サウジアラビアの西部ジッダでは、11日にアメリカとウクライナの高官協議が行われ、アメリカ側からルビオ国務長官やウォルツ大統領補佐官、ウクライナ側からイエルマク大統領府長官やシビハ外相、そしてウメロフ国防相が出席しました。
2月にトランプ大統領とウクライナのゼレンスキ―大統領が激しい口論となった会談以降、両国の高官が対面で協議するのはこれが初めてです。
協議のあと、両政府は共同声明を発表し、両国の代表が永続的な平和に向けた取り組みを開始すべき時だという認識で一致したとしたうえで「ウクライナは、アメリカが提案した即時かつ暫定的な30日間の停戦を受け入れる用意があることを表明した」と明らかにしました。
この停戦は当事者の合意によって延長が可能で、ロシアが受け入れ、同時に実施することが条件になるとしています。
そして、今回の協議を受けて、アメリカが一時停止しているウクライナへの軍事情報の共有と軍事支援を再開すると発表しました。
また、共同声明によりますと、合意文書への署名が見送られている鉱物資源の権益をめぐる協議について、トランプ大統領とゼレンスキー大統領ができるだけ早く成立させることを確認したということです。
協議のあと、アメリカ、ホワイトハウスのウォルツ大統領補佐官は記者団に対し、ウクライナへの軍事支援などの再開について「トランプ大統領はウクライナに対する支援の一時停止を解除することを決めた。これはただちに有効となる」と述べました。
また、ウォルツ補佐官は、今後、数日のうちにロシア側と協議すると明らかにしました。
トランプ大統領 “米とロシアの代表 近く協議の予定”
アメリカのトランプ大統領は、11日、ウクライナとの高官協議のあとホワイトハウスで記者団の取材に応じ「ゼレンスキー大統領を再びホワイトハウスに招くか」と質問されたのに対し「もちろんだ」と答え、ゼレンスキー大統領と再び会談する考えを明らかにしました。
また、トランプ大統領は「これからはロシアとの話し合いだ。プーチン大統領も合意することを願う」と述べ、ロシアがアメリカが提案した停戦に応じることに期待を示しました。
そのうえで、「きょう、このあとか、あすにもわれわれは彼らと会うだろう」と述べてアメリカとロシアの代表が近く協議する予定であると述べました。
そのうえで「今週、プーチン大統領と話をするのか」と記者団に聞かれたのに対し「そう思う」と述べました。
米 ルビオ国務長官「ロシアが応じることに期待」
アメリカのルビオ国務長官は、ウクライナとの高官協議のあと記者団に対し「われわれはこの提案をロシアに示し、彼らが和平に同意することを望む。ボールはいま、彼らの手の中にある。ウクライナはきょう、具体的な一歩を踏み出した。ロシアが応じることに期待する」と述べて、今後、ロシアと協議を行う考えを示しました。
ゼレンスキー大統領「米はロシアが応じるよう説得する必要」
ウクライナのゼレンスキー大統領は11日、アメリカとの高官協議のあと、SNSにメッセージを投稿し「アメリカ側はわれわれの主張を理解し、われわれの提案を受け入れた。そして双方のチームの間で行われた建設的な協議について、トランプ大統領に感謝したい」と謝意を示しました。
そして、30日間の停戦について、空や海だけでなくすべての前線で完全な停戦を行う提案がアメリカ側からあったとして、ウクライナは受け入れる用意があるとしたうえで「アメリカはロシアが応じるように説得する必要がある」と強調しました。
さらに「きょうの協議で重要な要素は、アメリカがウクライナへの情報面を含む防衛支援を再開する用意があるということだ」として、軍事支援を再開するというアメリカの決定を歓迎しました。
ウクライナ大統領府長官 “国益守ることを最優先に協議に”
アメリカとの高官協議に出席したウクライナのイエルマク大統領府長官はSNSに投稿し「ウクライナの利益を守ることは、私たちにとって最も重要なことだ」として国益を守ることを最優先に協議に臨んだとしています。
そのうえで「公正な平和は私たちにとって重要な鍵だ。私たちは永続的な平和を望んでいる。建設的な会談に感謝する」と締めくくりました。
