ドイツ ショルツ首相しゅしょう 信任しんにん投票とうひょうで「不信任ふしんにん」 議会ぎかい解散かいさんへ

ドイツでは11月つき上旬じょうじゅん、3党とうからなるショルツ首相しゅしょうの連立れんりつ政権せいけんが財政ざいせい政策せいさくをめぐる意見いけんの対立たいりつで崩壊ほうかいし、16日にち、選挙せんきょを前倒まえだおしして行おこなうため、首相しゅしょうの信任しんにん投票とうひょうが連邦れんぽう議会ぎかいで行おこなわれました。

その結果けっか、不信任ふしんにんが394票ひょうで過半数かはんすうを上回うわまわり、ショルツ首相しゅしょうは不信任ふしんにんとなりました。

これを受うけてシュタインマイヤー大統領だいとうりょうが近ちかく議会ぎかいを解散かいさんし、来年らいねん2月つき23日にちに議会ぎかい選挙せんきょが行おこなわれることになりました。

ショルツ政権せいけんは連立れんりつ与党よとうの意見いけん対立たいりつが表面ひょうめん化かして支持しじが低下ていかし、公共こうきょう放送ほうそうZDFの最新さいしんの世論せろん調査ちょうさでは、ショルツ首相しゅしょうの与党よとうで中道ちゅうどう左派さはの社会しゃかい民主みんしゅ党とうは15％にとどまる一方いっぽう、最大さいだい野党やとうで中道ちゅうどう右派うはのキリスト教きりすときょう民主みんしゅ・社会しゃかい同盟どうめいが33％で首位しゅいに立たっていて、政権せいけん交代こうたいが実現じつげんするかが焦点しょうてんです。

連邦れんぽう議会ぎかいでは各党かくとうが演説えんぜつし、ショルツ首相しゅしょうは、「政府せいふの最もっとも重要じゅうような決定けっていが常つねに大おおきな意見いけんの対立たいりつを伴ともなっていたことも国くにへの信頼しんらいを低下ていかさせた」として、みずからの政権せいけんの対応たいおうが政治せいじ不信ふしんを深ふかめたと振り返ふりかえる一方いっぽうで、社会しゃかい保障ほしょうを充実じゅうじつしウクライナへの支援しえんを継続けいぞくすべきだとして、与党よとうへの支持しじを訴うったえました。

これに対にたいして、キリスト教きょう民主みんしゅ・社会しゃかい同盟どうめいの首相しゅしょう候補こうほのメルツ氏しは、「ショルツ首相しゅしょうはこの国くにを戦後せんご最悪さいあくレベルの経済けいざい危機ききに陥おとしいれた。首相しゅしょうとして機会きかいを与あたえられたのに生いかせなかった」と述のべショルツ首相しゅしょうがドイツ経済けいざいの低迷ていめいも招まねいたとして厳きびしく批判ひはんし、政権せいけん交代こうたいへの意欲いよくを示しめしました。

ヨーロッパでは、ドイツだけでなくフランスでも政治せいじが停滞ていたいしていて、EU＝ヨーロッパ連合れんごうの中心ちゅうしん的てきな役割やくわりを担になう2つの国くにのうち、まずはドイツが選挙せんきょを経へて政治せいじの混乱こんらんから抜け出ぬけだせるかが注目ちゅうもくされます。

【解説かいせつ】政権せいけん崩壊ほうかい “最悪さいあくのタイミング” の受け止うけとめも

ベルリン支局しきょく 田中たなか顕一けんいち支局しきょく長ちょう

ショルツ首相しゅしょうは不信任ふしんにんとなりましたが、ドイツの仕組しくみでは政治せいじ空白くうはくを避さけるため、選挙せんきょを経へて後任こうにんが決きまるまでは引き続ひきつづき首相しゅしょうにとどまります。ただ連立れんりつが崩壊ほうかいし、少数しょうすう政権せいけんとなる中なかで政治せいじの停滞ていたいが続つづくのは避さけられない情勢じょうせいです。

ヨーロッパでは、ショルツ政権せいけんの崩壊ほうかいは最悪さいあくのタイミングで起おきたという受け止うけとめも出でています。

というのも各国かっこくは、アメリカのトランプ次期じき大統領だいとうりょうがヨーロッパに対にたいして貿易ぼうえきや国防こくぼう費ひの支出ししゅつ、さらにはウクライナへの支援しえんなどさまざまな分野ぶんやで高たかい要求ようきゅうを突つきつけてくると身構みがまえているからです。

