J1の優勝争いは首位のヴィッセル神戸、2位のサンフレッチェ広島、3位のFC町田ゼルビアまでが勝ち点差「3」にひしめき、3チームすべてが優勝の可能性を残して、最終節を迎えました。
ここまでの勝ち点で上回るヴィッセルは、勝てばほかの結果に関係なく、2連覇が決まるという条件で、15位の湘南ベルマーレをホームに迎え、スタジアムには2万7000人あまりが詰めかけました。
ヴィッセルは前半26分、武藤嘉紀選手のヘディングシュートがゴールキーパーにはじかれますが、これを宮代大聖選手が押し込み、先制しました。
さらに43分には、味方のゴールキーパーからのロングボールを大迫勇也選手が頭で前線に落とし、このボールを受けた佐々木大樹選手の折り返しを武藤選手が合わせて、2対0とリードを広げました。
後半25分にも扇原貴宏選手が鮮やかなミドルシュートをゴールにたたき込んでベルマーレを突き放し、3対0で勝って、2年連続2回目の優勝を果たしました。
ヴィッセルはクラブ創設、30年目の節目のシーズンに天皇杯に続くタイトル2冠を達成しました。
試合後に行われたセレモニーで、キャプテンの山口蛍選手や大迫勇也選手などが優勝チームに贈られる皿を何度も掲げて、スタジアムに駆けつけたサポーターとともに喜びを分かち合いました。
セレモニーを終えた選手やスタッフはスタンドの前に集まり、吉田孝行監督がサポーターの座席の中に入って一緒に優勝チームに贈られる皿を掲げました。
そして1995年の阪神・淡路大震災と、復興の歩みをともにしクラブへの思いが込められた応援歌の「神戸賛歌」を選手やサポーターが歌い、スタジアム中に歌声が響き渡っていました。
===選手・監督の声===
武藤嘉紀選手「2連覇できて本当に幸せ」
きょうの試合でチーム2点目のゴールを決めた武藤嘉紀選手は「本当にここまで支えてくださったサポーターのおかげで、2連覇できて本当に幸せだ。1戦、1戦、今まで100%でやってきた結果が今につながった。苦しい思いもたくさんしたが、きょうまで何1つ妥協することなく、すべてをサッカーに捧げた結果だと思う。1人1人の責任の強さが神戸の強さの秘訣だ」と話しました。
きょうの試合については「引き分けとかをまったく考えず必ず勝つ気持ちで90分にすべてをかける気持ちで最初から全力で臨んだ。全員が試合に集中していたしこの1戦にかける思いがピッチに充満していたので、すばらしい結果になったと思う」と振り返りました。
宮代大聖選手「チームを勝たせる選手になっていきたい」
先制ゴールを決めた宮代大聖選手は「大迫選手や武藤選手にはまだまだかなわないが、もっともっと成長してチームを勝たせる選手になっていきたい」と話しました。
吉田孝行監督「みんなのハードワークに感謝したい」
吉田孝行監督は「選手が立ち上がりから90分間、前へ前へプレーしてくれた。これがヴィッセルのサッカーなので、これをやれば勝てるということを表現してくれた。選手たちに感謝したい。天皇杯を含めて今シーズンはより多くの勝利を手にした。みんなのハードワークに感謝したい」と話していました。
【解説】戦術の“再現性”と新戦力の“変化”
ヴィッセル神戸は吉田孝行監督のもとわずか2年半でクラブ史上最高の成績を成し遂げました。
背景には、監督が追求してきた戦術の“再現性”と新戦力がもたらした“変化”がありました。
2022年のシーズン途中に就任した吉田監督が採用してきた戦術は、敵陣の高い位置から守備でプレッシャーをかけ、ボールを奪ってカウンターを仕掛ける攻撃や、大迫勇也選手などキープ力のある前線の選手にロングボールを供給する攻撃など比較的シンプルです。
近年、強豪チームでも多く採用されるパスを多用し、ボールを保持しながら相手を崩す戦術とは異なります。
このシンプルな戦術を徹底し、高いクオリティーで“再現”できるようにすることで今シーズンも多くのチャンスと得点を生み出し勝利を重ねました。
攻撃陣では、吉田監督の就任時から所属する武藤選手が13得点、大迫選手が11得点をマークし強力な攻撃パターンでゴールを決めていきました。
