※日本製鉄とUSスチールの訴訟の内容についても詳しく説明します。
《これまでの経緯は》
日本製鉄 午前9時から会見 橋本会長が一連の経緯を説明へ
日本製鉄によるUSスチールの買収計画をめぐっては、計画を審査していたアメリカ政府のCFIUS(シフィウス)=対米外国投資委員会は全会一致に至らず、判断を委ねられたバイデン大統領が今月3日、国家安全保障上の懸念を理由に買収計画に対する禁止命令を出しました。
これに対し、日本製鉄とUSスチールは6日、大統領の禁止命令や委員会の審査は、アメリカの憲法上の適正手続きや審査の手続きの要件に違反し、違法な政治的介入にあたるとしてバイデン大統領や委員会の議長を務めるイエレン財務長官などを相手取って、禁止命令を無効とし、審査のやり直しを求める訴えをアメリカの裁判所に起こしました。
また、日本製鉄とUSスチールの買収で競合した現地の鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」やUSW=全米鉄鋼労働組合のマッコール会長などに対しても、買収を阻止してUSスチールの競争力を低下させようとしたなどとして、違法行為の差し止めや損害賠償を求める訴えを起こしました。
日本製鉄は7日午前9時から会見を開き、橋本英二会長が一連の経緯を説明することにしていて、日本の民間企業がバイデン大統領やアメリカ政府を相手に全面的に争う姿勢を示す異例の事態となっています。
訴訟の内容を詳しく
日本製鉄とUSスチールは共同で2件の訴訟を起こしました。
《1件目 CFIUS(シフィウス)に対する訴訟》
1件目の訴訟で日本製鉄とUSスチールは
▽CFIUS=対米外国投資委員会と
▽バイデン大統領
▽イエレン財務長官(CFIUS議長)
▽ガーランド司法長官を相手取り、
バイデン大統領とCFIUSが今回の買収について憲法上の適正手続きや法律上の権利を侵害したと主張しています。
具体的には、CFIUSが国家安全保障上の観点から行うべき適正手続きにもとづく審査を行わず、バイデン大統領が政治的理由により、国家安全保障を害することとなる大統領令を出したことに異議を述べる申立書を首都ワシントンの連邦控訴裁判所に提出したとしています。
申立書は、裁判所に対して違法なCFIUSの審査とバイデン大統領の命令を無効にし日本製鉄とUSスチールの適正手続きの権利とCFIUSの法的義務を満たす審査を改めて行うようCFIUSに命じることを求めています。
日本製鉄とUSスチールは、バイデン大統領とCFIUSによる憲法と法令に明白に違反する事実について次のように説明しています。
▽バイデン大統領は再選を目指すため、USW=全米鉄鋼労働組合の執行部の支持を取り付ける目的でCFIUSが正式な審査を開始すらしていない2024年3月に買収を阻止する計画を公に発表した。
▽CFIUSは8月31日、日本製鉄などに17ページの書簡を送付し、初めて買収に関する国家安全保障上の懸念に言及した。その内容は事実誤認に満ちており、マッコール会長を含むUSW執行部と同じ主張を繰り返すものであった。
▽CFIUS審査の一般的なルールでは回答に3営業日の期間が与えられるのに、CFIUSは、わずか1営業日後の回答を要求した。
▽10月、バイデン政権のメンバーはCFIUSの審査で議決権をもつキャサリン・タイ通商代表部代表を中心にクリーブランド・クリフス社の施設を訪れゴンカルベスCEOやUSW執行部との私的なツアーと対談に参加した。タイ代表は、「労働者中心の貿易政策」を推進し続けることを約束した。
▽バイデン大統領は選挙日まで1週間を切ったあと、USWのマッコール会長をタイ代表の顧問に任命した。このようにタイ代表はクリフス社とUSWと親密な関係を築いた。
▽日本製鉄とUSスチールは、9月以降、CFIUSが表明した懸念に誠実に対処するためNSA=国家安全保障協定の草案を3回にわたりCFIUSに提出した。CFIUSは、審査期限の90日以上前にNSAの草案を受領したが、一度も書面によるコメントを行うことなく、バイデン大統領に判断を付託した。
▽CFIUS審査がバイデン大統領が事前に下した決定を裏付ける結果となるように操作されていたことははっきりしており、CFIUSの審査対象者が保障されるべき適正手続きに明確に反する。
日本製鉄とUSスチールは、こうした事例を挙げたうえで「CFIUSは、国家安全保障上の懸念について政治的に中立な立場から誠実に審査や調査を行うのではなく、バイデン大統領の政治的目的を支援するために、あらかじめ決められた結果に達するための審査手続きを行った」と厳しく批判しています。
