生活せいかつ保護ほご費ひ引き下ひきさげで国くにに賠償ばいしょう命令めいれい 名古屋なごや高裁こうさい 全国ぜんこく初はつ

生活せいかつ保護ほごの支給しきゅう額がくについて国くには、当時とうじの物価ぶっかの下落げらくなどを反映はんえいする形かたちで、2013年ねんから2015年ねんにかけて最大さいだいで10％引き下ひきさげました。

これについて、愛知あいち県内けんないの受給じゅきゅう者しゃ13人にんが最低さいてい限度げんどに満みたない生活せいかつ状況じょうきょうを強しいられているなどとして、国くにに賠償ばいしょうを求もとめるとともに、自治体じちたいが行おこなった支給しきゅう額がくの引き下ひきさげを取り消とりけすよう求もとめ、3年ねん前まえ、1審しんの名古屋なごや地方ちほう裁判所さいばんしょは「国くにの判断はんだんが違法いほうだったとは言いえない」として訴うったえを退しりぞけました。

30日にちの2審しんの判決はんけつで名古屋なごや高等こうとう裁判所さいばんしょの長谷川はせがわ恭弘やすひろ裁判さいばん長ちょうは「国くには支給しきゅう額がくを引き下ひきさげる改定かいていの際さい、学術がくじゅつ的てきな裏付うらづけや論理ろんり的てきな整合せいごう性せいを欠かいた、厚生こうせい労働ろうどう省しょう独自どくじの指数しすうを用もちいて物価ぶっかの下落げらく率りつを算定さんていするなどしており、厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんの裁量さいりょう権けんの範囲はんいを逸脱いつだつしていることは明あきらかで、生活せいかつ保護ほご法ほうに違反いはんし、違法いほうだ」などと指摘してきしました。

そのうえで、「違法いほうな改定かいていを行おこなった厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんには重大じゅうだいな過失かしつがある。過去かこに例れいのない大幅おおはばな生活せいかつ扶助ふじょ基準きじゅんの引き下ひきさげで、影響えいきょうは生活せいかつ保護ほご受給じゅきゅう者しゃにとって非常ひじょうに重大じゅうだいであり、原告げんこくらはもともと余裕よゆうのある生活せいかつではなかったところを、支給しきゅう額がくの引き下ひきさげ以降いこう、9年ねん以上いじょうにわたり、さらに余裕よゆうのない生活せいかつを強しいられ、引き下ひきさげを取り消とりけしても精神せいしん的てき苦痛くつうはなお残のこる」として、引き下ひきさげを取り消とりけすとともに、国くにに対にたいし、原告げんこく13人にん全員ぜんいんに慰謝いしゃ料りょうとして1人にん当あたり1万まん円えんの賠償ばいしょうを命めいじました。

原告げんこくの弁護べんご団だんによりますと、同様どうようの集団しゅうだん訴訟そしょうは全国ぜんこく29か所かしょで起おこされていますが、国くにに賠償ばいしょうを命めいじた判決はんけつは初はじめてです。

原告げんこく女性じょせい「この判決はんけつを機きに制度せいどを元もとに戻もどして」

判決はんけつ後ごの記者きしゃ会見かいけんで原告げんこくの72歳さいの女性じょせいは「生活せいかつ保護ほご受給じゅきゅう者しゃの生活せいかつは本当ほんとうに大変たいへんです。うちはお風呂ふろがないので、ぬらしたタオルを使つかって体からだを拭ふいています。最近さいきん、25年ねん使つかっていた冷蔵庫れいぞうこが壊こわれました。電気でんき代だいが高騰こうとうしたり日々ひび、苦労くろうしています」と語かたりました。そのうえで、今回こんかいの判決はんけつについて「感無量かんむりょうです。この判決はんけつを機きに制度せいどを元もとに戻もどしてほしい」と話はなしました。

支援しえん者しゃたちから喜よろこびの声こえ

判決はんけつが言い渡いいわたされたあと、原告げんこくの弁護べんご団だんのメンバーは「引き下ひきさげ違法いほうと慰謝いしゃ料りょう認みとめる」や、「完全かんぜん勝訴しょうそ」「司法しほうは生いきていた」などと書かかれた紙かみを名古屋なごや高等こうとう裁判所さいばんしょの前まえで掲かかげました。

裁判所さいばんしょの前まえに集あつまった支援しえん者しゃたちからは、「うれしい」などという喜よろこびの声こえが聞きかれ、拍手はくしゅが上あがりました。

原告げんこく側がわ「最高さいこう最良さいりょうの判決はんけつ」

判決はんけつのあと、原告げんこくと弁護べんご団だんは名古屋なごや市内しないで記者きしゃ会見かいけんを開ひらき、原告げんこくの1人にん、澤村さわむら彰あきらさんは「長ながい戦たたかいでした。今回こんかいの名古屋なごやの高裁こうさい判断はんだんが出でたことで、おかしいことはおかしいと言いうことが広ひろまることを願ねがいます。生活せいかつ保護ほごは最低さいてい限げんの生活せいかつをするためのものなので、これを機きに国民こくみんの生活せいかつが豊ゆたかになっていってほしい」と話はなしました。

