国は長年、こうした無給医の存在を認めてきませんでしたが、先月末に、全国50の大学病院に2191人の無給医が確認できたと初めて公表しました。
この調査では慶應義塾大学や東京大学など5つの大学にある7つの病院が、所属する1304人について回答を保留しました。
公表から1か月が経過し、今月、一部の医師に支払いを決めた東京女子医科大学を除く6つが今も調査中としていますが、大学病院側が適切な調査を行っているのか、不安を訴える声も出ています。
取材に応じた慶應義塾大学病院で働く医師は、「自分も周囲も、調査を受けたことは一度もなく改善に向けた動きもありません」と指摘しています。
これに対し、大学側は「自分で希望して診療技術などを学んでいる非常勤の医師については、調査中だ。大学院生の多くは、調査の対象としていないが、診療した場合は、給与を支払っている」としています。
文部科学省は、「大学院生も、診療に従事している場合、原則、調査対象とすべきだ。調査は継続的に追跡し、結果がまとまったら公表したい」としています。
慶應大病院 若手医師「誠実な対応を」
「調査中」と回答した大学病院の1つ、慶應義塾大学病院で働く30代の大学院生の医師です。
男性は、研修医を経たあと、より専門的な研究をしようと大学院に進学しましたが、研究する時間はほとんどなく、フルタイムで診療するよう、病院から指示されたといいます。
サインした契約書に書かれていたのは、週1日4時間分に相当する3万円だけが毎月支払われるという内容でした。
男性は、「声を上げると卒業させてもらえないなど不利益を被るおそれがあり、みんな我慢していますが、3万円では生活に困るので休みの日にアルバイトに行かざるを得ず、常に疲労しています。投薬の日数を間違えそうになるなどミスが増えていると感じています」と話しています。
さらに、大学が調査中としていることについて、男性は、「大学では、ほとんどの院生が自分と同じように対価の支払われない診療を義務づけられています。自分も周囲の院生も調査を受けたことは一度もなく、改善に向けた動きもありません。大学は誠実に対応してほしいですし、行政も指導してほしいです」と訴えていました。
取材に対し慶應大学は
慶應義塾大学は、病院に勤める200人の医師について、国には「調査中」と回答しています。
大学は取材に対し、「200人は、他の大学や病院などに本務を有する非常勤の医師で、大学としては、本人が診療技術や手技、知識の研さんを希望しているので無給で任用しているが、弁護士などと相談して適切な対応を検討している。大学院生の多くは、調査の対象としていないが、診療した場合は、給与を支払っている」としています。
「調査中」と回答のほかの大学は
5つの大学にある7つの大学病院のうち、135人を「調査中」としていた東京女子医科大学病院は、今月、一部の医師については過去にさかのぼり、給与を支払うことを決めたということです。
日本大学は3つの大学病院にいる683人の医師について「調査中」としていますが、「調査対象の人数が多いため時間がかかっているが、10月ごろを目途にまとめる予定です」とコメントしています。
明海大学は歯学部の付属病院47人について「調査中」としていますが、「給与を支払う方向で検討中だが具体的な内容について精査中であり、回答に時間がかかっている」としています。
239人を「調査中」としている東京大学医学部付属病院は、関係者によりますと、「勤務実態を正確に確認するため個々の医師に対し再調査を行っているため、時間がかかっている」ということです。
無給医とは
無給医は1960年代に大学紛争のきっかけになるなど、大学病院の古い体質を象徴する存在でした。
しかし、その後待遇などの改善が進められたとして、国も平成24年以降は「存在しない」としてきました。
医師を目指す学生は医学部で6年間学んだあと、国家試験を受けて医師免許を取得します。
医局は教授を頂点とし、准教授、講師、助教と連なるピラミッドのような構造となっていて、最も下に位置する大学院生や医局員などの若手は、医師として診療しても無給だったり、わずかな給与だったりすることがあるということです。
しかし、若手医師は、専門医や医学博士の資格などを取るためや、関連病院に出向する際の人事権などを握られているため、みずからの処遇に対して不満の声を上げづらく、長く問題が顕在化しなかったとみられます。