富士山で、江戸時代の「宝永噴火」に相当するような大規模な噴火が起きて大量の火山灰が噴出すると、東京や神奈川県などの広い範囲で数センチから10センチ以上積もるおそれがあり、鉄道の運行や道路の通行などに大きな影響が出ると指摘されています。
そのため、火山や防災の専門家などでつくる検討会は、大規模な噴火が起きた際の対応について議論を重ね、21日、報告書を公表しました。
人口が密集する首都圏で火山灰が積もった地域の人たちが一斉に地域の外に避難することは避難所を確保する面からも現実的ではないとして、30センチ未満の地域は「自宅などで生活を継続」するとしました。
そのため、住民は可能なら2週間分の備蓄を進めることや、自治体や事業者などはライフラインの維持や復旧に優先的に取り組む必要があるとしています。
一方、30センチ以上積もった地域は、雨が降った際に木造住宅が倒壊するおそれがあるとして、「原則避難」が必要だとしました。
また、30センチ未満であっても3センチ以上積もり、停電などの影響が長期化する場合、通院による人工透析や介護サービスが必要な人などは、生活の継続が難しいため「原則避難」すべきだとしています。
報告書では、国に対し、火山灰の見通しといった情報の仕組みを整えるよう求めているほか、国や自治体などに対し、避難ルートの確保などを進めるべきだなどとしています。
検討会の座長を務めた東京大学の藤井敏嗣名誉教授は「日本はこの100年間広域に火山灰をまき散らす噴火を経験していないので備えもできていない。今から準備をしておく必要がある」と話しています。
噴火直後の情報発表などに多くの課題
富士山などの火山灰対策をめぐっては、噴火直後の情報発表や噴火後の火山灰処理をどうするかなど多くの課題があります。
気象庁は警報化も検討
内閣府の検討会での議論を受けて気象庁は、富士山などで大規模な噴火が起き、火山灰が大量に降り積もると予想された場合、警報などの情報を発表すべきか、火山や防災情報の専門家などで議論を進めています。
先月の会合では、気象庁が、火山灰が車が走行できなくなる目安の3センチ以上降り積もると予測された場合に警報として情報を発表する案や、「広域降灰予報」として火山灰の量や範囲を予測する情報を発表するという案を示しました。
委員からは、自治体の対応のきっかけとなる情報は必要だとして前向きな意見が出された一方、「情報の整理が必要だ」といった指摘も出ていて、春ごろの取りまとめに向けて検討を進めています。
また、火山灰を観測する仕組みは現状で整っておらず、こうした点も、今後議論する必要があります。
除灰作業は
暮らしの復旧に向けて、大量の火山灰をどう処理するのかも大きな課題です。
2020年に国のワーキンググループがまとめた報告書では、富士山で「宝永噴火」に相当するような大規模な噴火が起きた場合、道路や建物などに降り積もる火山灰の量はおよそ4.9億立方メートルに達すると試算しています。
これは、東日本大震災に伴う災害廃棄物量のおよそ10倍、東京ドームの400杯分に上る膨大な量です。
今回取りまとめられた対応方針では、まずは、生活を続けるために必要な道路や線路に積もった灰などを優先的に取り除くとしたうえで、仮置き場の候補地も事前に決めておくことが望ましいとしています。
最終的な処理の方法は、再利用や資源化、土捨て場などでの処分、埋め立て、海への投入などを挙げ、複数の手段を組み合わせることが必要だとして、国や自治体などが連携して処理する必要があるとしています。