EUの中核ちゅうかくを担になうドイツが政治せいじの停滞ていたいに陥おちいることは、トランプ氏しと協力きょうりょくのあり方ありかたを模索もさくしていく上うえで痛手いたでであることは間違まちがいありません。

さらにドイツとともにヨーロッパをけん引けんいんするフランスも、首相しゅしょうの交代こうたいが相次あいつぎ不安ふあん的てきな政権せいけん運営うんえいを余儀よぎなくされています。両国りょうこくの失速しっそくの背景はいけいにはロシアのウクライナ侵攻しんこう後ご、深刻しんこく化かした経済けいざい的てきな苦境くきょうもあります。

この3年ねん近ちかくの間まで国民こくみんの負担ふたんと不満ふまんは強つよまり、先行さきゆきへの不安ふあんは募つのるばかりでした。これから本格ほんかく化かする議会ぎかい選挙せんきょでドイツが政治せいじの安定あんていを取り戻とりもどすことができるか。選挙せんきょの行方ゆくえには、大おおきな関心かんしんが集あつまっています。

ショルツ政権せいけん これまでの経緯けいいは

3年ねん前まえの12月つきに発足ほっそくしたショルツ政権せいけんは、ショルツ首相しゅしょうが所属しょぞくする中道ちゅうどう左派さはの社会しゃかい民主党みんしゅとう、気候きこう変動へんどう対策たいさくを前面ぜんめんに掲かかげる緑の党みどりのとう、企業きぎょう寄よりの政策せいさくを重視じゅうしする自由じゆう民主みんしゅ党とうからなる3党とうの連立れんりつ政権せいけんです。

政策せいさく理念りねんの違ちがいはありますが、それまで16年ねん続つづいたメルケル政権せいけんからの変化へんかを生み出うみだすとアピールしました。

政権せいけん発足ほっそく直後ちょくごには、ロシアのウクライナ侵攻しんこうが始はじまりそれまでドイツが慎重しんちょうだった紛争ふんそう地ちへの兵器へいきの供与きょうよやロシア産さん天然てんねんガスの輸入ゆにゅう停止ていしに伴ともなうエネルギー危機ききの回避かいひなど難むずかしい課題かだいに対処たいしょし、評価ひょうかする声こえもありました。

また、去年きょねん4月つきには、世論せろんの賛否さんぴが分わかれる中なか、稼働かどうしていた3基きの原子力げんしりょく発電はつでん所しょを停止ていしし、「脱だつ原発げんぱつ」を実現じつげんさせました。

その後そのごは、住宅じゅうたくに新設しんせつする暖房だんぼう設備せつびに再生さいせい可能かのうエネルギーの利用りようを義務ぎむづけようとしましたが、国民こくみんに大おおきな金銭きんせん的てき負担ふたんを強しいていると批判ひはんされて反発はんぱつを買かい、支持しじが下落げらくし始はじめます。

そして、リベラル色しょくの強つよい緑の党みどりのとうと、企業きぎょう寄よりの政策せいさくを重視じゅうしする自由じゆう民主みんしゅ党とうの対立たいりつが表面ひょうめん化かして政治せいじが停滞ていたいし、政権せいけんをまとめられないショルツ首相しゅしょうにも厳きびしい評価ひょうかが目立めだつようになります。

さらに、去年きょねん11月つきには、過去かこの補正ほせい予算よさんで新型しんがたコロナ対策たいさくの資金しきんの一部いちぶを翌よく年度ねんど以降いこうの気候きこう変動へんどう対策たいさくなどに転用てんようしたことが財政ざいせい規律きりつを守まもる観点かんてんから、憲法けんぽう裁判所さいばんしょに違憲いけんだと判断はんだんされ予算よさん案あんを再さい検討けんとうする異例いれいの事態じたいが起おき、農家のうかへの減税げんぜいなどを急きゅうきょ打ち切うちきったことで大だい規模きぼな抗議こうぎ集会しゅうかいも起おきて混乱こんらんも生しょうじました。

同時どうじにドイツの屋台骨やたいぼねである経済けいざいは安価あんかなロシア産さんガスが途絶とだえたことによるエネルギー価格かかくの高騰こうとうや中国ちゅうごく経済けいざいの不振ふしんに伴ともなう輸出ゆしゅつの減少げんしょうなどで低迷ていめいしていきます。

