会場は、7年前のG7サミットと同じアルプス山脈のふもとに位置する「エルマウ城」というホテルで、前日の25日には、ホテル周辺の幹線道路で大勢の警察官が警戒にあたるなど厳重な警備態勢が敷かれていました。
今回のサミットでは、ロシアによる軍事侵攻が4か月を過ぎて長期化する中、ロシアに対する圧力の強化や、ウクライナへの今後の支援について協議するとみられます。
会議には、ゼレンスキー大統領も一部オンラインで参加する予定で兵器のさらなる供与をはじめ、支援の強化などを改めて呼びかけるとみられます。
一方、各国の首脳は、ウクライナから穀物の輸出が滞っていることで世界的に懸念が高まる食料危機への対応を巡っても意見を交わす見通しです。
このほか、インド太平洋地域で海洋進出の動きを強める中国についても議題になるとみられます。
G7サミットは、今月28日まで行われ、29日からは、NATO=北大西洋条約機構の首脳会議がスペインのマドリードで開かれます。
欧米各国と日本にとっては、一連の会議を通じて、対抗姿勢を一段と強めるロシアや中国に対してどこまで一致した姿勢を示すことができるかが焦点となります。
会議の中で岸田総理大臣は、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻で国際秩序の根幹が揺るがされているという認識を各国と共有したうえで、日本のこれまでの対応を説明するとともに、ウクライナや、食料危機の影響を受ける中東・アフリカ諸国への支援などを表明したい考えです。 さらに、中国や北朝鮮を含む地域情勢や気候変動対策、エネルギー問題などについても積極的に議論を主導し、会議の成果を広島で開催する来年のG7サミットにつなげていきたい考えです。 そして、岸田総理大臣は、G7サミットのあとスペインのマドリードに向かい、日本の総理大臣として初めてNATO=北大西洋条約機構の首脳会議に出席します。 会議では、ロシアによる軍事侵攻や中国による海洋進出を念頭に、世界のいかなる地域でも力による一方的な現状変更を許してはならないという姿勢で一致し、日本とNATOの一層の連携を確認したいとしています。
3月にはベルギーでの首脳会議に出席するなど、侵攻が始まってから、これまで5回にわたり、G7関連の会議に参加しました。 各国と協調して、プーチン大統領ら政府関係者やロシアの銀行などが対象の「資産の凍結」、貿易上の優遇措置などを保障する「最恵国待遇」の撤回など、厳しい制裁措置を実施しています。 5月には、日本を訪れたアメリカのバイデン大統領との首脳会談や、日米にオーストラリアとインドが加わるクアッドの首脳会合を開催し、いかなる地域でも力による一方的な現状変更を許してはならないという認識を共有しました。 また、アジア各国の首脳とも会談を重ねています。 3月にはインドとカンボジア、大型連休中にはインドネシア、ベトナム、タイを訪れました。 インド太平洋地域には、歴史的な経緯や経済的なつながりなどから、ロシアや中国に配慮してG7と距離をとる国も少なくないことから、岸田総理大臣は、アジア唯一のG7メンバーとして共通の価値観を広げていきたい考えです。 一方、ウクライナのゼレンスキー大統領とも侵攻後、3回、電話会談を行っています。 緊急人道支援や借款を行うこと、それに、自衛隊が保有する防弾チョッキやヘルメットを提供することなどを説明しました。
ドイツが議長国を務めることしは、南部のリゾート地、エルマウで開かれます。 一時期、ロシアも加わりG8サミットとして開催されていましたが、2014年にロシアがウクライナ南部のクリミアを一方的に併合したことをきっかけにロシアは除外され、再びG7サミットとして開催されています。 G7サミットは7か国で結束しながら戦後の国際秩序の維持に向け先導的な役割を果たしてきました。 1979年、東京で開かれたサミットの宣言では、石油危機に対応するため、石油の消費や輸入の上限目標について、具体的な数字を掲げた合意が発表されました。 1992年、ドイツ・ミュンヘンで開かれた際には冷戦構造の終えんを受け、「新しいパートナーシップの形成」に向けた協力を世界に呼びかける宣言が出されました。 おととしは、新型コロナの影響で対面での開催は見送られましたが、去年はイギリスで開催され、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するなど中国を意識した首脳宣言を発表しました。 ウクライナへの侵攻が続き、世界的に物価が高騰する中での今回のG7サミット。G7が結束を示し、世界に対して効果的なメッセージを発信できるかが焦点となります。 来年・2023年の議長国は日本が務めることになっていて、サミットは岸田総理大臣の地元・広島で開催される予定です。
