（ウクライナ軍ぐん シルスキー総そう司令しれい官かん）

ロシアによるウクライナへの軍事ぐんじ侵攻しんこうにおいて、長ながく攻防こうぼうが続つづいてきた激戦げきせん地ちの1つ、「アウディーイウカ」。17日にち未明みめい、ウクライナ軍ぐんは部隊ぶたいを撤退てったいさせると発表はっぴょうしました。

撤退てったいが意味いみすることは？そして今後こんごへの影響えいきょうは？

専門せんもん家かに詳くわしく聞ききました。

（国際こくさい部ぶ 海老塚えびつか恵めぐみ）

「アウディーイウカ」とは

アウディーイウカはウクライナ東部とうぶ・ドネツク州しゅうの工業こうぎょう都市としで、ヨーロッパ最大さいだい級きゅうとされる製鉄せいてつ用ようのコークス工場こうじょうがあります。

2014年ねん以降いこう、親しんロシア派はの武装ぶそう勢力せいりょくとウクライナ軍ぐんによる戦闘せんとうが行おこなわれてきた場所ばしょで、ドネツク市しが親しんロシア派はに支配しはいされてからは、ウクライナ軍ぐん側がわの最前線さいぜんせんの防衛ぼうえい拠点きょてんとなってきました。

おととしウクライナに侵攻しんこうしたロシア軍ぐんはドネツク州しゅう全域ぜんいきを掌握しょうあくする足あしがかりとして、侵攻しんこう開始かいし当初とうしょからアウディーイウカへの攻撃こうげきを続つづけてきました。

地元じもとの市長しちょうによりますと、激はげしい戦闘せんとうにより市街しがい地ちはがれきと化かし、生活せいかつインフラのほとんどが停止ていししたということです。

また、侵攻しんこう前まえには3万まん3000人にんいた住民じゅうみんの多おおくは退避たいひし、今月こんげつ上旬じょうじゅんには市内しないに残のこるのは900人にんほどだとしています。

「いずれ取り戻とりもどす」ウクライナ

ドネツク州しゅう周辺しゅうへんの部隊ぶたいの指揮しきを執とるタルナウスキー司令しれい官かんは17日にち、SNSで、「撤退てったいは計画けいかくに基もとづいて行おこなわれたが、圧倒的あっとうてきな敵てき戦力せんりょくに押おされ、最終さいしゅう段階だんかいで若干じゃっかんの兵士へいしが捕虜ほりょになった」と発表はっぴょうし、撤退てったいが完了かんりょうに近ちかづいていることを示唆しさするとともに、捕虜ほりょの人道的じんどうてきな扱あつかいを求もとめました。

また、ウクライナ軍ぐんのシルスキー総そう司令しれい官かんは17日にち、SNSで、「敵てきの人員じんいんや装備そうび品ひんに大おおきな損害そんがいを与あたえた」として、長期ちょうき間かんにわたってロシア側がわと激はげしい戦闘せんとうを続つづけてきた兵士へいしをたたえるとともに、「アウディーイウカはいずれ取り戻とりもどす」と述のべて、今後こんご奪還だっかんを目指めざす姿勢しせいを強調きょうちょうしました。

「完全かんぜんに掌握しょうあくした」ロシア

一方いっぽう、ロシア国防省こくぼうしょうは17日にち、アウディーイウカについてロシア軍ぐんが完全かんぜんに掌握しょうあくしたことをショイグ国防こくぼう相しょうがプーチン大統領だいとうりょうに報告ほうこくしたと明あきらかにしました。

その上うえで、「ドネツク州しゅうの解放かいほうを進すすめるため攻撃こうげきを続つづける」として、ドネツク州しゅう全域ぜんいきの掌握しょうあくをねらう方針ほうしんを改あらためて示しめしました。

ロシア軍ぐんは去年きょねん10月頃つきごろからアウディーイウカへの攻勢こうせいを強つよめていて、プーチン政権せいけんとしては3月つきに大統領だいとうりょう選挙せんきょが行おこなわれるのを前まえに、アウディーイウカの掌握しょうあくをウクライナ侵攻しんこうの重要じゅうような成果せいかだとして国民こくみんにアピールしたい思惑おもわくもあるとみられます。

