が途中出場したことでチームの自信を高めてくれた」と評価していました。
またリーチ選手は「勝つというメンタリティーがいちばん重要だったと思います。その点では80分間を通して意思統一できて、リーダー陣が力を発揮できたかなと思う。勝ったことで自信がついたし、次のサモア戦に向けてもよい準備をしたい」と話しました。
ジョセフHC「選手たちを誇りに思う」
日本代表のジェイミー・ジョセフヘッドコーチは試合後の会見で「自分たちがやりたいことに向かって信念を貫いたことが勝因だ。アイルランドは明らかに非常に質の高いチームだが、われわれは3年間かけて、この試合に準備してきた。選手たちがよくやってくれた」と振り返りました。
そのうえで「私たちがきょう見た光景は、およそ5万人の観客がいて、たくさんの方が日本のジャージを着てくれていた。ラグビーのコーチとして誇りに思うし、この出来事をうれしく思う」と喜びました。
そして「いちばんの焦点はタックルにいくことだった。キックでトライされ予期されないことがあったが、ゲームの中の重要なところで
本当に勇気のあるプレーが見られ、相手から非常に厳しいアタックを受けてもなんとか持ちこたえたえることができた。選手たちを
本当に誇りに思う」と話しました。
田村「ルーティンを大事に蹴った」
チームの攻撃をコントロールした司令塔でスタンドオフの田村優選手は「アタックで圧倒できた。相手が僕たちの速い攻撃について来られなかった。しっかり準備してプランをやり遂げれば、僕たちはどのチームにも勝てることを証明できた」と充実した表情で話していました。
また6回中、4回を成功させたペナルティーゴールについては「試合の最初はバテバテだったが徐々に体が動いてきて、ルーティンを大事にして蹴った。声援が力になったし、押してもらっている感じがした」と振り返りました。
そして「きょうは僕たちの精度が高くてやろうとしてきたことがすべてできた。ただ何も達成したわけではないので次の試合に向けて
しっかり準備したい」と話し、その先を見据えました。
福岡「最高の形のトライ」
ウイングの福岡堅樹選手は後半9分に途中出場して逆転のトライをあげ、試合終了間際にもピンチの場面で相手のパスをインターセプトしてゴール前までボールを運ぶなど、勝利に大きく貢献しました。
福岡選手は今月6日、南アフリカとのテストマッチで右足をけがした影響で、当初は試合のメンバーに入っていませんでしたが、ウイングのウィリアム・トゥポウ選手のけがで急きょ28日朝にメンバー入りが決まりました。
福岡選手は「メンバーに入る可能性があるとは伝えられていて、準備はしていた。自分たちがボールをキープしてアタックできていたときはしっかりと崩せて勢いを作れていた。競った展開になると確信していたので自分たち控えメンバーが出たときが重要になると思っていた」と話しました。
そのうえで「相手が完全に疲れているのが分かっていたので、自分の強みであるスピードで引き離して最後はトライを取りきるとねらっていた。チームみんながつないでくれた最高の形のトライです」と逆転のトライを笑顔で振り返りました。
また今後に向けては「復帰して最初の試合だったので、最後は走りきれず、悔しい思いがある。このあとの2試合でさらによいトライを期待してほしい」と話しました。
リーチ「細かいところにこだわった」
アイルランド戦で途中出場したリーチ マイケル選手は「やってきたことをすべて出せた。いつでも試合に出る準備はしていたし、出場したら必ずインパクトを残すという意識でいた」と振り返りました。
強豪チームに勝利した要因については「細かいところにこだわってプレーできました。勝つというメンタリティと、やってきたことを信じること、そしてチームとして意思統一ができたのも勝因です」と話していました。
そのうえで「切り替えて次のサモア戦にむけて準備していきたい」と気を引き締めていました。
姫野「狙っていたし上手くいった」
フランカーで先発した姫野和樹選手はリードした後半、アイルランドが猛攻をしかけてきた場面でディフェンスで強いプレッシャーをかけ、そこで相手はたまらずペナルティーを犯しました。
試合後、姫野選手は「この試合に向けてはフランカーとナンバー8がボールハンターとなって相手のブレイクダウンにどんどん絡んでいくプランだった。めちゃくちゃ狙っていたし上手くいった」と明かしました。
また初戦のロシア戦に続いてボールを運んだ回数もチームトップで「僕らは本当に身を削って誰よりも努力してきた。チーム全体が勝つという信念を持ってやれている。1次リーグ残り2試合も勝ちます」と力強く話しました。
トンプソン「みんな最高のプレー」
チーム最年長のトンプソン ルーク選手は「アイルランドは力が強くて厳しかったがみんな最高のプレーをした。いい結果でうれしい。ベスト8が目標で、まだ終わっていないので次の試合も集中してやっていきたい」と話しました。
