“家族かぞくの代かわり”担になう「身元みもと保証ほしょう」サービスの指針案ししんあん 課題かだいは

夫おっとに先立さきだたれ、その後そのご、重度じゅうどのやけどをして1人にんでの生活せいかつが難むずかしくなった80歳さいの女性じょせい。頼たのめる家族かぞくはなく途方とほうに暮くれる中なか、助たすけとなったのは高齢こうれい者しゃの「身元みもと保証ほしょう」を行おこなう事業じぎょう者しゃでした。

単身たんしん高齢こうれい者しゃの増加ぞうかを背景はいけいにいま、こうした事業じぎょうのニーズが高たかまっています。しかし、ルールがないことから契約けいやく上じょうのトラブルも相次あいついでいて、国くには初はじめて指針ししんの案あんを示しめすなど対策たいさくに乗り出のりだしています。

施設しせつの入所にゅうしょや入院にゅういんにも…求もとめられる「身元みもと保証ほしょう」

入院にゅういんや施設しせつへの入所にゅうしょなどの際さいに、緊急きんきゅう時じの対応たいおうなどのために求もとめられることがある「身元みもと保証ほしょう」。法律ほうりつなどで規定きていされたものではなく、病院びょういんや介護かいご施設しせつなどが慣習かんしゅう的てきに求もとめているものですが、身寄みよりのない人ひとや頼たよれる親族しんぞくなどがいない人ひとがサービスを受うけられないケースが問題もんだいとなっています。

静岡しずおか市しの介護かいご施設しせつで暮くらす80歳さいの女性じょせいは夫おっとに先立さきだたれて市内しないの自宅じたくで暮くらしてきましたが料理りょうり中ちゅうに大だいやけどをして手術しゅじゅつをしたあと、1人にんでの生活せいかつは難むずかしくなり、ことし1月つき、介護かいご施設しせつへの入所にゅうしょを希望きぼうしました。

しかし、入所にゅうしょの際さいに求もとめられた「身元みもと保証ほしょう人じん」を頼たのめる人ひとがなく、希望きぼうした施設しせつには入所にゅうしょできませんでした。

当時とうじの状況じょうきょうについて、女性じょせいは「介護かいご施設しせつは今いまの世の中よのなか、どこに入はいるにも保証ほしょう人じんなどが必要ひつようですが、私わたしは1人にんなのでしかたがないと思おもいました」と振り返ふりかえります。

その後そのご、女性じょせいは市内しないで身元みもと保証ほしょう事業じぎょうを行おこなう社会しゃかい福祉ふくし法人ほうじんに相談そうだんし、事業じぎょう者しゃに保証ほしょう人じんになってもらい、別べつの介護かいご施設しせつへの入所にゅうしょが実現じつげんしました。

事業じぎょう者しゃは入所にゅうしょ時じの「保証ほしょう人じん」になるだけでなく、施設しせつでの暮くらしに必要ひつようなものを買かって届とどけるなど、日常にちじょう生活せいかつの支援しえんもしていて、この日ひは女性じょせいと一緒いっしょに振り込ふりこみの手続てつづきのため、郵便ゆうびん局きょくの窓口まどぐちまで付き添つきそっていました。

女性じょせいは「病院びょういんの付き添つきそいなどもいつも助たすけていただいて非常ひじょうに助たすかっています。お互おたがいに信頼しんらいがなければ、そうしたことを頼たのむこともできないので、家族かぞくのような存在そんざいです」と話はなしていました。

事業じぎょう者しゃが保証ほしょう人じんになることを条件じょうけんに、女性じょせいを受け入うけいれた介護かいご施設しせつの施設しせつ長ちょうは「利用りよう者しゃの体調たいちょうに変化へんかがあったときの相談そうだんや病院びょういんの受診じゅしん、容体ようだい急変きゅうへん時じの救急きゅうきゅう搬送はんそう、入院にゅういん手続てつづきなどはこれまでは親族しんぞくに頼たよらざるをえなかったので、事業じぎょう者しゃのこうしたサービスはとても助たすかります」と話はなしていました。

「身元みもと保証ほしょう」事業じぎょう 契約けいやくめぐるトラブル相次あいつぐ

身寄みよりのない高齢こうれい者しゃに入院にゅういん時じの「身元みもと保証ほしょう」などを行おこなう民間みんかんのサポート事業じぎょうをめぐっては、単身たんしんの高齢こうれい者しゃの増加ぞうかなどで需要じゅようが高たかまる一方いっぽう、監督かんとくする省庁しょうちょうや法律ほうりつはなく、契約けいやくをめぐるトラブルも相次あいついでいます。

国民こくみん生活せいかつセンターによりますと、全国ぜんこくの消費しょうひ生活せいかつセンターなどに寄よせられた相談そうだん件数けんすうは2018年ねんは100件けんでしたが去年きょねんは302件けんと5年ねんで3倍ばい以上いじょうに増ふえていることがわかりました。

