再審制度は70年以上、一度も改正されたことがなく、去年、無罪が確定した袴田巌さんが、最初に再審を求めてから開始まで40年余りかかったケースをはじめ、審理の長期化が課題として指摘されています。
こうした中、高村 法務副大臣は、28日の法制審議会の総会で「一部の再審請求事件について審理の長期化が指摘されたり、制度のあり方に関しさまざまな議論が行われるなど、国民の関心が高まっており、速やかに審議に着手してもらいたい」と述べ、再審制度の見直しに向けて、法改正の検討を諮問しました。
この中では、
▽現在は具体的な手続きが定められていない証拠開示の規定を設けるかどうかや、
▽裁判所による再審開始の決定に検察が不服を申し立てるのを禁止すべきか、
それに
▽再審の審理などで、過去にその事件を担当した裁判官が関わらないようすることなどが、
主な検討項目となっています。
政府内には、法制審議会での検討には1年程度はかかるとの見方もあって、法務省としては、答申が出されしだい、法律の改正案の策定を進め、できるだけ早期の国会提出を目指す考えです。
再審制度 課題や改正の動き
法務省が法制審議会に検討を諮問した、再審=裁判のやり直しの制度について、課題や改正の動きをまとめました。
Q. 再審とはどのような制度なのか?
A.
刑事事件で起訴され、誤った判決で有罪が確定した、えん罪の被害者を救済するための制度で、三審制を経ても救えなかった人のための「最後の砦」とも言われています。
59年前の殺人事件で死刑が確定していた袴田巌さん(89)の裁判が、再審制度に基づきやり直され、去年、無罪が確定したことから、大きな話題となりました。
再審制度は大正時代に法律で定められ、無罪になった人を有罪にするなど被告に不利益な「不利益再審」と呼ばれる規定が戦後に廃止されました。
それ以外はおよそ100年にわたって一度も改正されておらず、専門家などの間では、審理の進め方などに課題があるという指摘が出ています。
Q. どんな課題があるの?
A.
最も大きな課題は、審理の長期化です。
袴田さんが最初に再審を求めてからやり直しの裁判が始まるまでに、40年余りかかっています。
死刑への恐怖のもと長期間収容された影響で、袴田さんは意思の疎通が難しい状態になっています。
39年前に福井市で起きた殺人事件で、有罪が確定して服役した前川彰司さんのケースでも、3月に再審が始まるまでに20年余りかかっています。
こうしたことから、えん罪被害者の救済という本来の役割を果たせているのかという指摘があがっています。
Q. なぜ時間がかかるのか?
A.
さまざまな理由があります。
大前提として、再審制度は2段階の構造になっています。
えん罪を訴える人たちが再審を求めた場合、裁判所は、裁判をやり直すかどうかを判断するために、まずは「再審請求審」という非公開の審理を行います。
ここで無罪を示す新たな証拠があるか審理され、再審開始が認められると、改めて「再審」が開かれます。
時間がかかると指摘されているのは「再審請求審」のほうです。
これらの手続きについて、法律で詳しいルールが定められていません。
特に、検察や警察が保管している証拠を弁護側に開示するためのルールがないことが長期化の大きな要因だと、専門家などから指摘されています。
Q. 検察や警察の証拠がなぜ重要なのか?
A.
捜査機関が持つ証拠が開示され、再審開始につながった例が複数あるからです。
例えば、福井市の前川さんのケースでは「服に血が付いた前川さんを目撃した」などと証言した1人が事件当日に見たと話していたテレビ番組のシーンについて、当日に放送されていなかったことが、新たに開示された捜査報告書などから明らかになりました。
再審を認めた名古屋高裁金沢支部は、当時の検察がその事実を把握したとみられるのに、裁判で明らかにせず、客観的事実として主張し続けたと判断し「検察官としてあるまじき、不誠実で罪深い不正な行為」と厳しく批判しました。
このケースでは裁判長の強い働きかけで開示されましたが、法律上、証拠を開示する義務が検察にないため、開示されないケースもあります。
Q. ほかに長期化の要因は?
A.
専門家の間などで指摘されているのは「再審請求審」での検察の不服申し立てのルールです。
裁判所が再審を認めても、検察が不服を申し立てれば、最高裁まで争われます。
袴田さんや前川さんのケースでは、一度出された再審開始決定が、不服申し立てを受けて取り消され、再審開始が遅れました。
Q. 制度は変わるの?
A.
見直す動きが大きく2つあります。
1つは、去年発足した超党派の国会議員の連盟です。
3月25日現在、370人余りが参加し、えん罪の被害者や専門家などからヒアリングをして、法律の改正案について検討しています。
捜査機関が持つ証拠開示のルールを定めたり、検察の不服申し立てを禁止したりすることなどを柱とする予定です。
また、議連とは別に動いているのが、28日に法制審議会に諮問をした法務省です。
再審制度の法律を所管しています。
法制審議会は学識者などでつくる機関で、法務大臣の諮問を受けて法律の改正や新たな法律の制定などについて検討し、委員の意見をまとめて大臣に答申します。
法務省は答申をもとに、法律の改正案について検討することになります。
Q. 議連と法務省の動きの違いは?
A.
いずれも見通しに不透明な部分がありますが、目指している改正案の国会提出の時期に違いがあります。
議員連盟は、今の国会での提出を目指しています。
一方、法務省の場合、関係者によりますと、法制審議会に諮問してから答申を受けるまでに1年程度かかる見通しで、その後に国会への提出を目指す考えです。
Q. えん罪被害者の人たちはこうした動きをどう思っているの?
A.
再審で無罪が確定した袴田巌さんの姉、ひで子さん(92)は、一刻も早い改正が必要だと訴えています。
3月25日に都内で開かれた国会議員も参加する集会に出席し「巌だけが助かればいいという問題ではない。今もえん罪で苦しんでいる方がいます。今の国会で再審法を改正してほしい」と呼びかけていました。