また、シビハ外相もSNSで「きょうの会談は、平和への道や、戦略的なウクライナとアメリカのパートナーシップの発展でも重大な一歩を踏み出すものだった。これこそが、率直でオープンで建設的な対話がもたらすものだ」とした上でルビオ国務長官などアメリカ側の出席者に謝意を示しました。
EUフォンデアライエン委員長「ボールはロシア側にある」
EU=ヨーロッパ連合のフォンデアライエン委員長は11日、自身のSNSに投稿し、「ウクライナにとって公正で永続的な平和に向けた一歩となり得る。ボールはいま、ロシア側にある。EUはきたる和平交渉に向けて最大限の役割を果たす用意がある」として協議の結果を歓迎しました。
また、イギリスのスターマー首相は声明を出し、「われわれは永続的かつ確実な平和の実現に向けて努力を強める必要がある。ロシアも停戦と戦闘の終結に同意しなければならない」としたうえで、今週15日に各国の首脳を集めてこの先の対応について協議を行うとしています。
フランスのマクロン大統領もSNSに投稿し、「ボールはいま、明らかにロシア側にある。フランスはパートナーたちとともに、強固な安全の保証に裏打ちされた永続的な平和に向けて引き続き尽力する」とコメントしています。
協議進展の背景は?【アメリカ ウクライナから中継】
=アメリカ=
A.アメリカが、停戦に向けて取り組むウクライナの姿勢を評価できる前向きな協議になったということだと思います。
トランプ大統領は、ゼレンスキー大統領と口論になった先月の会談後、ウクライナが停戦に応じようとしていないとたびたび批判し、軍事支援を一時停止しました。ロシアよりもウクライナとの協議のほうが難しいとまで述べ、不満をにじませていました。
こうした中で行われた協議は、8時間以上におよび、このあとトランプ大統領は記者団から「ゼレンスキー大統領を再びホワイトハウスに招くか」と問われ「もちろんだ」と述べるなど、内容に満足した様子でした。
次はロシアとの協議となります。ルビオ国務長官は「ボールはロシアの手の中にある。仮にノーであれば、和平の障害となっているのは誰かが分かる」と述べて、ロシアに停戦の受け入れを迫る考えを示しました。
トランプ大統領はプーチン大統領との対話にも意欲を示していて、アメリカとロシアの間でも具体的な協議が進むのか注目されます。
=ウクライナ=
A.協議が進展した背景には、ウクライナの強い危機感があったといえそうです。最大の支援国アメリカによる軍事支援の一時停止は、戦況にも影響が出ているとみられ、越境攻撃を続けるロシア西部クルスク州での劣勢も伝えられていました。
ゼレンスキー大統領も今回の重要な成果はアメリカからの支援再開だと指摘しています。ウクライナ側はアメリカが提案した30日間の完全な停戦を受け入れる用意があると表明しました。
トランプ大統領の考えに同調する形で平和を求める意思を伝え、停戦に応じないのはロシアだと印象づけるねらいもあると思われます。ウクライナとしては、ウクライナに手厳しい姿勢を見せるトランプ政権がロシア側と一方的に話を進め不利な状況に追い込まれないようにしなければならず、このためには時に譲歩する姿勢も示しながらアメリカとの関係を維持することが不可欠です。
ただ、ウクライナが求める条件でどこまで停戦への道筋を描けるかは不透明で、ウクライナにとって厳しい交渉が続くことになります。
ロシアはどう対応するのか?【ロシアから中継】
A.ロシアメディアによりますと、外務省のザハロワ報道官は「今後の数日間でのアメリカ側との接触を否定しない」と述べ、近くアメリカとの協議に応じる姿勢を示しています。
また、ロシアの有力紙のクレムリン担当記者は、SNSで、今月14日にプーチン大統領とトランプ大統領がオンラインで会談すると伝えています。
ただ、あるロシアの外交筋は、30日間の暫定的な停戦について、ロシア側は西部クルスク州からウクライナ軍が撤退しない限り停戦協議には応じないとアメリカ側に提示しているとして、ロシア軍が目標を達成するまで戦闘を続けるとの見通しを示しました。
一方で停戦に向けた協議を受け入れないと、プーチン大統領と対話する姿勢を見せてきたトランプ政権内でロシアに対する批判が強まるとして、ロシアにとって難しい局面になったという見方も出ています。