この最終処分場の選定を巡っては、国が3年前に調査対象になりうる地域を示した地図を公表し、各地で説明会を開くなどして自治体へ理解を求めてきました。
この選定について、北海道の寿都町は地図上で町内の大半の区域が処分場の候補地として「好ましい」地域とされているうえ、調査を行った場合、国からの交付金が見込めるとして、片岡春雄町長が、第一段階となる「文献調査」への応募を検討していることを明らかにしました。
今後、応募を行い調査が決まった場合は、およそ2年間の文献調査が行われその後、自治体や住民などの理解が得られれば、現地でのボーリングによる掘削など選定に向けた詳しい調査分析が進められることになります。
町は、今月26日に町議会議員や漁協などの団体の代表との意見交換会を開いたうえで、来月中旬にも応募するか決めることにしています。
応募した場合、国が調査対象になりうる地域を示した地図を公表して以降、初めての自治体になります。
片岡町長は、「地域経済も厳しい状況にあるなか、調査の交付金を町づくりに生かすことを真剣に議論してもよいのではないかと考えた。また核のごみの処分に顔を背けることなく、住民の意見を聞きながら最終的には判断したい」と話しています。
自治体が調査を受け入れると、最初の文献調査で最大20億円が交付金として支払われることになっています。
一方、北海道は高レベル放射性廃棄物の研究施設の立地は認めているものの、2000年につくった条例で「高レベル放射性廃棄物は道内に受け入れがたい」などとして、最終処分場には慎重な考えを示しており、道では町の考えを確認するとしています。
片岡町長「交付金を町づくりに生かすことを議論」
文献調査を検討する理由について、寿都町の片岡春雄町長は「町の財政を考えると、5年や10年の範囲では、なんとかもつが、そのあとは、必ず資金が底をつくという危機感がある。新型コロナウイルスの影響で地域経済も厳しい状況にあるなか、調査の交付金を町づくりに生かすことを真剣に議論してもよいのではないかと考えた」と説明しました。
そのうえで「日本で原発を動かす以上、核のごみは、国内のどこかで処分する必要がある。寿都町が調査に応募した場合、他にも手を挙げる自治体が出てくるのではないか。そのなかで、最もふさわしい場所が選ばれるのが望ましいと思う」と述べました。
また、今後の対応について「まずは、町内の代表者と意見交換をしたうえで、一般の住民に説明する機会も設けたい。住民の理解が得られないまま、調査に応募することはない」と述べ、判断にあたっては、町民の意思を尊重する考えを示しました。
町民からはさまざまな声
寿都町が「核のごみ」の最終処分場の選定で、文献調査への応募を検討していることについて、町民からは慎重な対応を求める声があった一方、「嫌とばかりは言えない」という意見も出ていました。
30代の女性は「子どもがいるので、何かあったときのことを考えると、処分場ができるのは嫌です。町には、お金よりも子どもたちの安全を大事にしてほしい」と町に慎重な対応を求めました。
また、80代の女性も「交付金は魅力的ですが、処分場ができた場合、将来的に悪影響がないのか不安があります。町は、特に若い世代の意見を聞きながら検討を進めてほしい」と話していました。
一方、30代の男性は「子どもたちのことを考えると、不安がないわけではないが、原発を動かす以上、核のごみは、どこかが引き受けなければならない。今後のことを考えたら、嫌だとばかりも言えないのではないか」と話していました。
北海道 鈴木知事「速やかに考えを確認していく」
北海道は2000年、道北の幌延町に高レベル放射性廃棄物の処分技術を研究する施設を受け入れるにあたり、研究は認めるものの、条例で「高レベル放射性廃棄物は道内に受け入れがたい」などとして、最終処分場には慎重な考えを示しています。
寿都町が文献調査への応募を検討していることについて、鈴木知事は「条例は道議会での議論を踏まえ、将来とも道内に処分場を受け入れる意思がないという考えに立つもので、私としては条例を順守しなければならないと考える。道としては寿都町に対し、速やかに考えを確認していく」というコメントを出しました。
「核のごみ」とは
全国各地の原子力発電所では、運転をすると使用済みの核燃料が発生します。日本ではこの使用済み核燃料を化学的に処理する「再処理」を行って、再び燃料として使うためのプルトニウムなどを取り出す計画です。
ただ、この際、再利用できない高濃度に汚染された廃液や燃料の部材が残り、いわゆる「核のごみ」と呼ばれています。
極めて強い放射線を出し続けることから、国は数万年にわたって人が生活する環境から隔離する必要があるとして、地下300メートルより深くに埋める「地層処分」を行う方針です。
しかし、どこに処分場を作るのか決まらない状況が続いています。
選定の流れ
高レベル放射性廃棄物の地下処分を実施する国の認可法人NUMO=原子力発電環境整備機構によりますと、処分場を選ぶまでに3段階に分けて調査を行うとしていて、「文献調査」はその最初の段階です。
文献調査では地下に埋めて処分するのに適切な候補地を探るため、研究論文や地質のデータなどから地層の状況を把握することを目的にしています。
具体的には、該当する地域で火山や活断層がどう分布しているかや、経済的に価値がある鉱物資源がないかなどといったことを2年程度かけて調べるとしています。