そして「この違法で不適切な行為を複数の法的根拠に基づいて無効にするよう求める」とし、「こうした法的根拠には、バイデン大統領とCFIUSが、日本製鉄とUSスチールの憲法修正第5条にもとづく適正手続きを受ける権利をはく奪したこと、CFIUSの審査手続きを定めた国防生産法の要件に違反したこと、国防生産法上の権限を超える決定を行ったことが含まれる」と主張しています。
《2件目 クリフス社とゴンカルベスCEO、USWのマッコール会長に対する訴訟》
2件目の訴訟で日本製鉄とUSスチールは、クリフス社とゴンカルベスCEO、それにUSWのマッコール会長に対する訴状のほか、仮差止と迅速な審理を求める申し立てをペンシルベニア州の連邦地方裁判所に提出しました。
アメリカの鉄鋼市場を独占するための違法な企ての一環として、クリフス社以外の当事者によるUSスチールの買収を阻止するため、共謀して反競争的で組織的な違法活動を行ったとしています。
こうした行為は独占禁止法のほか、組織犯罪対策の中心的な法令であるRICO法に違反すると主張し、クリフス社とゴンカルベスCEO、それにマッコール会長がさらなる反競争的な行為を行うことを防ぐための差止命令と多額の損害賠償を課すことを求めています。
日本製鉄とUSスチールは、今回の買収に対するUSスチールの株主からの圧倒的な賛成とUSWの買収阻止の試みを否定した仲裁判断にもかかわらずクリフス社とゴンカルベスCEO、それにマッコール会長は買収を阻止し、クリフス社による買収を強要するための共謀を続けたと主張しています。
日本製鉄とUSスチールは「これらの訴訟には十分な根拠があり、この買収を正当に完了させることができるものと考えている」としています。
ホワイトハウス報道担当者「大統領は決してためらうことはない」
日本製鉄によるUSスチールの買収計画をめぐって、バイデン大統領による禁止命令の無効などを求める訴えを日本製鉄とUSスチールが起こしたことについて、ホワイトハウスの報道担当者はNHKの取材に対し「国家安全保障と貿易の専門家からなる委員会はこの買収がアメリカの安全保障にリスクをもたらす可能性があると判断した。バイデン大統領は、この国の安全保障、インフラ、そしてサプライチェーンの強じんさを守るため、決してためらうことはない」として大統領の判断は正当だと改めて主張しました。
クリフス社 ゴンカルベスCEO声明「恥知らずな試み」
アメリカの鉄鋼大手「クリーブランド・クリフス」のゴンカルベスCEOは、6日、声明を発表し、訴えについて「日本製鉄とUSスチールがみずから招いた惨事を他人になすりつけようとする、恥知らずな試みだ」として批判しています。
そのうえで「彼らの訴えにはまったく根拠がない。われわれは訴訟の準備を整えており、法廷で事実を明らかにすることを待ち望んでいる」とコメントしています。
USW マッコール会長声明「根拠ない主張に断固として反論」
日本製鉄とUSスチールが、アメリカの鉄鋼業界の労働組合、USW=全米鉄鋼労働組合のマッコール会長らに対し、買収を阻止してUSスチールの競争力を低下させようとしたなどとして訴えを起こしたことについて、マッコール会長は6日、声明で「われわれは訴状を精査しているが、これらの根拠のない主張に対しては断固として反論していく」としています。
また「バイデン政権は、日本製鉄によるUSスチールの買収計画を阻止することでアメリカの重要な利益や国家安全保障を守り、わが国の重要なサプライチェーンを支える国内の鉄鋼産業を維持することに貢献した」とし、バイデン大統領の決定を改めて支持する考えを示しました。
トランプ次期大統領 買収計画に改めて反対する趣旨のSNS投稿
アメリカのトランプ次期大統領は、バイデン大統領による禁止命令が出た日本製鉄によるアメリカの鉄鋼メーカーUSスチールの買収計画について、6日、自身のSNSに、改めて反対する趣旨の投稿を行いました。
トランプ次期大統領は6日、自身のSNSに「関税の導入によって、USスチールがより収益性の高い、価値ある企業になるのに、なぜ、彼ら(経営陣)はUSスチールを売却したいのか」と投稿しました。
そのうえで「かつて世界で最も偉大な企業であったUSスチールに、再び偉大さを取り戻す役割をリードしてもらえたらすばらしいと思わないか。すべてはあっという間に実現する」としています。
トランプ氏はこれまで外国からの製品に関税を課すことで、国内の鉄鋼産業を守ると主張しており、先月2日にもSNSで日本製鉄によるUSスチールの買収計画に「全面的に反対する」などと投稿していました。
今回の投稿で改めてこの買収計画に反対の意向を示した形です。