契約けいやくや解約かいやくに関にかんする相談そうだんが最もっとも多おおく、「希望きぼうしていないサービスを追加ついかされ高額こうがくになった」や「解約かいやくを申し出もうしでたが返金へんきんされない」といった相談そうだんがあったということです。

こうした状況じょうきょうを受うけ、厚生こうせい労働ろうどう省しょうなどはサービスの健全けんぜん性せいを確保かくほし、高齢こうれい者しゃなどが安心あんしんして利用りようできるよう事業じぎょう者しゃが守まもるべき指針ししんの案あんを初はじめてとりまとめました。

指針案ししんあんではサービスの内容ないようや費用ひようをホームページなどで表示ひょうじすることや、解約かいやくや返金へんきん方法ほうほうは重要じゅうよう事項じこうとして書面しょめんで説明せつめいすることが望のぞましいとしています。

また、サービスの提供ていきょうにあたっては、内容ないようや費用ひようなどを記録きろくして定期ていき的てきに利用りよう者しゃに知しらせることや認知にんち症しょうなどで利用りよう者しゃが十分じゅうぶんに判断はんだんできない場合ばあいは成年せいねん後見こうけん制度せいどの活用かつようも求もとめています。

厚生こうせい労働ろうどう省しょうなどは、指針ししんの案あんについてパブリックコメントを行おこなって意見いけんを募つのったうえで最終さいしゅう的てきな策定さくていを目指めざすことにしていますが、指針ししんに強制きょうせい力りょくはなく、監督かんとく官庁かんちょうも決きまっていないことから今後こんご、事業じぎょうが適正てきせいに行おこなわれているかチェックする体制たいせいの整備せいびなどが課題かだいとなります。

利用りよう者しゃ増ぞうの「高齢こうれい者しゃ等とう終身しゅうしんサポート事業じぎょう」

今回こんかいの指針ししんの案あんで、身寄みよりのない人ひとが入院にゅういんや施設しせつ入所にゅうしょなどの際さいに求もとめられる「身元みもと保証ほしょう」や、買い物かいものや通院つういんの付き添つきそいなどの「日常にちじょう生活せいかつ支援しえん」、亡なくなったあとの葬儀そうぎや遺品いひんの処分しょぶんなどの「死後しご事務じむ」を行おこなうサービスは「高齢こうれい者しゃ等とう終身しゅうしんサポート事業じぎょう」と位置いちづけられました。

こうした事業じぎょうは、高齢こうれい化かや単身たんしん世帯せたいの増加ぞうかなどを背景はいけいに、「介護かいご保険ほけん」といった既存きそんの制度せいどでは補おぎないきれない部分ぶぶんのニーズを引き受ひきうける形かたちで利用りよう者しゃが増ふえているとみられます。

事業じぎょうを利用りようしている殿岡とのおかさえ子さえこさん（71）は都内とないで1人にん暮くらしをしていて、交通こうつう事故じこの影響えいきょうで高次こうじ脳のう機能きのう障害しょうがいがあるほか、腰椎ようついに痛いたみもあります。

そのため、月つきに数すう回かいのクリニックへの通院つういん時じには、事業じぎょう者しゃの付き添つきそいサービスを利用りようしていて、この日ひは男性だんせいスタッフが診察しんさつに立ち会たちあい、医師いしの問診もんしんを一緒いっしょに聞きいたり、骨折こっせつ予防よぼうの注射ちゅうしゃを打うつのを見守みまもったりしたほか、受診じゅしん料りょうの支払しはらいなどをサポートしていました。

殿岡とのおかさんは「今いまは特とくに体からだの具合ぐあいが悪わるいので重おもい荷物にもつを持もってくれたり、一緒いっしょにあちこち連つれて行いってくれたりするのはとても楽らくで助たすかります」と話はなしていました。

こうしたサービスは、事業じぎょう者しゃとの契約けいやくに基もとづいて行おこなわれ、支援しえんは亡なくなったあとまで続つづくことから契約けいやくが長期ちょうきにわたるのも特徴とくちょうです。

そのため、この事業じぎょう者しゃは利用りよう者しゃの容体ようだいが急変きゅうへんしたときに備そなえ、受うけたい医療いりょうや最期さいごに過すごしたい場所ばしょなどの要望ようぼうを定期ていき的てきに確認かくにんしているほか、亡なくなった後のちに備そなえ、葬儀そうぎや納骨のうこつなどを行おこなうことをあらかじめ定さだめる契約けいやくも結むすんでいます。

身元みもと保証ほしょうなどを行おこなう事業じぎょう者しゃの小池こいけ安やすし喜きさんは「利用りよう者しゃが元気げんきなうちからいざというときの希望きぼうや思おもいを聞きいておくことではじめて本人ほんにんの意思いしを代弁だいべんすることができます。高齢こうれいで身寄みよりがなければ、生活せいかつに不備ふびが生しょうじる場面ばめんが現実げんじつにはあり、支援しえんを通をつうじて安心あんしんにつなげられればと思おもいます」と話はなしていました。