最大の課題とも言えるのが中国への対応です。 東シナ海や南シナ海への進出を強める中国をめぐっては、去年、イギリスで開かれたG7サミットの首脳宣言で、深刻な懸念が示されました。 台湾海峡の平和と安定の重要性にも初めて言及しました。 この中国を念頭に、岸田総理大臣は、ウクライナ情勢はインド太平洋を含む国際社会全体の秩序の問題だとして「力による現状変更をインド太平洋で許してはならない」と繰り返し訴えてきました。 中国とロシアが欧米などへの対抗姿勢を示す中、今回のサミットでは、ヨーロッパとインド太平洋の安全保障は不可分であり、いかなる地域でも力による一方的な現状変更は許されないという認識を共有し、G7で一層連携を強化していく方針を確認するものとみられます。 また、北朝鮮がかつてない頻度で弾道ミサイルなどの発射を繰り返し、核実験への警戒も高まる中、北朝鮮対応をめぐる議論も行われる見通しです。 日本としては、すべての大量破壊兵器や弾道ミサイルの検証可能で不可逆的な廃棄に向け各国と緊密に協力していく方針で一致したい考えです。
会合にはウクライナのゼレンスキー大統領と国連のグテーレス事務総長もオンラインで参加する予定です。 G7は、軍事侵攻開始以降、4度にわたる首脳声明で、ロシアとプーチン大統領を強く非難する一方、ウクライナを支持する立場を明確にしてきました。 ロシアに対しては、政府関係者の資産凍結や輸出入の制限、それにロシア産の石炭や石油の輸入の段階的な禁止など、同盟国ベラルーシも含めて制裁を行っています。 一方、ウクライナには、経済面などでの支援や、侵攻によって破壊されたインフラの復旧なども進めています。 日本政府もプーチン大統領らの資産凍結やロシア向けの新規投資の禁止など、段階的に制裁を強化してきました。 侵攻開始から4か月が過ぎる中で開かれる今回の会議では、ロシアへの圧力強化やウクライナへの支援に加え、ロシアによって行われた疑いのある戦争犯罪を追及していくうえでの協力のあり方などについても意見が交わされる見通しです。 また日本としても、ウクライナへのさらなる支援策などを表明したい考えで、詰めの調整を進めています。 また、今回のサミットでは、世界経済やエネルギー、食料安全保障をめぐっても会合が開かれ、ロシアによる侵攻を背景とした世界的な課題への対応をめぐっても幅広く議論が行われます。 一方、岸田総理大臣は、来年のG7議長国として、広島でサミットを開催する方針を表明する見通しで、ロシアの侵攻で核の使用に対する懸念が広がる中被爆地・広島での開催の意義を説明するものとみられます。
先月行われたG7の財務相・中央銀行総裁会議では、ロシアによるウクライナ侵攻がエネルギーや食料価格の大幅な上昇を引き起こし、各国の物価上昇率が記録的な水準になっていると指摘しました。 ▽アメリカでは、先月の消費者物価指数が前の年の同じ月と比べて8.6%の上昇と、40年5か月ぶりの記録的な水準となりました。 ▽ドイツやフランスなど、ユーロ圏19か国では、先月の消費者物価指数が前の年の同じ月と比べて8.1%の上昇と、比較が可能な1997年以降で最大の伸び率となりました。 ▽また、イギリスでは、先月の消費者物価指数が9.1%の上昇と、40年ぶりに高い上昇率だった4月を、さらに0.1ポイント上回りました。 ▽日本でも先月の消費者物価指数が2.1%の上昇となりました。 政府・日銀が目標としてきた2%を超えたのは、2か月連続です。 IMF=国際通貨基金はことし4月、エネルギーや穀物価格の高騰を背景に、ことしの世界全体の経済成長率の見通しを0.8ポイント引き下げました。 物価上昇は、新型コロナウイルスの打撃から回復に向かう世界経済の大きな重荷となっています。 これに対してアメリカやヨーロッパの中央銀行は物価上昇を抑えこむため、相次いで金融引き締めに動いていますが世界的な景気減速への警戒感が強まって、各国の金融市場は不安定な値動きを続けています。 日本としては、物価の高騰に加えて外国為替市場でこのところ進んでいる円安が、企業の活動や経済全体にも影響を与えかねないとして、G7各国と連携して市場の動向を注視する姿勢を改めて明確にしたい考えです。 G7サミットでは、ロシアのウクライナ侵攻による物価上昇の影響を抑え込み、世界経済を安定的な回復に向かわせるためどういったメッセージを打ち出せるかが課題となります。
