医師いしの大久保おおくぼ愉一いち被告ひこく（45）は5年ねん前まえ、元もと医師いしの山本やまもと直樹なおき被告ひこく（46）とともに、全身ぜんしんの筋肉きんにくが徐々じょじょに動うごかなくなる難病なんびょうのALSを患わずらっていた京都きょうと市しの林はやし優里ゆりさん（当時とうじ51）から依頼いらいを受うけ、薬物やくぶつを投与とうよして殺害さつがいしたとして嘱託しょくたく殺人さつじんなどの罪つみに問とわれました。

大久保おおくぼ被告ひこく側がわは「処罰しょばつすることは、林はやしさんの選択せんたくや決定けっていを否定ひていし、自己じこ決定けってい権けんを定さだめた憲法けんぽうに違反いはんする」として、無罪むざいを主張しゅちょうしていました。

5日にちの判決はんけつで京都きょうと地方ちほう裁判所さいばんしょの川上かわかみ宏ひろし裁判さいばん長ちょうは「自己じこ決定けってい権けんは、個人こじんが生存せいぞんしていることが前提ぜんていであり、恐怖きょうふや苦痛くつうに直面ちょくめんしていても、みずからの命いのちを絶たつために他者たしゃの援助えんじょを求もとめる権利けんりなどが導き出みちびきだされるものではない」と述のべ、被告ひこく側がわの主張しゅちょうを退しりぞけました。

そのうえで、「医師いしでありながら、SNS上じょうの短みじかいやりとりのみで、診察しんさつや意思いし確認かくにんもろくにできないわずか15分ふん程度ていどの面会めんかいで軽々かるがるしく殺害さつがいに及およんだ。130万まん円えんを受領じゅりょうしてから犯行はんこうに及およんだこともあわせると、被害ひがい者しゃのためを思おもっていたとは考かんがえにくく、利益りえきを求もとめた犯行はんこうだったと言いわざるをえない。被告ひこくの生命せいめい軽視けいしの姿勢しせいは顕著けんちょで、強つよい非難ひなんに値あたいする」と述のべました。

川上かわかみ裁判さいばん長ちょうは、大久保おおくぼ被告ひこくが山本やまもと被告ひこくらとともに問とわれた13年ねん前まえ、山本やまもと被告ひこくの父親ちちおやを殺害さつがいした罪つみについても「大久保おおくぼ被告ひこくが計画けいかくを練り上ねりあげ、重要じゅうようで不可欠ふかけつな役割やくわりを果はたした」と指摘してきしたうえで、懲役ちょうえき18年ねんを言い渡いいわたしました。

大久保おおくぼ被告ひこく側がわは控訴こうそする方針ほうしんです。

林はやし優里ゆりさんの父親ちちおや「娘むすめが帰かえってくるわけではない」

亡なくなった林はやし優里ゆりさんの父親ちちおや（83）は、判決はんけつのあと会見かいけんし「刑けいが重おもくても軽かるくても娘むすめが帰かえってくるわけではなく、第だい2、第だい3の優ゆう里さとが出でないことを願ねがうばかりです」と話はなしました。

そのうえで「今回こんかいの事件じけんによって、ALSという病気びょうきが世間せけんに知しられ、患者かんじゃの苦労くろうに目めが向むけられるようになった側面そくめんもあると思おもっています。ALS患者かんじゃが娘むすめのように『他人たにんによって生いかされている』とめげてしまわないよう、介助かいじょや介護かいごの体制たいせいをもっとよくすることにつながってほしいです」と訴うったえました。

ALS患者かんじゃの当事とうじ者しゃ「誰だれもが当たり前あたりまえに生いきられる社会しゃかいを」

ALS患者かんじゃの当事者とうじしゃとして会見かいけんを開ひらいた増田ますだ英明ひであきさんは、「林はやしさんの死しにたいという一いち面めん的てきなことばや状況じょうきょうだけを切り取きりとること自体じたいが差別さべつです。私わたしたちにとってはALSの仲間なかまが殺ころされた事実じじつは変かわることはなく許ゆるすことはできません。社会しゃかいは生いきられる人ひとを生いかす社会しゃかいであるべきで、社会しゃかいはそのためにあります。生いきていたいと言いわなくても、誰だれもが当たり前あたりまえに自然しぜんに生いきられる社会しゃかいをどうつくるかに目めを向むけて考かんがえてほしいです」と訴うったえました。