事業じぎょう者しゃの“質しつの確保かくほ”に取り組とりくむ自治体じちたいも

「身元みもと保証ほしょう」などを行おこなう事業じぎょうのニーズが高たかまる中なか、独自どくじに事業じぎょう者しゃの質しつの確保かくほに取り組とりくみ始はじめた自治体じちたいも出でてきています。

静岡しずおか市しではことし、契約けいやくルールや解約かいやく時じの返金へんきん手続てつづき、利用りよう者しゃからの寄付きふの扱あつかいなどの基準きじゅんを新あらたに定さだめ、条件じょうけんを満みたす場合ばあいに限かぎって3年間ねんかん「優良ゆうりょう事業じぎょう者しゃ」として認証にんしょうする制度せいどを導入どうにゅうしました。

認証にんしょうの取得しゅとくを希望きぼうした事業じぎょう者しゃに対にたいしては市しがヒアリング調査ちょうさなどを行おこない、支援しえんや契約けいやくの内容ないよう、個人こじん情報じょうほうの取り扱とりあつかいなど市しの定さだめた基準きじゅんにのっとった運用うんようをしているか、細こまかく確認かくにんします。

そして基準きじゅんを満みたすと確認かくにんできれば「優良ゆうりょう事業じぎょう者しゃ」として認証にんしょうしますが、基準きじゅんは30項目こうもく以上いじょうと多岐たきにわたるため、認証にんしょうを得えたのはまだこの1法人ほうじんだけです。

今後こんごどれだけ公的こうてきな枠組わくぐみの中なかで「身元みもと保証ほしょう」などの事業じぎょうの普及ふきゅうが進すすむかが課題かだいになっています。

認証にんしょう事業じぎょうを始はじめた静岡しずおか市し地域ちいき包括ほうかつケア・誰だれもが活躍かつやく推進すいしん本部ほんぶの担当たんとう者しゃは「市しが一定いっていのルールを作つくって事業じぎょう者しゃの質しつの確保かくほに関かかわることで、一人暮ひとりぐらしで困こまっている高齢こうれい者しゃが安心あんしんして過すごせるよう、終おわり活かつ支援しえんの手伝てつだいができればと考かんがえています」と話はなしていました。

静岡しずおか市内しないで唯一ゆいいつの認証にんしょうを受うけた事業じぎょう者しゃで、社会しゃかい福祉ふくし法人ほうじん「まごころ」の田中たなか努つとむさんは「何なにもルールがない中なかでの運営うんえいは高齢こうれい者しゃからすればどの事業じぎょう者しゃを選えらんだらいいかわからず戸惑とまどう一方いっぽう、私わたしたちも手探てさぐり状態じょうたいで支援しえんをするには不安ふあんがあったので、認証にんしょうという形かたちでルールを設もうけてもらえるのはありがたいです。いま多おおくの高齢こうれい者しゃに求もとめられる大事だいじな事業じぎょうだと思おもうので、これからは自信じしんを持もってサービスを提供ていきょうしていきたい」と話はなしていました。

専門せんもん家か「より多おおくの人ひとで高齢こうれい者しゃ支ささえる体制たいせいづくりを」

事業じぎょう者しゃ向むけの指針ししんの案あんが初はじめて示しめされたことについて、「身元みもと保証ほしょう」などの問題もんだいに詳くわしい日本にっぽん総合そうごう研究所けんきゅうじょの沢村さわむら香苗かなえ研究けんきゅう員いんは「身寄みよりのない人ひとの増加ぞうかとともにこれまでは家族かぞくが担になってきた役割やくわりを代行だいこうするサービスへのニーズが高たかまる中なか、今回こんかい、指針ししんが示しめされたことで事業じぎょう者しゃの質しつをある程度あるていど担保たんぽして高齢こうれい者しゃに不ふ利益りえきがないよう手てだてがとられた意義いぎは大おおきい」と話はなしています。

その上うえで、今後こんごの課題かだいについては「事業じぎょうを監督かんとくする官庁かんちょうがない前提ぜんていは変かわっていないので示しめされた指針ししんを事業じぎょう者しゃがしっかり守まもれているか、守まもらなかったらどうなるのかといった実効じっこう性せいや仕組しくみの検討けんとうが必要ひつようです。また、支援しえんは有償ゆうしょうなので、経済けいざい的てきな事情じじょうや判断はんだん能力のうりょくが十分じゅうぶんでないなどの理由りゆうで利用りようできない高齢こうれい者しゃへの対応たいおうも考かんがえる必要ひつようがある。そして、事業じぎょう者しゃがいるからといって全部ぜんぶを担になってもらおうとすると負荷ふかが高たかまるため、自治体じちたいや地域ちいきのほか、親族しんぞくがいる人ひとはその力ちからも借かりて身寄みよりがない人ひとをより多おおくの人ひとで高齢こうれい者しゃを支ささえていく体制たいせいづくりを目指めざすべきだ」と話はなしていました。