ドイツ政府せいふによりますと去年きょねんのGDP＝国内こくない総そう生産せいさんの伸のび率りつはマイナス0.3％で、ことしもマイナス0.2％と予想よそうされていて、経済けいざいの低迷ていめいで「欧州おうしゅうの病人びょうにん」と呼よばれていた2002年ねんと2003年ねんにかけて以降いこう初はじめての2年ねん連続れんぞくのマイナス成長せいちょうとなる可能かのう性せいが高たかまっています。

こうした中なか、11月つき上旬じょうじゅん、ショルツ政権せいけんは、来年度らいねんどの予算よさん案あんに向むけ財政ざいせい規律きりつを守まもる国くにのルールを一時いちじ的てきに停止ていしするかを巡めぐり意見いけんの対立たいりつが解消かいしょうできず、財政ざいせい規律きりつを重視じゅうしする自由じゆう民主党みんしゅとうが連立れんりつから離脱りだつして崩壊ほうかいしました。

その後そのごに行おこなわれた公共こうきょう放送ほうそうARDの世論せろん調査ちょうさでは「政権せいけんに満足まんぞく」と答こたえた人ひとは14％にとどまり、有力ゆうりょく紙しの南みなみドイツ新聞しんぶんは「政権せいけんは最悪さいあくのタイミングで崩壊ほうかいした」として、アメリカでトランプ次期じき大統領だいとうりょうが返り咲かえりざく中なかで政治せいじ空白くうはくを生しょうじさせたと批判ひはん的てきに伝つたえています。

識者しきしゃ「リーダーの役割やくわりを果はたせなかった」

ドイツ政治せいじに詳くわしいハノーバー大学だいがくの研究けんきゅう員いん、フィリップ・ケーカー氏しは、ショルツ政権せいけんについて「多おおくの有権者ゆうけんしゃが覚おぼえているのは政権せいけん内部ないぶの対立たいりつだろう。これまでのドイツの政府せいふでは連立れんりつ与党よとうの間まで衝突しょうとつが起おきた場合ばあい、人目ひとめを避さけて処理しょりされてきた」として、対立たいりつが表面ひょうめん化かしたことが国民こくみんの支持しじを失うしなった最大さいだいの理由りゆうだと分析ぶんせきしています。

また、ショルツ首相しゅしょうについて「周囲しゅういが燃え上もえあがっていても非常ひじょうに冷静れいせいでいて、論理ろんり的てきな対応たいおうができる。そのリーダーシップのスタイルはほかの人ひとにないものだが、利害りがいが対立たいりつする今回こんかいの連立れんりつ政権せいけんのように複雑ふくざつな状況じょうきょうではうまく機能きのうしない」として、リーダーの役割やくわりを果はたせなかったと指摘してきしました。

そして、最大さいだい野党やとうのキリスト教きりすときょう民主みんしゅ・社会しゃかい同盟どうめいが世論せろん調査ちょうさで首位しゅいに立たつ理由りゆうについて「有権者ゆうけんしゃにとって重要じゅうようなのは政権せいけん交代こうたいであり、明確めいかくな方向ほうこうの転換てんかんだと思おもう。キリスト教きょう社会しゃかい・民主みんしゅ同盟どうめいは、有権者ゆうけんしゃが重要じゅうよう視ししている経済けいざいと移民いみんの問題もんだいに対にたいして、非常ひじょうに有能ゆうのうな党とうだとみられている」と分析ぶんせきし、勝利しょうりする可能かのう性せいが高たかいとの見方みかたを示しめしています。

さらに今回こんかいの選挙せんきょの意義いぎについて、「EU＝ヨーロッパ連合れんごうの政治せいじの大だい部分ぶぶんはドイツのイニシアチブと支援しえんに依存いぞんしている。選挙せんきょはドイツに安定あんていをもたらすだけでなくヨーロッパにとっても重要じゅうようだ。フランスに目めを向むければ政権せいけんが崩壊ほうかいし新あらたな政権せいけんの構築こうちくが難むずかしくなっている。ドイツが存在そんざい感かんを示しめし、指導しどう力りょくのある政府せいふを持もつことがとても重要じゅうようだ」と話はなし、EUにも影響えいきょうを及およぼすものとして選挙せんきょの行方ゆくえに注視ちゅうしする必要ひつようがあると強調きょうちょうしました。

また、ケーカー氏しは今回こんかいの選挙せんきょでは、どの党とうも単独たんどくで過半数かはんすうの議席ぎせきを獲得かくとくするのは難むずかしいとみられることから、選挙せんきょ後ごの連立れんりつ交渉こうしょうが安定あんていした政権せいけんを作つくれるかどうかを左右さゆうするとも指摘してきしています。

