ウクライナでの長期戦や欧米各国との衝突に備えようとしているとの見方も出ています。
ロシア軍はウクライナ東部ハルキウ州に北から国境を越えて侵入し、12日までに9つの集落を掌握したとして攻勢を強めていて、ハルキウ州の知事は2日間で州内のおよそ4000人が避難したとしています。
一方、ハルキウ州と国境を接するロシア西部のベルゴロド州では12日、ウクライナによる砲撃で集合住宅が崩壊するなどして、地元の知事によりますと19人が死亡しました。
こうした中、ロシアのプーチン大統領は12日、国防相を務めてきたショイグ氏を交代させ、第1副首相を務めてきたベロウソフ氏を後任に充てる考えを示しました。
米シンクタンク「苦境にある国防省率いるのにふさわしい」
これについてアメリカのシンクタンク「戦争研究所」は、ベロウソフ氏が経済閣僚を務めてきたことに加えて「国内の軍需産業を革新させたり、無人機のプロジェクトに関わったりしてきた経歴が、苦境にあるロシア国防省を率いるのにふさわしい」としています。
そのうえで「プーチン大統領がロシア経済と軍需産業を動員して、ウクライナでの長期戦に臨み、場合によっては将来的なNATO=北大西洋条約機構との衝突にも備えるための重要な一手を打っていることを示唆している」と指摘しています。
専門家「ウクライナ侵攻長期化を見据えた人事」
ロシアのプーチン大統領が国防相のショイグ氏を交代させ、後任に経済政策を担当してきたベロウソフ第1副首相を充てる人事案を提示したことについて、防衛省防衛研究所の兵頭慎治 研究幹事は「非軍人の経済専門家を国防相に据えることによって、政権内の経済エリートが軍事エリートを牛耳るという新たな人事の構図になった」と指摘し、「過去10年間で国防安全保障関連の人事で一番大きな変化ではないか」との見方を示しました。
背景について「今、プーチン大統領は国家予算の大半を戦争に費やす戦時経済体制を強化しようとしているので、より軍事と経済の連携、融合をはかりながら、戦場で効果的な戦闘を目指そうとしている」と述べ、3年目に入ったウクライナへの侵攻がさらに長期化することを見据えた人事だと分析しています。
また、ショイグ氏が国防相から外されたことについては4月、側近の国防次官が収賄の疑いで逮捕されたことも影響している可能性を指摘し「プーチン大統領としても、この戦闘で大きな戦果が出てこない軍の制服組に対し、人心一新を図って、新たな布陣で今後の戦闘に臨むという姿勢を見せたのではないか」と述べました。
ただ、ショイグ氏が新たに任命された安全保障会議の書記は、プーチン大統領が議長を務める政権中枢の要職であるとし「長年の盟友であり簡単に切り捨てるということではなく、引き続きプーチン大統領のすぐそばに置いておくという手だ」としています。
ロシア軍への影響については「軍人の士気低下というおそれもある。経済専門家が大臣になることを制服組からすると必ずしも好ましく思っていないところがある。そうした否定的な影響が出るのかどうか、注目していく必要がある」と述べました。
一方、兵頭氏は、安全保障会議の書記の職を外れるパトルシェフ氏について「むしろパトルシェフ氏の処遇がどうなるかの方が実は気になるところ」と指摘し「クレムリンの中で隠然たる影響力を有してきた人物で、このポストから外れたことがどういう意味を持つのか注目する必要がある」と指摘しました。
また今回、ウクライナ侵攻を指揮するゲラシモフ参謀総長が留任となり「軍事面、特に戦闘面では大きな変化はないと思う」とし、ウクライナ侵攻で今後もロシア軍は東部などへの攻勢を続けるとの見方を示しました。