昔、六部がある村に来た時、宿を借りようとおじいさんの家に立ち寄った。おじいさんは現在は一人暮らしで、とても仲の良かったおばあさんは先日、亡くなっていた。親切なおじいさんは、こころよく六部を迎え入れた。
夜中、六部が寝ていると、どこからか「爺さん、おるかい」と声がする。おじいさんは寝ながら「おります、おります」と返事をしてるがどうやらその声は、六部の布団の下(床下)から聞こえてくる。怖くなった六部が家から飛び出すと、声の主であるばあさん幽霊が追いかけてきた。
六部は庭の柿の木に登ったが、幽霊は長持(ながもち)を引きずりながら「ぞろりんがったん」と音を立てながら木の上に迫ってきた。六部がお経を唱えると、幽霊は柿の木から落ちて消えてしまった。実はおじいさんは、仲の良かったおばあさんとの約束で、おばあさんの遺体を床下に隠していたのだった。しかしそれでは良くないと諭され、きちんとお経をあげてお墓に葬ることにした。
それから、おじいさんには茶飲み友達もできて、すっかり元気になった。六部も、何事もなかったように巡礼の旅を続けたそうな。