先月下旬にドイツ・ベルリンで行われたG7の気候・エネルギー・環境相会合では、電力部門の脱炭素が大きなテーマとなり、閣僚会合の声明では「電力部門の大部分を2035年までに脱炭素化するという目標に最大限努力する」という内容が盛り込まれました。 そこで議論となったのが、二酸化炭素を多く排出する石炭火力発電の取り扱いです。 G7のうち議長国のドイツをはじめ、5つの国が2030年までに石炭火力発電を廃止する方針を表明しています。 これに対して、日本は2030年度も発電の19%を石炭火力でまかなう見通しとなっていて、立場の違いが際立っています。 ところが、ロシアのウクライナ侵攻もあって、ロシア産の天然ガスへの依存度を低減させていくためには、価格の安い石炭の活用は必要だという声がドイツ国内などからも出ています。 日本としては、燃焼する際に二酸化炭素を出さないアンモニアと石炭を混ぜて燃やすなど、二酸化炭素の排出量を押さえる技術を活用して、脱ロシアと脱炭素の両立を図るべきだという立場です。 閣僚会議の声明では、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を最終的にゼロにするという目標に向けて必要な技術や政策を迅速に拡大していく」という文言が盛り込まれました。 「排出削減対策がとられていない」という条件がつき、日本の主張が一部取り入れられました。 ただ、こうした日本の主張に対しては、「石炭火力の延命だ」という厳しい指摘もあり、今回のサミットでも脱炭素に向けた目標や取り組みの具体化とあわせて、石炭火力発電の取り扱いが注目されます。
G7各国は軍事侵攻を受けてロシア産のエネルギーについてはすでに、 ▽石炭の輸入禁止や段階的縮小、 ▽石油の輸入の段階的、もしくは即時の禁止 を打ち出しています。 先月のG7気候・エネルギー・環境相会合では、これに加えて天然ガスのロシアへの依存度を下げることが緊急の課題だという認識で一致しました。 そのために鍵を握るのが、LNG=液化天然ガスです。 ヨーロッパ各国はロシアからパイプラインでガスの供給を受けていますが、会合では、ロシアへの依存度を低下させる中で、供給を途絶させないために「LNGの供給増加が重要な役割を果たす」とされました。 ただ、具体的に供給をどう増やすのかまでは触れられませんでした。 仮にヨーロッパ各国がガスの調達をLNGに切り替えれば、各国の調達競争が厳しくなり、価格がさらに高騰する可能性もあります。 そのためにもアメリカでのLNGの増産が期待されますが、アメリカ企業からすれば、今後、「脱炭素」を進めていく中で、ヨーロッパ各国がLNGを買い続けてくれるのか見通せず、増産に向けた投資に懐疑的な声もあります。 日本は、萩生田経済産業大臣が先月、アメリカを訪れてグランホルム・エネルギー庁長官と会談した際にアメリカ産のLNGの重要性を確認する声明を取りまとめていて、これに基づいて日米の民間企業どうしが増産に向けて動きやすい環境を整えたい考えです。 G7サミットでは、エネルギー面での「脱ロシア」に向けて、LNGの増産などの具体策をどこまで打ち出すことができるのかが焦点となります。
ウクライナは穀物の生産が盛んな農業国で、 ▽トウモロコシの輸出量が世界4位、 ▽小麦は世界5位となっています。 ところが、ロシアによる軍事侵攻で、ウクライナは ▽黒海に面した港をロシア軍に封鎖されて輸出ができなくなっているほか、 ▽農業生産も滞ることで、 世界の食料安全保障に大きな影響が出ることが懸念されています。 さらに、ロシアも自国内での供給を優先させるために、小麦や大麦の輸出を制限しています。 ことし4月に国連のWFP=世界食糧計画が発表した報告書では、ロシアによる軍事侵攻が続けば、世界全体で新たに4700万人が飢餓に陥るおそれがあると指摘しています。 先月行われたG7の農業担当相の会合でも「世界の食料安全保障に深刻な影響が予想される」として、強い懸念を表明するとともに「世界的な人道上の支援の必要性がさらに高まっている」と指摘しています。 今回のサミットで岸田総理大臣は、深刻な影響を受ける中東・アフリカ諸国への食料支援を表明する方針です。 食料価格の高騰についてロシア側は、西側の制裁によって食料の輸出が滞っていることが原因だと主張していますが、G7各国はロシア側の主張を退けるとともに、各国も影響を受ける国々への具体的な支援策を打ち出したい考えです。
岸田首相 26日からドイツへ G7サミット出席のため
ウクライナ情勢をめぐる岸田首相の外交は
これまでのG7サミットは
焦点:外交・安全保障
焦点:ウクライナ情勢
焦点:世界経済とインフレ
焦点:エネルギー(脱炭素)
焦点:エネルギー(脱ロシア)
焦点:ウクライナ侵攻で食料安全保障への影響も