新型コロナウイルスの感染拡大で失業者が急増するなか、事件が人々の不満を増幅させたという見方も出ていて、収束の見通しは立っていません。
アメリカ中西部ミネソタ州のミネアポリスで、白人の警察官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件から6日目となる5月30日から31日にかけて、抗議デモはさらに拡大し、ニューヨーク・タイムズによりますと、これまでに全米の少なくとも75の都市でデモが行われたということです。
このうち、西部カリフォルニア州のロサンゼルスでは連日、店舗での略奪が起きているほか、首都ワシントンのホワイトハウスの近くでは、デモ隊と警察が衝突し、警察が警告弾を使用しました。
また、ニューヨークでは、マンハッタン中心部の観光名所、タイムズスクエアなど複数の場所で抗議デモが行われ、ニューヨーク市によりますと、これまでに少なくとも47台の警察車両が壊され、警察官33人がけがをしたほか、300人以上が拘束されました。
こうした事態を受けて少なくとも25の都市で夜間外出禁止令が出されているほか、10以上の州で、州兵が現場に出動しました。
これだけ多くの都市で一斉に夜間外出禁止令が出されたのは、人種差別の撤廃を訴えたキング牧師が暗殺された1968年以来だと伝えられています。
アメリカでは、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で失業保険の申請が4000万件を超えるなど、経済状況の悪化が深刻で、事件が人々の不満を増幅させたという見方も出ていて、事態収束の見通しは立っていません。
警察車両がデモ参加者はねる
ニューヨーク市のブルックリンでは30日に起きた抗議デモで、警察車両が、進行を阻んでいた参加者に向かって急発進して、数人がはね飛ばされる事態が起きました。
その瞬間をとらえた映像には、まず、数人のデモ参加者が道路上で柵を持って警察車両の進行を阻みながら車に向かって一斉に物を投げつける様子が映っています。
このあと、警察車両が急発進し、数人がはね飛ばされ、悲鳴があがります。
この映像は31日、アメリカのテレビ局などで繰り返し伝えられていて、対応を問われたニューヨークのデブラシオ市長は31日の会見で、「このような事態は見たくなかったし、今後も見たくはない。警察官がなぜこの行動を取ったのかや他に方法がなかったのかなど全面的な調査を行う」と述べて、調査に乗り出すことを明らかにしました。
ニューヨークでは345人拘束
ニューヨークでは30日、抗議デモの参加者の一部が暴徒化し、警察によりますと警察官33人がケガをしたほか、47台の警察車両が壊され、拘束者は345人に上りました。
一夜明けた31日、デモが行われたマンハッタン中心部の現場には、窓ガラスが割られ、焼かれた警察車両がそのままになっていたほか、周辺の飲食店などでも窓ガラスが割られ、店内にガラス片が散らばっていました。
感染拡大を防ぐニューヨーク州の措置で営業を休止したままのセントラルパーク近くにある大型デパートは、今回の抗議デモを受けて、ショーウインドーが割られないように木の板で覆う対策をとっていました。
ワシントンでもデモが一部暴徒化
首都ワシントンでは30日、抗議デモの参加者の一部が暴徒化して、警察とのあいだで衝突が起きました。
一夜明けた31日、ホワイトハウス近くの建物の壁には、ペンキで、「黒人にも人権があると何度言ったら分かるのか」などと、大きな落書きがされていました。
また、沿道にある駐車用のメーターがなぎ倒されていました。建物の所有者らは、壁の落書きを消したり、割れたガラスを片づけたりする作業に追われていました。
また、30日のデモでは一部の参加者が沿道の石を投げつけて窓ガラスを割ったことから、今後のデモに備えて、沿道の石を取り除いたり、建物の窓枠に防護用の木の板を打ちつけたりしていました。
大手企業はSNS通じて事件に抗議
アメリカで白人の警察官に拘束された黒人男性が死亡した事件を受けて、抗議デモが全米各地に広がる中、アメリカの大手企業の間でもソーシャルメディアを通じて事件に抗議し、黒人社会との連帯を示す動きが相次いでいます。
