専門家は「自治体などは観光客向けにも地震や避難に関する情報などを発信していく必要がある」と指摘しています。
高知 はりまや橋周辺「よさこい祭り」で急増
南海トラフ地震臨時情報が発表された8月8日から13日までの6日間の人出について、NHKは、NTTドコモが携帯電話の基地局からプライバシーを保護した形で集めたデータを使い、前の4週の同じ曜日の平均と比較して分析しました。
分析したのは四国にある津波の浸水想定区域のうち、主要な駅や観光地を含む地域の1キロ四方の人数です。
その結果、高知市のはりまや橋周辺では、高知の夏の風物詩「よさこい祭り」が始まった今月10日から人が急増し、11日の日曜日には率にして150%増加し、2.5倍になっていたことがわかりました。
徳島駅周辺 屋外での「阿波おどり」で増加
また徳島市の徳島駅周辺では、屋外での「阿波おどり」が始まった今月12日の人出が41.7%増加していました。
愛媛県の道の駅でも人出が増加
このほか愛媛県愛南町の道の駅「みしょうMIC」周辺では今月10日の土曜日に18.3%、愛媛県宇和島市の道の駅、「きさいや広場」周辺では11日の日曜日に8.9%、それぞれ人出が増加していました。
徳島市 大勢の観光客の避難を想定し対応
15日まで阿波おどりが開催される徳島市では、大勢の観光客の避難を想定し対応に追われました。
「南海トラフ地震臨時情報」の発表を受けて市と阿波おどりの実行委員会は、携帯電話会社が提供する去年の阿波おどり期間の位置情報をもとに、地震が発生した場合の避難者は最大で7万人に上ると想定しています。
避難ルート示したマップを掲示
このため演舞場などには、近くの津波避難ビルや津波の浸水域外にある高台への避難ルートを示したマップを掲示し、観光客や踊り手のほか祭りのスタッフなどに周知しました。
市はこうした避難場所およそ30か所を点検した結果、最大7万人を収容できることを確認したとしています。
ただ、市は市内の避難所に水や食料などを備蓄していますが、大勢の観光客が避難した場合には不足する可能性もあるとしています。
徳島市危機管理課の浦上智弘課長は「お盆の期間なのでいつもより人出が多く、避難対策を行う必要があった。今回の対応を検証し今後に生かしたい」と話していました。
備蓄の確保などの課題
大勢の観光客や帰省客が訪れている中で災害が発生した場合にどう対応するのか、沿岸部の自治体では避難所での備蓄の確保などの課題に直面しています。
津波によって中心部が浸水すると想定されている愛媛県宇和島市では、臨時情報の発表を受けて職員が24時間体制で情報収集や市民への備えの呼びかけなどを行っています。
しかし、お盆休みの期間中は市内の道の駅などに多くの観光客や帰省客が訪れているため、巨大地震が起きた場合に十分に対応できるのか課題を感じています。
市内には公民館や体育館など津波の浸水時に使用できる避難所がおよそ100か所あり水や食料などの備蓄が用意されていますが、市民1人につき2日分の計算で量を確保しているため、観光客などの分が想定されているわけではありません。
緊急時の情報伝達にも課題
また、市民向けに避難の情報や最寄りの避難場所などの情報を伝える防災アプリも用意していますが、観光客には知られていない場合も多く、緊急時の情報伝達にも課題があると言います。
宇和島市危機管理課の赤松芳和課長は「市外から多くの方が訪れている時期に災害が発生することも考えられる。どのぐらい備蓄を用意すればよいのか難しい部分もあるが、平時以外の状況も考慮して備蓄の充実を図ることを検討したい」と話していました。
道の駅では
最大で4メートルを超える津波が想定されている道の駅「きさいや広場」は、地震で津波警報が出された場合には、従業員が利用客を200メートルほど離れた高台の国道まで避難誘導することにしています。
今回の「臨時情報」が出されたあと、従業員は、観光客の誘導方法などが書かれた避難対応マニュアルや国道までの避難経路などを改めて確認しました。
しかし、お盆休みの期間は県外からの観光客や帰省客が大幅に増加し、1日の利用客がふだんの倍程度に増えているうえ、県外から訪れる土地勘のない人も多いことから、大勢の利用客をどう安全に避難させるのか頭を悩ませています。
この道の駅では過去に利用客を巻き込んだ津波避難訓練も行っていますが、最近は実施できていないということで、今後は訓練やマニュアルの更新などを通して利用客への避難誘導を強化したいとしています。
「きさいや広場」の井上裕介副支配人は「連休中で県外から多くの方が来ているがこの状況で大きな津波が来ればパニックになるかもしれない。できるだけ明確に避難誘導ができるよう備えを進めたい」と話していました。
専門家「避難場所がいっぱいになる懸念も 事前の情報発信を」
住民の避難行動に詳しい愛媛大学防災情報研究センターの二神透副センター長は「津波が想定されている場所に多くの観光客や帰省客が集まると、その地域の避難場所や避難経路を知らなかったり避難場所がいっぱいになったりする状況が想定され、人的な被害も懸念される」と指摘しています。
このため帰省客や観光客は行き先の自治体のハザードマップを確認し、津波の高さや避難場所のほか避難経路などをあらかじめ把握しておくことや必要最低限の水や食料を持参することが重要だとしています。
一方で受け入れる側の自治体やイベントの主催者は、イベントの参加者に災害時の避難方法を周知したり、観光シーズンは民間の企業などと連携してふだんより多めに物資を確保したりする取り組みが必要だとしています。
そのうえで「今回は臨時情報とお盆休みの観光シーズンが重なったため、自治体やイベントの主催者からの十分な情報発信ができていなかった。今後は観光客向けにも地震や避難などに関する詳細な情報を発信していく必要がある」と話していました。