昔、里の女が鬼にさらわれ、やがて「できぼし」という男の子が生まれた。
ある日、里の爺さんが娘に会うために鬼の家に訪ねてきて、その晩は鬼の家に泊まっていくことになった。しかし、美味しそうな爺さんを食べたくて仕方がなかった鬼は、皆が寝込んでから長い舌を爺さんの方に伸ばしてはできぼしにポカリと叩かれ、を一晩中くりかえした。
翌日、鬼が出かけている間に三人はこっそりと里へ逃げ帰る事にした。できぼしは家の中のあちこちにウンコをして、自分の代わりに返事するように言いつけた。しかし、鬼がみんな逃げ出している事に気が付き追いかけてきた。
川をイカダで逃げていく三人を見つけた鬼が、川の水を全部飲みほすとイカダは止まってしまった。腹がタブタプになって走って来る鬼に向かって、できぼしが尻をペチペチと叩くと、思わず笑い出した鬼が川の水を全部吐き出した。その水の勢いに乗って、三人は無事に逃げ延びた。
しばらくたった節分の夜、鬼ができぼしを探しに爺さんの家にやって来た。家の軒に、やいかがし(焼いたイワシの頭)が刺してあるのを見た鬼は、できぼしを焼いてしまったと勘違いして、恐ろしくなって山に逃げ帰った。
一安心した爺さんができぼしの頭を撫でると、できぼしの頭の角がポロリと落ちた。それからのできぼしは人間の子供として幸せに暮らした。