ある秋の日、爺さまと婆さまは裏の畑に大根を掘りに行く。すると、畑には見たこともない大きな大根が植わっている。とても二人の手に負えないと思った爺さまは、穴掘り(井戸掘り)長兵衛どんを呼びに行った。
長兵衛どんは、畑に来るとさっそく大根の周りを掘り始めた。そして七日七晩掘り続けて、ようやく大根の頭に縄を結わいて引き抜こうとした時だった。もう少しで大根が抜けようかという所で大根のしっぽが折れてしまい、長兵衛どんは大根のしっぽと一緒に穴の中に真っ逆さま。地面の底を突き破って地獄まで落ちてしまう。
地獄に落ちてきた長兵衛どんを見た鬼たちは、長兵衛どんを悪人と間違えて閻魔大王様の前にしょっ引いて行く。もちろん長兵衛どんは悪いことなどしていない。閻魔様の調べで晴れて無罪になった長兵衛どんは、閻魔様から丸薬をもらい、地上に帰るように命じられた。この丸薬を一粒飲めば、体が浮き上がり穴の途中まで昇り、二粒飲めば地上まで昇る。閻魔様は二粒で効き目がなかった場合に、念のため三粒丸薬を渡し、一粒ずつ飲むように言った。
ところが長兵衛どん、嬉しさのあまり閻魔様の言う事も忘れ、三粒いっぺんに丸薬を飲みこんだものだから、体はどんどん上昇し、地面を通り越して雲の上に昇ってしまった。その時、雲の上では太鼓係が病気で雷様たちが困っていた。そこへ長兵衛どんが昇ってきたので、ちょうどいいとばかり雷様は長兵衛どんに太鼓を叩くように言う。
長兵衛どんは一所懸命太鼓を叩き、雷様は桶から水を汲んで地上に撒く。すると地上では、ゴロゴロと雷が鳴り、雨が降り始めた。ところが調子に乗った長兵衛どん、太鼓を叩きすぎて太鼓の皮を破ってしまう。怒った雷様は、長兵衛どんをとっちめようとする。長兵衛どんは、雷様から逃げてようとして足を滑らせ、今度は地上に真っ逆さま。
運よく岩木山のふもとに木の枝に引っかかるも、風で弘前の富田に飛ばされてしまった。富田が昔“とびた”と呼ばれたのは、こんな謂れがあるそうだ。