「9月の豪雨災害が復興に影響を与えている」と回答した人は90%余りいて、専門家は、被災者が奥能登地域での生活に不安を抱く中で災害への備えを盤石にすることが復興における大きなポイントだと指摘しています。
NHKは12月、東京大学の関谷直也教授の研究室と共同で輪島市・珠洲市・穴水町・能登町の奥能登地域に建てられた仮設住宅の入居者を対象にアンケートを行い、297人から回答を得ました。
この中で、復旧・復興の進ちょくについて聞いたところ、
▽「進んでいない」と回答した人が26%、
▽「あまり進んでいない」が42%、
▽「やや進んでいる」が24%、
▽「進んでいる」が5%で、
地震から1年となる中でも3分の2にあたる68%の人が復興を実感していないという結果になりました。
地震と豪雨で二重被災 不安抱く回答多く
また、9月に能登地方を襲った豪雨災害が地震からの復興に影響しているか聞いたところ、
▽「とても及ぼしている」が78%、
▽「やや及ぼしている」が14%、
▽「どちらともいえない」が3%、
▽「あまり及ぼしていない」が1%と、
92%の人が復興に影響があったと回答しました。
そのうえで、地震と豪雨で二重被災した現在の心境を複数回答で聞いたところ、
最も多かったのが
▽「この先、奥能登地域がどうなってしまうか不安だ」が63%で、
▽「地震や水害に遭っても奥能登地域には愛着がある」が55%、
▽「今後、奥能登地域では安全に暮らすことができないのではないか」が50%、
▽「地震の大きな被害のあとさらに水害に遭ってつらい」が47%、
▽「ふるさとを失ったような気がする」が23%などと、
奥能登地域での生活に不安を抱く回答が多くなりました。
現在の生活が地震の前と比べ最も変わったことについては、
▽「人とのつきあい」が31%、
▽「地域とのつながり」が25%、
▽「収入」と▽「精神状態」が13%、
▽「体調」が8%となっていて、
1年前の地震が地域コミュニティーの存続に大きな影響を与えていることがうかがえます。
「悲しむ気力すらわいてこない」
自由記述では、輪島市の70代の女性は「地震と豪雨がたて続けに続き、身体・精神両面でひどく害を受け、なかなか地震前の状態に戻らない。少しのことでも驚いたり心が乱れたりする」と記しています。
輪島市の50代の女性は「仮設住宅にやっと入居できたと思ったら豪雨にあって落ち着けない。見慣れた光景が激変してしまってるのに悲しむ気力すらわいてこない」とつづりました。
東京大学の関谷直也教授は「改めて二重被災となる水害が先行きへの不安にものすごくインパクトを与えたと言える。奥能登地域での生活に不安を覚えるという意見が多く災害への備えを盤石にすることが復興における非常に大きなポイントだ」と指摘しています。
自宅が全壊 仮設住宅で暮らす家族は
石川県珠洲市の橋元泰博さん(83)は、アンケートに「今後、奥能登地域では安全に暮らすことができないのではないか」と回答しました。
橋元さんの自宅は2023年5月の地震で被害を受け修復しましたが、1年前の地震で全壊しました。
いまは家族3人で仮設住宅に身を寄せています。
橋元さんは「いまでも寝ている間に、地震がドーンと来る。これから家を建ててもしっかり地盤や基礎の工事をしないとまた壊れる。このように苦しみながら生きていくのはつらいです」と話していました。
地震前は書道教室を開き毎日のように地域の人と顔を合わせていましたが、アンケートでは「地域とのつながりや人づきあいがとても減った」と回答しています。
橋元さんは「誰がどこに住んでいるのか、知り合いが今どこにいるのかさっぱりわからず本当に悲しい。10戸ある仮設住宅には自治会もなく1人ぼっちのような人が多い」と話していました。
また、一緒に暮らす息子の橋元貴博さん(49)は地域の福祉施設で調理師として働いていますが、今後も地域に残ることができるか考えがまとまらないといいます。
貴博さんは「金銭面を考えると新たな家の建設には踏み込めない。元の場所に戻っても隣近所はもういないので寂しいところがあると思います。自分だけであれば地域を離れてアパートに移ることはできますが、高齢の家族もいます。この仮設にいる間に思案しているところで、いまはそれしか言えないです」と話していました。
専門家「住民の意見汲み取りスピード感持って復興を」
行政などに求められることについて、東京大学の関谷直也教授は「地震や水害に遭っても奥能登地域には愛着があるという人が多い。住民の意見を汲み取ってスピード感を持って将来の見通しを示し復興を進めていくことが、地域にどれくらい人が戻り住民をどれくらい維持できるかという点で大きなポイントになる」とと話していました。