また、同おなじくALS患者かんじゃの岡部おかべ宏ひろし生せいさんは、「林はやしさんは死しにたいという思おもいと生いきたいという思おもいを持もっていました。そんな人ひとを殺ころしてしまったのです。そんなことが許ゆるされるわけがありません。生いきることを支ささえ続つづけられる社会しゃかいであること。何なにより人ひとの命いのちについて深ふかく考かんがえられる社会しゃかいになってほしいとせつに願ねがいます。これは私わたしたち障害しょうがい者しゃや難病なんびょう患者かんじゃだけの問題もんだいではありません。すべての人ひとが当事者とうじしゃとなる問題もんだいなのです。林はやしさんが戻もどってこないことに深ふかい悲かなしみを禁きんじ得えません」と訴うったえました。

京都きょうと地方ちほう裁判所さいばんしょ 嘱託しょくたく殺人さつじんの罪つみに問とうべきでない要件ようけんを示しめす

判決はんけつで京都きょうと地方ちほう裁判所さいばんしょは、患者かんじゃなどから嘱託しょくたくを受うけて殺害さつがいに及およんだ場合ばあいに、社会しゃかい的てき相当そうとう性せいが認みとめられ、嘱託しょくたく殺人さつじんの罪つみに問とうべきでない事案じあんがあり得えるとして、最低さいてい限げん必要ひつような要件ようけんを示しめしました。

【前提ぜんていとなる状況じょうきょう】

まず前提ぜんていとして、

▼病状びょうじょうによる苦痛くつうなどの除去じょきょや緩和かんわのためにほかに取とるべき手段しゅだんがなく、

かつ、

▼患者かんじゃがみずからの置おかれた状況じょうきょうを正ただしく認識にんしきした上うえで、みずからの命いのちを絶たつことを真摯しんし（しんし）に希望きぼうするような場合ばあいとしました。

【要件ようけん1 症状しょうじょうと他たの手段しゅだん】

そのうえで、医療いりょう従事じゅうじ者しゃは、

▼医学いがく的てきに行おこなうべき治療ちりょうや検査けんさ等とうを尽つくし、ほかの医師いしらの意見いけんなども求もとめ患者かんじゃの症状しょうじょうをそれまでの経過けいかなども踏ふまえて診察しんさつし、死期しきが迫せまるなど現在げんざいの医学いがくでは改善かいぜん不可能ふかのうな症状しょうじょうがあること、

▼それによる苦痛くつうなどの除去じょきょや緩和かんわのためにほかに取とるべき手段しゅだんがないことなどを慎重しんちょうに判断はんだんするとしました。

【要件ようけん2 意思いしの確認かくにん】

さらに

▼その診察しんさつや判断はんだんをもとに、患者かんじゃに対にたいして、患者かんじゃの現在げんざいの症状しょうじょうや予後よごを含ふくめた見込みこみ、取とり得える選択肢せんたくしの有無うむなどについて可能かのうな限かぎり説明せつめいを尽つくし、それらの正ただしい認識にんしきに基もとづいた患者かんじゃの意思いしを確認かくにんするほか、

▼患者かんじゃの意思いしをよく知しる近親きんしん者しゃや関係かんけい者しゃなどの意見いけんも参考さんこうに、患者かんじゃの意思いしが真摯しんしなものであるかその変更へんこうの可能かのう性せいの有無うむを慎重しんちょうに見極みきわめることとしました。

【要件ようけん3 方法ほうほう】

また、患者かんじゃ自身じしんの依頼いらいを受うけて苦痛くつうの少すくない医学いがく的てきに相当そうとうな方法ほうほうを用もちいるとしました。

【要件ようけん4 過程かていの記録きろく】

そして、事後じご検証けんしょうが可能かのうなように、これらの一連いちれんの過程かていを記録きろく化かすることなど、あわせて4つの要件ようけんが最低さいてい限げん、必要ひつようだとしました。

これを踏ふまえて、今回こんかいの事件じけんについて判決はんけつでは「被告ひこくは、林はやしさんの主治医しゅじいやALSの専門せんもん家かではなく、症状しょうじょうやカルテを確認かくにんしておらず、診察しんさつや面会めんかいすらしたことがなかった。これまでの経過けいかなども踏ふまえた林はやしさんの現在げんざいの症状しょうじょうや予後よごの見込みこみなどを正確せいかくに把握はあくしないまま、主治医しゅじいや家族かぞくなどにも知しらせることなく秘密ひみつ裏うらに初はじめて会あったばかりの林はやしさんをわずか15分ふん程度ていどのうちに殺害さつがいするに至いたり、経過けいかについても検証けんしょう可能かのうなように記録きろく化かしていない。被告ひこくの行為こういに社会しゃかい的てき相当そうとう性せいは到底とうてい認みとめられず、嘱託しょくたく殺人さつじん罪ざいの成立せいりつを妨さまたげるものではない」と判断はんだんしました。