このうち、アメリカの大手スポーツ用品メーカーの「ナイキ」は、ツイッターやインスタグラムに1分間の動画を掲載しました。
動画には黒い背景に白い文字で「人種差別に背を向けないで」とか「無実の命が奪われることを認めてはいけない」といったメッセージが表示されています。
また、動画配信大手のネットフリックスは「沈黙することは共犯になることです。黒人の命は大切です。私たちは黒人のメンバー、従業員、クリエーターなどのために声を上げる義務があります」というメッセージを投稿しました。
アマゾン・ドット・コムの動画配信サービス、「プライム・ビデオ」も「私たちは、黒人社会、そして人種差別や不公平と闘う仲間たちと共にあります」などとする声明を掲載しました。
さらにツイッター社の公式アカウントでは、プロフィール画面の色が青から黒に変わり、鳥のアイコンも黒になっていて、「黒人の命は大切」という意味の「#BlackLivesmatter」(ブラック・ライヴズ・マター)という、ハッシュタグを載せています。
また、ツイッター上では「息ができない」という意味の「#ICantBreathe」(アイ・キャント・ブリーズ)というハッシュダグを付ける動きが広がっています。
これは白人の警察官に拘束された黒人の男性が首をひざで押さえつけられた際に訴えていたことばで、この様子をとらえた映像がインターネット上に掲載されて以降、事件に抗議する人たちの合言葉となっています。
歌手らは差別根絶呼びかけ
アメリカで白人の警察官に取り押さえられた黒人男性が死亡した事件を受けて、世界的な人気歌手らが相次いでメッセージを投稿し、人種差別の根絶を訴えました。
このうち、歌手のビヨンセさんは自身のインスタグラムに動画を投稿し、「これ以上、無意味な殺人はあってはなりません。有色人種を人間以下として見ることもこれ以上あってはなりません。もう目をそらすことはできません」と強く訴えました。
そのうえで、「これまでも何度も暴力的な殺人を見てきましたが、その結果、何も変わらず、正義の実現には程遠い状況です」と述べ、事件に関係した警察官らの処罰を求める請願への署名を呼びかけました。
また、歌手のアリアナ・グランデさんも自身のツイッターに「黒人の命は大切」という意味の「#BlackLivesmatter」という、ハッシュタグとともに、「署名や寄付を続けてください。この問題について家族や友人との話し合いを続けてください。これはきょう、あす、もしくは、あなたが一度投稿したからと言って終わる問題ではありません」と訴えました。
さらに、歌手のレディー・ガガさんは、自身のインスタグラムに長文の文章を投稿し、「わたしたち白人は、特権階級として、人種差別をなくすために戦ったり、人種差別を受けて亡くなった人たちのために立ち上がったりすることが十分にできていませんでした。これは正義とは言えません。この国が長い間持ち続けてきた悲劇を意味します」と述べるとともに、「今こそ変わるべき時です。このあしき慣習がなくなるまで互いに誠意を持ってこの問題を話し合い、心に刻むよう強く求めます」と呼びかけました。
ヨーロッパでも抗議の動き
アメリカで黒人男性が白人の警察官に取り押さえられ、死亡した事件を受けてイギリスのロンドンなどヨーロッパでも抗議の動きが広がっています。
このうち、ロンドンでは31日、数百人が中心部の広場に集まり、「正義を」とか、「黒人の命は大切だ」などと書いたプラカードを掲げ、抗議の声をあげました。
参加した男性は、「黒人や有色人種の人々は長い間、虐待されてきた。状況は悪くなるばかりだ。もう十分だ。変化すべき時だ」と怒りをあらわにしていました。
このあと、参加者たちは、死亡した男性が警察官にひざで押しつけられた際に訴えた「息ができない」ということばや、男性の名前を大声で繰り返しながら、イギリスの首相官邸やアメリカ大使館へと向かい、抗議を続けていました。
また、ドイツのベルリンでは、アメリカ大使館前で抗議デモが行われました。デモを主催した女性が涙ながらに「声をあげよう」と訴えたほか、参加した人々は「正義を」とか「息をさせて」などと書かれたプラカードを掲げ、抗議と団結の意志を示しました。
このほか、ベルリンの公園には、死亡した黒人男性などを描いた落書きアートが登場し、「息ができない」というハッシュタグが添えられています。