また、弁護べんご団だんの事務じむ局長きょくちょうを務つとめる森もり弘典ひろのり弁護士べんごしは「国家こっか賠償ばいしょうが認みとめられた判決はんけつはなかったので、最高さいこう最良さいりょうの判決はんけつが出でたと思おもっています。完勝かんしょうだったと言いえます」と話はなしました。

厚あつ労ろう省しょう「詳細しょうさい精査せいさし適切てきせつに対応たいおう」

判決はんけつを受うけて厚生こうせい労働ろうどう省しょうは「判決はんけつ内容ないようの詳細しょうさいを精査せいさして関係かんけい省庁しょうちょうや被告ひこく自治体じちたいと協議きょうぎしたうえ、今後こんご、適切てきせつに対応たいおうしたい」とコメントしています。

専門せんもん家か「画期的かっきてきな判決はんけつ 今後こんご大おおきな影響えいきょう与あたえるのでは」

生活せいかつ保護ほご行政ぎょうせいが専門せんもんで、立命館大学りつめいかんだいがくの桜井さくらい啓あきら太ふとし准じゅん教授きょうじゅは「引き下ひきさげに至いたった行政ぎょうせい行為こうい自体じたいを違法いほうだと断だんじ、厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんに重大じゅうだいな過失かしつがあったと指摘してきして、行政ぎょうせい訴訟そしょうで認みとめられることが非常ひじょうに難むずかしい国くにへの賠償ばいしょうも認みとめた。画期的かっきてきな判決はんけつだ」と評価ひょうかしました。

そのうえで、「生活せいかつ保護ほご法ほう3条じょうに違反いはんすると明確めいかくに指摘してきしたことが大おおきい。過去かこ最大さいだいの引き下ひきさげにより、憲法けんぽうが保障ほしょうする生存せいぞん権けん、つまり最低さいてい限度げんどの生活せいかつを維持いじできない状態じょうたいになっているという判断はんだんで、今後こんごの各地かくちの判決はんけつにも大おおきな影響えいきょうを与あたえるのではないか」と話はなしていました。

これまでの判決はんけつでは

同様どうようの裁判さいばんは全国ぜんこく29か所かしょの裁判所さいばんしょで起おこされ、1審しんではこれまでに22件けんの判決はんけつが言い渡いいわたされています。

このうち、12件けんで支給しきゅう額がくの引き下ひきさげが取り消とりけされましたが、国くにに賠償ばいしょうを命めいじる判決はんけつは出でていませんでした。

ことし4月つきには大阪おおさか高等こうとう裁判所さいばんしょで初はじめて2審しんの判決はんけつが言い渡いいわたされましたが、「支給しきゅう額がくの引き下ひきさげの判断はんだんは不ふ合理ごうりとは言いえず、裁量さいりょう権けんの逸脱いつだつや乱用らんようは認みとめられない」などとして訴うったえを退しりぞけていて、名古屋なごや高等こうとう裁判所さいばんしょの判断はんだんが注目ちゅうもくされていました。

生活せいかつ保護ほご 食費しょくひや光熱こうねつ費ひなどの「生活せいかつ扶助ふじょ」基準きじゅん額がく見直みなおしは

生活せいかつ保護ほごのうち、食費しょくひや光熱こうねつ費ひなどにあてられる「生活せいかつ扶助ふじょ」の基準きじゅん額がくは5年ねんに1度ど、見直みなおしが行おこなわれています。

具体ぐたい的てきには経済けいざいや社会しゃかい保障ほしょうの専門せんもん家かが、生活せいかつ扶助ふじょの水準すいじゅんと一般いっぱんの低てい所得しょとく世帯せたいの生活せいかつにかかる費用ひようを比較ひかくするなどして、消費しょうひ実態じったいを調しらべたうえで基準きじゅんの検証けんしょうを行おこないます。

そして、最終さいしゅう的てきには厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんが経済けいざいの情勢じょうせいなどを踏ふまえ新あらたな基準きじゅん額がくを決定けっていします。

2013年度ねんどの見直みなおしでは物価ぶっかの下落げらくが続つづいていたことなどを背景はいけいに、2015年度ねんどにかけて生活せいかつ扶助ふじょの基準きじゅん額がくが最大さいだいで10％減額げんがくされました。

これにともなって、予算よさんの総額そうがくで670億おく円えん程度ていどが3年間ねんかんにわたって段階だんかい的てきに削減さくげんされました。

各地かくちの裁判さいばんは

国くにが生活せいかつ保護ほごの支給しきゅう額がくを2013年ねんから段階だんかい的てきに引き下ひきさげたことをめぐっては、引き下ひきさげの取り消とりけしを求もとめる訴うったえが29の裁判所さいばんしょで合あわせて30件けん起おこされ、このうち、およそ半数はんすうは国くにに対にたいする賠償ばいしょうも求もとめています。

一連いちれんの裁判さいばんでは、基準きじゅん額がくの引き下ひきさげが国くにの裁量さいりょうの範囲はんいを超こえているかどうかなどが争あらそわれ、最初さいしょの判決はんけつとなった名古屋なごや地方ちほう裁判所さいばんしょは2020年ねん6月つき、「国くにの判断はんだんが違法いほうだったとはいえない」として、訴うったえを退しりぞけました。

