旧統一教会=世界平和統一家庭連合の高額献金や霊感商法などをめぐる問題で、文部科学省はおととし、宗教法人法に基づき教団に対する解散命令を東京地方裁判所に請求しました。
一方、教団は「献金は宗教活動の一環だ。組織性、悪質性、継続性はない」と反論していました。
これについて東京地方裁判所の鈴木謙也裁判長は25日の決定で、民事裁判などから2009年までに1500人、190億円を超える被害があったなどとして「膨大な規模の被害が生じた。コンプライアンスの指導をした後も大きくは改善されず、現在も見過ごせない状況が続いていて、教団に事態の改善を期待するのは困難だ」と指摘しました。
その上で「献金や勧誘は教義と密接に関連している。教団は多数の被害の申し出を受けても根本的な対策を講じず、不十分な対応に終始した。解散によって法人格を失わせるほかに有効な手段は考えにくく、解散命令はやむをえない」と判断して教団に解散を命じました。
法令違反を理由に解散が命じられるのは、地下鉄サリン事件などを起こしたオウム真理教と、最高幹部が詐欺で有罪判決を受けた明覚寺に続き3例目で、民法上の不法行為が根拠となるのは初めてです。
教団は決定を不服として即時抗告を検討するとしています。
阿部文部科学相「主張が認められた」
阿部文部科学大臣は「旧統一教会への解散命令請求について、私どもの主張が認められたものと受け止めている。文部科学省としては、旧統一教会への対応について、引き続き万全を期していく」とのコメントを出しました。
教団顧問弁護士「法治国家としてありえるのか」
教団の顧問弁護士を務める福本修也弁護士は、決定を受け取った後、東京地方裁判所前で報道陣に対し「残念、遺憾です。法治国家としてこんなことありえるのか」と話しました。
旧統一教会「即時抗告を検討」
旧統一教会は、解散を命じる裁判所の決定を受けて「誠に遺憾ではありますが、今回の決定の内容を重く受け止めつつ、東京高裁への即時抗告を検討していく所存です。今回の決定は、誤った法解釈に基づいて出された結果であると言わざるを得ず、到底、承服できるものではありません」とホームページ上でコメントを発表しました。
そのうえで今回、民法上の不法行為が初めて根拠となったことについて「民法上の不法行為が宗教団体の解散事由に該当するということにほかならず、日本の信教の自由、宗教界全体に大きな禍根を残すものと考えます」としています。
今回、東京地裁が教団側がコンプライアンスを指導した2009年以降も被害が生じていると認定したことについては「コンプライアンス宣言以降、民法上の大きな問題も発生していない上、今では献金をめぐる新たなトラブルは皆無に等しい」と改めて主張した上で、今後、決定の不当性を詳細に説明していくとしています。
Q&A 背景やこれまでの経緯は
3年前に起きた安倍元総理大臣の銃撃事件をきっかけに被害を訴える声が相次いだこの問題、なぜ今、重要な判断が出たのか。
背景やこれまでの経緯をまとめました。
Q.宗教法人への解散命令とは
A.宗教法人を強制的に解散させ、法人格を失わせる手続きです。
宗教法人法では信教の自由を尊重する観点から厳格な手続きが定められていて、行政機関などの請求を受けて裁判所が審理し、宗教法人側の意見を聞いた上で判断することとなっています。
Q.なぜ旧統一教会に解散命令が請求されたのか
A.きっかけは3年前の2022年7月に起きた、安倍元総理大臣の銃撃事件です。
殺人などで起訴された山上徹也被告(44)が捜査段階の調べに対し、母親が多額の献金をしていた教団に恨みを募らせた末、事件を起こしたなどと供述したことが明らかになりました。
その後、高額献金や霊感商法の被害を訴える声が相次ぎ、親の信仰が理由で苦難に直面してきたとされる「宗教2世」の存在などが広く知られるようになりました。
こうした事態を受けて文部科学省は「質問権」を7回行使し、教団に対して組織運営や財産・収支、それに献金などについて報告を求めたほか、被害などを訴える170人以上へのヒアリングを行いました。
そしておととし10月、40年余りにわたって教団が高額献金や霊感商法を通じて財産や精神的な被害をもたらしたとして、東京地方裁判所に解散命令を請求しました。
Q.なぜ今、裁判所の判断が示されたのか
A.憲法で信教の自由が保障されている中、宗教法人を解散させる決定は重大な判断となるため、慎重に審理してきたとみられます。
請求に対し旧統一教会は、献金は宗教活動の一環で、解散命令の要件にはあたらないとして全面的に争ったため、ことし1月まで審理が続いていました。
関係者によりますと、双方から意見を聞く「審問」と呼ばれる手続きが4回行われ、その中で高額献金をしたとされる元信者への尋問などもあったということです。
また今月には旧統一教会に関する別の審理で、最高裁判所が「民法上の不法行為も宗教団体の解散命令の要件に当たる」という初めての判断を示しました。
「民法上の不法行為が解散命令の要件に当たるかどうか」というのは東京地裁の審理で重要な争点になっていたため、法曹関係者の間では、「最高裁の判断を受けて東京地裁が近く判断を示すのではないか」という声も出ていました。
今後の手続きは 解散するとどうなる
地方裁判所から解散を命じられた宗教法人は不服を申し立てることができ、その場合、高等裁判所で審理が引き継がれます。
高等裁判所で再び解散命令が出ると、たとえ最高裁判所に抗告したとしても命令の効力が生まれ、解散の手続きが始まります。
宗教法人が解散すると、財産を処分しなければならなくなり、債権者への支払いなど清算の手続きに移ります。
清算の結果、財産が残れば宗教法人の規則に基づいて処分され、規則が無い場合は他の宗教団体や公益事業のために使われたり、国庫に納められたりします。
逆に借金が残った場合は破産手続きが開始されます。
法人税の原則非課税など、宗教法人としての優遇措置は受けられなくなりますが、解散しても任意の宗教団体として宗教上の行為を続けることは可能です。
「指定宗教法人」への解散命令 今後は
文部科学省は被害者救済をめぐり、旧統一教会の資産状況を把握するため、去年、特例法に基づいて教団を「指定宗教法人」に指定しました。
これを受けて教団は不動産を処分する際、事前に届け出ることを義務づけられたほか、3か月ごとに財産目録などの書類を提出することになっています。
文部科学省によりますと、特例法に基づいた教団からの書類の提出は行われているということですが、今後、解散命令が確定するまでの間に、教団側が財産を隠すおそれなどがあると判断した場合は、被害者が財産目録を閲覧できる「特別指定宗教法人」への指定も検討することにしています。
一方、解散命令が確定し、「宗教法人」として解散したあとも信者が教義を信仰し、任意の宗教団体として活動を続けることはできます。
この場合には、行政側へ財務諸表や活動実績を報告する義務もなくなるため、活動を把握しにくくなる面が指摘されています。