専門せんもん家かの読み解よみときは？

この撤退てったいの意味いみと、今後こんごへの影響えいきょうは？

防衛ぼうえい省しょう防衛ぼうえい研究所けんきゅうじょの兵頭ひょうどう慎まき治おさむ 研究けんきゅう幹事かんじに詳くわしく聞ききました。

Q ロシアにとっての「アウディーイウカ」とは

A プーチン大統領だいとうりょうが戦争せんそう開始かいし当初とうしょから優先ゆうせんしていた東部とうぶ2州しゅうの1つがドネツク州しゅうだ。アウディーイウカが戦略せんりゃく的てきに重要じゅうようだというよりも、政治せいじ的てきにプーチン大統領だいとうりょうがこだわっていた。

Q ウクライナにとっての「アウディーイウカ」とは

A ロシア側がわが政治せいじ的てきにここに注目ちゅうもくしているので、ゼレンスキー大統領だいとうりょうもここはその抵抗ていこうの象徴しょうちょうとして死守ししゅしなければいけないと思おもっていたはずだ。撤退てったいはゼレンスキー大統領だいとうりょうからすると本意ほんいではなかったはずだ。

Q 撤退てったいの理由りゆうについて、新しん総そう司令しれい官かんのシルスキー氏しは「兵士へいしの命いのちを守まもるため」などと説明せつめいしているが…

A “ゼレンスキー大統領だいとうりょうへの政治せいじ的てきダメージは避さけられずか”

　ゼレンスキー大統領だいとうりょうが解任かいにんしたザルジニー前ぜん総そう司令しれい官かんも同おなじ主張しゅちょうをしていた。結果けっか的てきにザルジニー氏しが主張しゅちょうしていた撤退てったいの動うごきをゼレンスキー大統領だいとうりょうもとることになってしまった。

　戦況せんきょうが好転こうてんするのであれば、今回こんかいの総そう司令しれい官かんの人事じんじに対にたいしてウクライナ国内こくないでも一定いっていの評価ひょうかが得えられるだろうが、アウディーイウカから撤退てったいすることになったことで、「今回こんかいの総そう司令しれい官かんの交代こうたいは何なにだったのか」という意見いけんが国内こくないからあがる可能かのう性せいも出でてきたのではないか。

Q 撤退てったいの影響えいきょうは

A “各国かっこくの軍事ぐんじ支援しえんにどのような影響えいきょうが及およぶかに注目ちゅうもく”

　欧米おうべい諸国しょこくからの支援しえんが先細さきほそりしつつあるなか、ウクライナが前線ぜんせんで弾薬だんやく不足ふそくに直面ちょくめんしている。いまのウクライナ軍ぐんが置おかれた軍事ぐんじ的てきな苦境くきょうを浮き彫うきぼりにしている。

　ウクライナはこれを機きに、さらなる軍事ぐんじ支援しえんの強化きょうかを欧米おうべい諸国しょこくに呼よびかけることになると思おもうが、逆ぎゃくに欧米おうべい諸国しょこくからすると、ウクライナが置おかれる状況じょうきょうが厳きびしいということでさらに軍事ぐんじ的てきな支援しえんを行おこなってもウクライナにとって成果せいかがあるのか、疑問ぎもん視しする声こえも出でてくる可能かのう性せいはある。

Q 今後こんごの戦況せんきょうは

A “こう着こうちゃくした状況じょうきょうが続つづいていくのでは”

　ウクライナ軍ぐんは東部とうぶでは防衛ぼうえいラインを固かためながら、ロシア軍ぐんのさらなる制圧せいあつ拡大かくだいを阻止そししていくだろう。ロシア軍ぐんもいまある戦力せんりょくでは短期間たんきかんで大幅おおはばな制圧せいあつ拡大かくだいは簡単かんたんではない。