仮に、文献調査の評価がまとまり、自治体などの理解を得ることができれば、「概要調査」と呼ばれる第2段階に進みます。この調査では4年程度かけて、地層を掘り出すボーリングを実施するなどして直接、地質や地下水などの状況を調べることになります。
続いて自治体などの理解が得られれば、第3段階の「精密調査」に入ります。この調査は14年程度かけることが想定され掘削した地層を精密に分析し、過去の火山や地震の活動を踏まえ、将来の地層の安定性や今後、掘削の対象となるかもしれない鉱物資源の有無などについて最終的な結果をまとめることになります。
この調査の最終結果を踏まえて、実際に処分場をつくるかどうかは住民の意見や自治体の考えなどを聞いたうえで、決定されることになります。
一方、自治体が調査を受け入れると、最初の文献調査で最大20億円、第2段階の概要調査で最大70億円が交付金として支払われることになっていますが、国はいずれの段階の調査も自治体の意見を十分に尊重し、反対する場合は次の調査に進むことはないとしています。
NUMO「関心持ってもらえるのはありがたい」
処分を実施する国の認可法人、NUMO=原子力発電環境整備機構によりますと、北海道寿都町が文献調査に応募した場合、2017年に調査対象になる可能性がある地域を示した全国地図「科学的特性マップ」を国が公表して以降、初めてとなるということです。
NUMOによりますと、自治体からの文献の調査の応募は、最終処分場の選定の方法が今の方式に変わる2014年の前に、高知県東洋町が2007年に応募した例がありますが、この時は住民の反対などで町がすぐに応募を撤回しました。
NUMOは「今のところ寿都町が文献調査への応募を検討しているとの情報は入っていない。最終処分場について、地域に関心を持ってもらえることはありがたく、今後も全国各地で理解活動を進めていきたい」とコメントしています。
寿都町の大部分はマップ上“濃い緑色”
処分を実施する国の認可法人、NUMO=原子力発電環境整備機構によりますと、北海道寿都町の大部分は「科学的特性マップ」では“濃い緑色”で示されているということです。
この濃い緑は、「科学的に好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高く、廃棄物の輸送面でも好ましい」とされるエリアです。
難航する最終処分場の選定
原子力発電所を運転することで発生する高レベルの放射性廃棄物を最終的にどう処分するかは原子力事業の最大の課題とされています。
日本では、2000年に最終処分に関する法律が施行され、処分場の選定作業が本格的に始まりました。
NUMO=原子力発電環境整備機構という処分を実施する国の認可法人が設立され、全国の市町村から候補地を募集し、国も、応募した自治体に最初の2年間だけでも最大20億円の交付金を支払う仕組みを設けました。
しかし、応募は、2007年に高知県の東洋町が唯一行っただけで、その応募は住民の反対などで撤回されました。
また、2006年には、滋賀県余呉町の町長が処分場の誘致を前提に調査に応募する方針を明らかにしましたが、「理解を示す住民の声は小さい」として、応募を断念しています。このほか、秋田県上小阿仁村や長崎県対馬市などでも処分場を誘致する動きがありましたが、いずれも住民の反対で応募するまでには至りませんでした。
候補地選びが難航する中、国の原子力委員会は2012年、国民の合意を得るための努力が不十分だとしたうえで、国が前面に出て候補地選びを行うべきだとする見解をまとめました。
これを受けて国は2014年、自治体の応募を待つ従来の方式に加えて、科学的に有望な地域を示したうえで複数の自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れる方式を取り入れることにしました。
その第一歩として2017年7月に公表されたのが、「科学的特性マップ」と呼ばれるものでした。「科学的特性マップ」は、処分場の選定に向けて将来、調査対象になる可能性がある地域を示した全国地図です。
マップは、処分場としての適性が地域ごとに色分けされていて、このうち、近くに火山や活断層がないなどの科学的な基準から処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」は薄い緑色と濃い緑色で示されています。
この緑色の地域は面積にして国土のおよそ3分の2にのぼっています。中でも、海岸から20キロ以内を目安とした地域は、廃棄物の海上輸送に好ましいとして濃い緑で示され、一部でも含まれる市区町村はおよそ900に上ります。
国やNUMOは、自治体に調査の受け入れの判断を迫るものではないとしたうえで、マップを公表してから全国各地で市民向けの説明会を開き、核のごみの処分に対する理解を深めようとしてきました。
ただ、説明会を開始してすぐの2017年10月には、NUMOから委託を受けた会社が大学生に謝礼などを約束して動員したことや、NUMO職員が電力会社の社員に参加を呼びかける不適切なメールを送っていたことが明らかになり、公平性に大きな疑念が生じる事態になりました。
これを受けて説明会は一時、中断され、NUMOは、運営を原則、直接行うなどやり方を見直しました。その後説明会は再開され、3年間で171回実施されてきました。
高レベル放射性廃棄物はすでに発生していて、NUMOによりますと、使用済み核燃料を再処理したあとにでる高レベルの廃液をガラスで固めたものが現在、青森県六ヶ所村と茨城県東海村の施設で合わせておよそ2500本一時保管されています。