トルコ “クルド人勢力を排除 シリア難民の帰還先に”
シリア北部はアメリカと協力関係にあるクルド人勢力が実効支配していますが、この勢力を国内の分離独立闘争とつながるテロ組織とみなすトルコは、国境沿いから排除するためとして、9日午後からシリア北部で砲撃などの軍事作戦を開始しました。
さらに9日夜にはトルコ国防省が公式のツイッターで、「トルコ軍とシリア人の部隊が、ユーフラテス川の東側にむけて地上での軍事作戦に乗り出した」と投稿し、地上部隊による作戦を開始したと明らかにしました。
トルコはクルド人勢力を排除したうえで、国境沿いに安全地帯をつくり、内戦から逃れてトルコに居住しているシリア難民の帰還先にしたいと考えていますが、地上からの軍事作戦も開始されたことで戦闘の激化が懸念されます。
シリアのクルド人勢力「残忍な攻撃で侵略だ」
これに対してシリアのクルド人勢力はこれまでのトルコ軍の攻撃で、戦闘員3人と市民5人の合わせて8人が死亡し、数十人がけがをしたと発表しました。
クルド人勢力PYD=シリア民主統一党のスポークスマンはNHKの電話取材に対して、「残忍な攻撃で、侵略だ。クルド人だけでなく、シリア北部に住む人々全員に対する脅威だ」と述べて、トルコ側の対応を非難しました。
ISが勢い取り戻す 危うさも
シリア内戦の情報を集めているシリア人権監視団によりますと、シリア北部ではクルド人勢力主体の部隊「シリア民主軍」の管理のもとおよそ1万4000人のISの戦闘員が収容所で拘束されています。
このうち、シリアや隣国イラク以外の外国からの戦闘員はことし3月の時点で30か国以上の1800人余りにのぼるということで、外国人戦闘員の妻や子どもなど数千人もクルド人勢力によって収容されています。
トルコが軍事作戦を始めたことでクルド人勢力がその対処に追われ、IS戦闘員の処遇や収容所での管理に影響が出るおそれがあります。
トランプ政権はIS戦闘員の扱いについて「今後はトルコに責任がある」と主張していて、今後、戦闘員の拘束に支障が出ることになれば、ISが勢いを取り戻すことにつながりかねない危うさをはらんでいます。
トルコ、クルド人勢力、アメリカの関係は
「国を持たない最大の民族」とも呼ばれるクルド人は、中東のトルコ、イラン、イラク、シリアなどにまたがって、2500万人から3000万人が暮らすと言われています。トルコには最も多いおよそ2000万人が住み、全人口の20%前後を占めています。
トルコでは、武装組織のPKK=クルド労働者党が1980年代から国内で分離独立闘争を繰り広げてきました。治安当局との間でテロと掃討作戦の応酬が続いて双方の死者は合わせて4万人以上にのぼるとされ、トルコやアメリカはPKKをテロ組織に指定しています。
このPKKと深いつながりがあるとしてトルコが敵視するのが、国境を接するシリアのクルド人勢力、PYD=シリア民主統一党とその軍事部門であるYPGです。
内戦下のシリアで過激派組織IS=イスラミックステートが台頭すると、クルド人勢力が主力の部隊がアメリカが進めるISとの戦いで重要な役割を担います。
ISが2014年に「イスラム国家」の樹立を一方的に宣言すると、アメリカはイラクに続いてシリアでも空爆による軍事行動に踏み切りました。
ただ、大規模な地上部隊は派遣せず、シリアでは、クルド人勢力を地上でISと戦う戦力として訓練や武器の提供などの支援を行い、
連携を深めていきました。
ISの掃討とともにクルド人勢力がシリア北部で支配地域を広げたのに対し、国境を接するトルコは、自国の安全を脅かすものだとして2016年と去年、大規模な軍事作戦を行ったほか、国境沿いからクルド人勢力を排除して、シリア領内に武力衝突を避ける「安全地帯」を設置すると繰り返し主張していました。
EU ユンケル委員長 作戦停止を
EU=ヨーロッパ連合のユンケル委員長は9日、ヨーロッパ議会で、「トルコに対して、自制的に行動し、作戦を停止するよう求める。このような軍事行動はよい結果につながらない」と述べ、直ちに作戦を停止するよう求めました。
そのうえで、「トルコが安全地帯を設ける計画を実行しても、EUが資金を提供すると期待してはいけない」と述べ、EUとして支持しない考えを強調しました。
EUは、シリアからトルコを経由してEU域内に入る難民が2015年から急増したことからトルコと合意を交わし、トルコが難民を国内にとどめるのと引き換えに巨額の資金援助をしています。