首相しゅしょう不信任ふしんにんで選挙せんきょ前倒まえだおしは19年ねんぶり

ドイツでは憲法けんぽうにあたる基本きほん法ほうで、首相しゅしょうが議会ぎかい選挙せんきょを前倒まえだおしして実施じっしするため、議会ぎかいに信任しんにん投票とうひょうを求もとめることができるとされています。

投票とうひょうの結果けっか、首相しゅしょうが不信任ふしんにんとなれば、首相しゅしょうは大統領だいとうりょうに議会ぎかいの解散かいさんを提案ていあんします。

そして、大統領だいとうりょうは21日にち以内いないに議会ぎかいを解散かいさんし、解散かいさんから60日にち以内いないに選挙せんきょが行おこなわれます。

ドイツで首相しゅしょうが不信任ふしんにんとなり選挙せんきょが前倒まえだおしして実施じっしされるのは、2005年ねんのシュレーダー首相しゅしょう以来いらい19年ねんぶりです。

また、首相しゅしょうと閣僚かくりょう、それに解散かいさんされた議会ぎかいの議員ぎいんは、選挙せんきょを経へて新あらたな議員ぎいんが選えらばれるまでその職しょくにとどまり続つづけます。

このため政府せいふは、ショルツ首相しゅしょうも政権せいけんもこれまで通とおり機能きのうすると説明せつめいしています。

しかし、もともとは3党とうで連立れんりつを組くんでいたショルツ政権せいけんの議席ぎせき数すうは1党とうが離脱りだつして過か半数はんすうを下回したまわり、少数しょうすう与党よとうとなっていて、議会ぎかい選挙せんきょを経へて新あらたな政権せいけんが発足ほっそくするまで政治せいじの停滞ていたいは避さけられない情勢じょうせいです。

低迷ていめいする経済けいざいの立て直たてなおしへの期待きたい感かんも

ドイツの経済けいざい界かいからは安定あんていした政治せいじを行おこなう政権せいけんが速すみやかに発足ほっそくし、低迷ていめいする経済けいざいの立て直たてなおしが進すすむことへの期待きたい感かんも出でています。

ドイツ南部なんぶで暖房だんぼうや空調くうちょう設備せつび用ようのファンを製造せいぞうするメーカーのCEOもそのひとりです。

ドイツでは経済けいざいの低迷ていめいに伴ともない、新あらたなビルや住宅じゅうたくなどの着工ちゃっこう件数けんすうが落ち込おちこんでいて、会社かいしゃのファンの需要じゅようも落ち込おちこんでいます。

さらに、会社かいしゃのファンは再生さいせい可能かのうエネルギーを利用りようする新あらたな暖房だんぼう設備せつびにも使つかわれますが、ショルツ政権せいけんが設置せっちを義務ぎむづけようとして国民こくみんの反発はんぱつを買かったことで、この分野ぶんやでも売り上うりあげが落おちています。

ことし3月つきまでの1年間ねんかんの売り上うりあげは前まえの年としから5％あまり減少げんしょうし、工場こうじょうの生産せいさんラインの一部いちぶを停止ていししたことに加くわえ、人件じんけん費ひを抑おさえるため、国内こくない6300人にんの従業じゅうぎょう員いんの45％については、勤務きんむ時間じかんも週しゅう5日にちから4日にちに減へらしています。

ガイスデルファーCEOは、ショルツ政権せいけんでは政治せいじの停滞ていたいや混乱こんらんが目立めだち、不透明ふとうめい感かんが強つよまっているとしたうえで、「国くにが安定あんていしていれば国民こくみんは政府せいふを信用しんようして消費しょうひを増ふやし、経済けいざいが上向うわむくが、いまは多おおくの人ひとが先行さきゆきがわからず慎重しんちょうになっている。安定あんていした政府せいふが非常ひじょうに重要じゅうようで、政権せいけん交代こうたいが必要ひつようだ」と話はなしていました。

さらに、「ドイツではエネルギー価格かかくの高騰こうとうや手続てつづきの複雑ふくざつさなどの問題もんだいがビジネスを難むずかしくしていて『欧州おうしゅうの病人びょうにん』と呼よばれた2000年代ねんだいよりも状況じょうきょうは深刻しんこくだ。課題かだいが多おおいこの時ときにドイツは政府せいふがない状態じょうたいになってしまった。非常ひじょうに難むずかしく危険きけんだ」と述のべ、政権せいけんの崩壊ほうかいで政治せいじ空白くうはくが生しょうじることへの懸念けねんもあらわにしていました。