その一方で、今シーズンは相手に戦術が研究されたことに加えて、シーズン中盤に攻守の要・山口蛍選手とディフェンダーの酒井高徳選手がけがで長期離脱し、失点が増加しました。
そうした影響もあって11試合を残して5位となり、連覇へ厳しい状況でした。
その中で、再浮上のきっかけとなったのがいずれも新加入でフォワードの宮代大聖選手とディフェンダーの広瀬陸斗選手の2人です。
主に左サイドでプレーすることが多い2人は、鮮やかなパスの連係から得点を生むなど新たな攻撃のパターンを生み出しました。
宮代選手は移籍1年目ながらここまで11得点とエースの大迫選手などに匹敵する得点能力を発揮。
広瀬選手は守備的な選手ながら2ゴール4アシストと攻撃にもアクセントを加えています。
戦術に変化が生まれたことで相手は守備の的を絞りづらくなりよりゴールにつながる攻撃が決まりやすくなる好循環が生まれたのです。
吉田監督は「2年半、一緒にやるなかで選手の中には自分が言わなくてもピッチで監督のように指示できる選手が多くなった。さらにバリエーションを生む新たな選手たちが入ったことで相手の出方によって戦術を変えられたのが大きい」と分析しました。
迎えたきょうの最終戦の先制点となった前半26分、酒井選手のクロスボールに武藤選手のヘディングでこぼれたところに広瀬選手と宮代選手が走り込んでいました。
最後は宮代選手が押し込んで先制し、まさに新戦力による変化が得点に結びついたシーンでした。
さらにこの試合の2点目はロングボールからの速攻で大迫選手から佐々木大樹選手へと縦につなぎ最後は武藤選手がゴールする再現性の高い得意のパターンでした。
新加入とベテランの戦力がうまくかみ合い、より攻撃力が増したヴィッセルのサッカーは、目標の“常勝クラブに”さらに近づくに違いありません。
創設30周年 震災から30年 3連覇へ
クラブ史上初めてリーグ連覇と天皇杯の“2冠”を成し遂げたヴィッセル神戸は、2025年にクラブ創設30周年と阪神・淡路大震災から30年となる節目のシーズンを迎えます。
震災の復興と歩みをともにしてきたクラブがJ1で3連覇達成を目指します。
ヴィッセルはクラブ創設後の初めての練習が1995年1月17日、阪神・淡路大震災が発生した日に予定されていました。
未曽有の大地震で練習どころではない状況にチームとして行った最初の活動は地域の人たちとの復興作業でした。
それでも、よくとしの2シーズン目にはJリーグ昇格を達成し、2001年には“カズ”こと三浦知良選手の加入や今の本拠地が新スタジアムとして完成したこともあり、シーズン最終戦には3万人以上の観客が集まるなど、復興に向かう神戸の人たちに明るい話題を届けました。
クラブ誘致に向けた「市民の会」を立ち上げたメンバーの益子和久さんは「震災という異常事態の中でもひとときの間でも現実を忘れてサッカーを一緒に応援することで市民は1つになった。復興がままならない中でもスタジアムをいっぱいにしたサポーターの大歓声は忘れられない」と当時を振り返っています。
その後、成績の低迷などから経営が行き詰まり、2003年にはJリーグで初めて民事再生法を適用することになりましたが、当時、インターネットビジネスで急成長していた「楽天」の持ち株会社が運営を引き継いだことが前進のきっかけとなりました。
チームには元スペイン代表のアンドレス・イニエスタ選手をはじめ、酒井高徳選手など経験豊富な選手が次々と加入しました。
チーム力も高まり、2020年の元日に決勝が行われた天皇杯と昨シーズンのJ1をいずれも初めて制すなど成長していきました。
近年、震災当時を経験していない選手やスタッフが増えていますが、兵庫県出身の吉田孝行監督は当時、高校3年生で「震災とともに立ち上がったチームの原点を忘れてはいけない。さらに未来に向かって神戸から世界で戦うような人材が出て行くことも大事」と話していました。
来年はクラブ創設30周年、さらに阪神・淡路大震災から30年という節目の年で迎えるヴィッセルは、“常勝クラブ”への一歩を踏み出しながら2009年の鹿島アントラーズ以来、史上2クラブ目となるJ1で3連覇を目指します。