石破総理大臣は、29日午後、衆参両院の本会議で所信表明演説を行いました。
冒頭、石破総理大臣は「民主主義のあるべき姿とは多様な国民の声を反映した各党派が真摯に政策を協議しよりよい成案を得ることだ」と述べました。
その上で、先の衆議院選挙で与党が過半数を割り込んだことを踏まえ「自民党と公明党の連立を基盤に他党にも丁寧に意見を聴き可能なかぎり幅広い合意形成が図られるよう真摯に謙虚に国民の安心と安全を守るべく取り組んでいく」と強調しました。
外交・安全保障は
外交・安全保障をめぐっては、厳しく複雑な国際社会でも国家のかじ取りを行う基本は変わらないと指摘し「日本の抑止力と対処力を維持・強化しつつ各国との対話を重ね、分断と対立を乗り越えて法の支配に基づく国際秩序を堅持する」と述べました。
各国との関係では、アメリカとは両国の国益を相乗的に高め合うことが自由で開かれたインド太平洋の実現につながるとしてトランプ次期大統領と率直に議論を行い、日米同盟をさらなる高みに引き上げる意欲を示しました。
来年国交正常化60年を迎える韓国とは首脳会談を頻繁に行って関係を飛躍させるとしたほか、中国とは先の習近平国家主席との首脳会談も踏まえ「建設的で安定的な関係」の構築に向けてあらゆるレベルで意思疎通を図る考えを示しました。
一方、自衛隊の人的基盤の強化をめぐっては、自衛官の処遇や勤務環境の改善などの施策の方向性を年内にまとめ、可能なものから来年度予算案に盛り込むと説明しました。
さらに、サイバー攻撃を未然に防ぐ「能動的サイバー防御」の導入に向け、可能なかぎり早期に国会に法案を提出するため検討を加速する考えを重ねて示しました。
また、北朝鮮による拉致問題は、国家主権の侵害であり政権の最重要課題だとして、断固たる決意で解決に取り組むと強調しました。
経済政策 「年収103万円の壁」は
経済政策をめぐっては「賃上げと投資がけん引する成長型経済」への移行を掲げ、最低賃金の引き上げに加え、AIや宇宙、GXといった分野のスタートアップの支援などの取り組みを進めていく方針を示しました。
また、日本の活力を取り戻すため地方創生を進めるとして、交付金の倍増を前倒しで措置するとともに、新たな重点分野として文化芸術やスポーツの振興を図ることを打ち出しました。
その上で、地方に魅力的な職場をつくるため、短い労働時間でも正社員として働くことができる「短時間正社員」の活用や、出産を機に女性の正規雇用率が低下する、いわゆる「L字カーブ」の解消に取り組む考えも示しました。
さらに「年収103万円の壁」については「来年度の税制改正の中で議論し引き上げる」と表明し、税収減が見込まれるなどの課題にも結論を出す決意を示しました。
社会保障をめぐっては、能力に応じてすべての世代が支え合う「全世代型社会保障」を構築するとして、社会保障費の歳出改革の具体化を着実に実施していくと強調しました。
マイナンバーカードと健康保険証が一体化した「マイナ保険証」をめぐっては、いまの健康保険証の新規発行が12月2日で終了したあとも国民の不安に丁寧に対応していく考えを示しました。
防災対策は
防災対策では、大規模災害の際に支援を担当する自治体をあらかじめ定めるほか、すべての避難所に衛生や生活環境などの指針を定めた国際基準「スフィア基準」を適用し、避難所となる全国の学校体育館の空調の整備を加速させると説明しました。
さらに能登半島地震の教訓も踏まえ、温かい食事を迅速に提供するための資機材の分散備蓄や、災害ボランティア団体の事前登録制度の創設など被災者の生活環境の向上に向け対応する考えを示しました。
そして、内閣府の防災担当の機能を予算・人員の両面で抜本的に強化し、令和8年度中の「防災庁」の設置に向けて着実に準備を進める意向を示しました。
また、闇バイトによる犯罪に歯止めをかけるとして、SNSで集めたメンバーを実行役に犯罪を繰り返す「匿名・流動型犯罪グループ」の検挙を徹底し、インターネット上から闇バイトの募集情報を削除することや、若者への情報発信の強化、それに、防犯カメラの整備などを進める方針を示しました。
政治とカネの問題受けた政治改革は
政治とカネの問題を受けた政治改革をめぐっては「『政治は国民のもの』という原点に立ち返り誠実に国民と向き合いながら取り組んでいく」と述べました。
その上で、政策活動費の廃止や、政治資金に関する必要な監査を行う第三者機関の設置、それに、政治資金収支報告書を簡単に確認できるデータベースの構築などの議論を進めていくとし、年内に必要な法整備も含め結論を出せるよう尽力すると強調しました。
一方、憲法改正をめぐっては、憲法審査会で建設的な議論を行い、国民的な議論が深まることに期待を示しました。
結びに
そして、昭和32年に行われた石橋湛山内閣による施政方針演説の「国民の一部の思惑に偏することなく、国民全体の福祉をのみ念じて国政の方向を定め、論議を尽くしていくように努めたい」ということばに触れ「外交においても内政においても国民の後押しほど大きな力はない。国民に信頼してもらえるよう誠心誠意取り組んでいく」と結びました。