堀江「恩返しできた」
堀江翔太選手は「2015年の南アフリカ戦の思い出を塗り替えられたという感じがしてうれしい。応援に来てくれた家族、ファン、トレーナーに恩返しができた」と話しました。
ラブスカフニ「全員を誇りに思う」
ゲームキャプテンを務めたピーター・ラブスカフニ選手は、試合後の記者会見で「選手やマネージメントスタッフも含めて23人以上の人たちが協力してくれてきょうの結果につながった。ディフェンス面では後半、たびたび攻撃されたが、すぐに立ち上がって戻り、思い描く形でやっていった。チーム全員を誇りに思う」と話しました。
中村「タックルで相手の流れ止められた」
強烈なタックルで勝利に貢献したセンターの中村亮土選手は「試合中は楽しくて、勝った瞬間はうれしかった。フィジカルも上回っていたのではないかと思う。守りで非常にプレッシャーをかけていたのをアイルランドは嫌がっていた。自分のタックルで相手の流れも止められたと思う。もっともっとこのチームがよくなるための働き方があると思う。そういう働きをしていきたい」笑顔で話しました。
アイルランドHC「エネルギーと俊敏さ すばらしかった」
アイルランドのジョー・シュミットヘッドコーチは「まずは日本のチームにおめでとうと言いたい。エネルギーと俊敏さがすばらしかった。われわれの負けを認めることはとても難しいことだが、日本は本当にすばらしかった。ビッグチームだ」と日本の勝利をたたえました。
敗因については「日本のプレーが私の想像を超えていたわけではない。質のよい選手たちが質のよいプレーをしたということだ。前半10分くらいまでは、自分たちがコントロールできていたが、どんどん時がたつにつれて、日本に酸素がいった気がする。私たちはペナルティーを何回も犯してしまったし、それによってプレーにためらいがでて徐々に相手の勢いに飲まれていったと思う。日本はディフェンスもすばらしくとても苦しい攻撃を強いられ、相手にボールを保持されてしまった」と話しました。
そのうえで「私たちはこのグループで追う立場になった。これからの2試合は非常に厳しい。どうにか2位以内に入らなければならない」と話し厳しい表情を見せていました。
10回目の対戦で初めてアイルランドに勝利
日本は強豪のアイルランドと今回が10回目の対戦で、過去は9戦全敗でした。
直近では、おととし6月に2試合行われたテストマッチで、22対50
13対35と圧倒されていましたが、地元、日本でのワールドカップという最高の舞台で、初めてアイルランドに勝ちました。
また、イングランドやウェールズ、それにアイルランドなどヨーロッパの強豪で争う「6か国対抗戦」に入っているチームに、日本がワールドカップで勝つのも初めてです。
アイルランド マリー「難しい試合だった」
アイルランドの中心メンバーで、スクラムハーフ、コナー・マリー選手は「日本はよくやったと思う。きょうの試合では、僕たちよりもよいできだったし、僕たちにプレッシャーをかけ続けた。僕たちにとって、これまでとは全く異なる試合結果となった。本当に難しい試合だった」と試合を振り返りました。
敗因については「日本のディフェンスに勢いがあり、日本のロックの選手のプレッシャーに何度も何度も苦しめられた。ボールをつないでも相手のタックルでスピードが出せず、自分たちはどんどん疲れていった。あと1回か2回、僕たちにもトライのチャンスがあったと思うが、正確性を欠いていた」と述べ、粘り強い日本の守りに苦しんだことを明かしました。
アイルランド リングローズ「ディフェンスがすばらしかった」
アイルランドの最初のトライを決めたセンターのギャリー・リングローズ選手は「負けるのはどんな試合でも残念なことだ。日本は開催国としてのプレッシャーもある中で、勝利に値するプレーをした。ランキングで日本とアイルランドを比べるのは間違いだ。それが意味をなさないことはわかっていたし、きょうは2つの強力なチームの力比べだった。そして僕たちは負けたんだ」と試合を振り返りました。
また「日本は、僕たちのスペースをついて、タフなプレーでプレッシャーをかけてきたし、ディフェンスがすばらしく、僕たちの攻撃をことごとく封じていた。だから後半は得点することが難しかった」と話しました。
そのうえで、リングローズ選手は「この試合を分析して反省し、次のロシア戦に向けてしっかり備え、チームとして向上していきたい」と話していました。
日本は過去最高の世界ランキング8位に
日本はアイルランドに勝ったことで世界ランキングが初めて8位になりました。
ラグビーの世界ランキングはワールドカップを主催する国際統括団体の「ワールドラグビー」が各チームの試合結果をポイントに換算していて、ワールドカップの期間中は各試合を終えるたびに更新しています。
日本は、優勝候補の一角、アイルランドに勝ったことで、最新のランキングが、9位から過去最高を更新する8位に上昇しました。