一方いっぽう、2件けん目めの判決はんけつとなった大阪おおさか地方ちほう裁判所さいばんしょは2021年ねん2月つき、「裁量さいりょう権けんの逸脱いつだつや乱用らんようがあり、生活せいかつ保護ほご法ほうに違反いはんする」と判断はんだんして原告げんこくの訴うったえを一部いちぶ認みとめ、支給しきゅう額がくの引き下ひきさげを取り消とりけしましたが、国くにに対にたいする賠償ばいしょうは認みとめませんでした。

これまでに1審しんと2審しんで合あわせて22件けんの判決はんけつが言い渡いいわたされ、このうち、12件けんで引き下ひきさげが取り消とりけされていますが、賠償ばいしょうを認みとめた司法しほう判断はんだんはありませんでした。

今回こんかいの裁判さいばんの主おもな争点そうてん

1つは、

▽今回こんかいの生活せいかつ保護ほご支給しきゅう額がくの基準きじゅんの改定かいていを行おこなった厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんの判断はんだんに裁量さいりょう権けんの逸脱いつだつや乱用らんようがあるかです。

国くには物価ぶっか下落げらくにより、生活せいかつ保護ほご受給じゅきゅう世帯せたいの可か処分しょぶん所得しょとくが実質じっしつ的てきに増加ぞうかしたため、生活せいかつ扶助ふじょ基準きじゅんの引き上ひきあげがなされているのと同おなじ状態じょうたいだとして、生活せいかつ保護ほごの支給しきゅう額がくを引き下ひきさげて是正ぜせいを図はかる必要ひつようがあったなどと主張しゅちょうしていました。

30日にちの判決はんけつでは「生活せいかつ保護ほご受給じゅきゅう世帯せたいでの支出ししゅつ割合わりあいが高たかい日常にちじょう生活せいかつで、基本きほん的てきな費用ひようである食料しょくりょうなどの費用ひようは上昇じょうしょうしており、国くにが主張しゅちょうするような状態じょうたいにあったと評価ひょうかできない。国くには物価ぶっか下落げらく率りつを算定さんていする際さいに学術がくじゅつ的てきな裏付うらづけのない独自どくじの指数しすうを用もちいるなどしていて、統計とうけいなどの客観きゃっかん的てきな数値すうちとの合理ごうり的てき関連かんれん性せいや専門せんもん的てき知見ちけんとの整合せいごう性せいを欠かくものだ」などと指摘してきし、裁量さいりょう権けんの逸脱いつだつや乱用らんようは明あきらかで、生活せいかつ保護ほご法ほうに違反いはんし、違法いほうだと判断はんだんしました。

さらに、

▽今回こんかいの基準きじゅんの改定かいていや支給しきゅう額がくの引き下ひきさげが違法いほうだと認みとめられる場合ばあい、原告げんこく側がわが慰謝いしゃ料りょうとして、国くにに求もとめた賠償ばいしょうが認みとめられるかどうかも争点そうてんとなりました。

原告げんこくの弁護べんご団だんによりますと、同様どうようの集団しゅうだん訴訟そしょうは全国ぜんこく29か所かしょの裁判所さいばんしょで起おこされていますが、支給しきゅう額がくの引き下ひきさげが取り消とりけされても、国くにに賠償ばいしょうを命めいじる判決はんけつはありませんでした。

これまでの判決はんけつでは、「引き下ひきさげの取り消とりけしで原告げんこくらの無念むねんは晴はれ、慰謝いしゃ料りょうを認みとめるまでの違法いほう性せいはない」などと判断はんだんされたケースもあったということです。

30日にちの判決はんけつでは「違法いほうな改定かいていを行おこなった厚生こうせい労働ろうどう大臣だいじんには重大じゅうだいな過失かしつがある。過去かこに例れいのない大幅おおはばな生活せいかつ扶助ふじょ基準きじゅんの引き下ひきさげで、影響えいきょうは生活せいかつ保護ほご受給じゅきゅう者しゃにとって非常ひじょうに重大じゅうだいであり、原告げんこくらはもともと余裕よゆうのある生活せいかつではなかったところを、支給しきゅう額がくの引き下ひきさげを受うけて以降いこう、9年ねん以上いじょうにわたり、さらに余裕よゆうのない生活せいかつを強しいられ、引き下ひきさげを取り消とりけしても精神せいしん的てき苦痛くつうはなお残のこる。生活せいかつ扶助ふじょは国民こくみんの健康けんこうで文化ぶんか的てきな最低さいてい限度げんどの生活せいかつを営いとなむ権利けんりを基礎きそとする制度せいどで、本来ほんらい、国くにはその向上こうじょうと増進ぞうしんに努つとめなければならないものである」などとして、国くにに対にたいし、原告げんこく13人にん全員ぜんいんに慰謝いしゃ料りょうとして、1人にん当あたり1万まん円えんの賠償ばいしょうを初はじめて命めいじました。