〔「よ(節)」と同源。 区切られた期間の意〕
(1)人間が集まり生活の場としている所。 世間。 また, そこに生活している人々。 《世》「~の荒波にもまれる」「~に出る」「~をはかなむ」
(2)俗世間。 凡俗の住む, わずらわしい現実社会。 《世》「~をいとう」
(3)ある支配者が治めている期間。 また, 同一系統の者が政体を維持している期間。 時代。
「公家の~」「徳川の~」
(4)人が生まれてから死ぬまでの期間。 一生。
「わが~の春」
(5)仏教で説く, 過去(前世)・現在(現世)・未来(来世)など, ある人の生きている世界。 《世》「あの~に行く」
(6)寿命。 生きていられる年齢。
「君が~も我が~も知るや岩代の岡の草根をいざ結びてな/万葉 10」
(7)時節。 時期。 折。
「をとこ, 思ひかけたる女の, え得まじうなりての~に/伊勢 55」
(8)男女の仲。
「わがごとく我を思はむ人もがなさてもや憂きと~を試みむ/古今(恋五)」
(9)ある人が家長として統率している期間。
「竹筍斎も隠居して, ~を岩次郎にゆづりけり/黄表紙・敵討義女英」
〔「~に」などの場合, アクセントは 〕
→ 世に
<i>~上が・る</i>
昔にさかのぼる。
「~・りての事はさしおきぬ/増鏡(煙の末々)」
<i>~が世なら</i>
その人にとって都合のよい世の中なら。
「~こんな苦労をかけないものを」
<i>~下(クダ)・る</i>
(1)後の世になる。
「~・りて後, 唐土にも日の本にも/増鏡(新島守)」
(2)末世(マツセ)となる。
「~・り時衰へぬる末には/増鏡(久米のさら山)」
<i>~と共(トモ)</i>
日ごろ絶えず。 常日ごろ。
「故権大納言の君の~に物を思ひつつ, やまひづき/源氏(橋姫)」
<i>~に合・う</i>
時世に乗って時めく。 時を得て栄える。
「~・ひ花やかなる若人にて/源氏(賢木)」
<i>~に在(ア)・り</i>
(1)この世に実在する。 また, 生存する。
(2)世間で重んじられる。 世の人に認められる。 栄える。
「それぞ~・る人の手はみな見知りて侍らむ/枕草子 184」
<i>~に入れられる</i>
世間に認められる。
<i>~に行わ・れる</i>
広く世間で用いられている。 世の中に浸透している。
「広く~・れていること」
<i>~に聞こ・える</i>
世間に知れわたる。
「~・えた学者」
<i>~に越・ゆ</i>
普通よりすぐれている。
「矢束をひくこと~・えたり/保元(上・古活字本)」
<i>~に従・う</i>
世間の大勢・ならわしに従う。
「~・へば, 身くるし/方丈記」
<i>~に知らず</i>
この世に例がない。
「ただ~ぬ心ざしの程を見はて給へとのたまふ/源氏(若紫)」
<i>~に知られる</i>
有名になる。
<i>~に仕(ツカ)・う</i>
朝廷に仕える。 宮仕えする。
「このおとどの君の, 世に二つなき御有様ながら, ~・へたまふは/源氏(薄雲)」
<i>~に連・れる</i>
世の流れ・動きに従う。
「歌は~・れ, 世は歌に~・れ」
<i>~に出る</i>
(1)世の中に現れる。
「秘蔵品が~出る」
(2)世間に名を知られる。 出世する。
「若くして~出る」
<i>~に問・う</i>
世間にその価値をたずねる。
<i>~に無・し</i>
(1)この世に存在しない。
(2)世に類がない。 類例がない。
「この児のかたちのけうらなること~・く/竹取」
(3)世に用いられない。 零落している。
「~・き義経がもとに来り/義経記 8」
<i>~に似ず</i>
この世にまたとない。 無比である。
「かたちの~ずめでたきことを/竹取」
<i>~に経(フ)</i>
(1)この世にながらえる。 世をすごす。
「わが身~ふるながめせしまに/古今(春下)」
(2)世ごころがつく。 男女間の情愛を理解する。
「ねになけば人笑へなり呉竹の~へぬをだにかちぬと思はむ/後撰(恋五)」
<i>~に旧(フ)・る</i>
(1)世間に長くいて珍しくなくなる。
「春雨の~・りにたる心にもなほ新しく花をこそ思へ/後撰(春中)」
(2)結婚したことがある。
「ただ人, はた, 怪しき女, ~・りにたるなどを, 持ち居るたぐひ多かり/源氏(蜻蛉)」
<i>~の</i>
〔「天下周知の」の意から, 程度のはなはだしいさまを表す〕
世にもまれな。 めったにない。 またとない。
「~しれ者かな/徒然 41」
<i>~は張り物</i>
世の中は見栄を張るのが普通である。
「~なれば/浮世草子・永代蔵 7」
<i>~は回り持ち</i>
「天下(テンカ)は回り持ち」に同じ。
<i>~も末(スエ)</i>
〔末法思想からの語〕
この世もおしまいであること。 救いがたい世であること。
<i>~揺す・る</i>
世間が動揺する。
「~・りて惜しみ聞こえ/源氏(須磨)」
<i>~を挙げて</i>
世の中の人残らず。 世間こぞって。
<i>~を送・る</i>
「世を渡る」に同じ。
<i>~を行・う</i>
世を治める。
「飢ゑず, 寒からぬやうに, 世をば行はまほしきなり/徒然 142」
<i>~を稼(カセ)・ぐ</i>
家業に精を出す。
「日夜に~・ぎ一たび元のごとくにと思ひこみし所存/浮世草子・永代蔵 3」
<i>~を去・る</i>
(1)この世を去る。 死ぬ。
(2)出家する。
<i>~を忍(シノ)・ぶ</i>
世間から隠れる。 世間に知られないようにする。
「~・ぶ二人の仲」「~・ぶ仮の姿」
<i>~を知・る</i>
(1)世の中の事を知っている。 また, 男女の情を解する。
「~・らぬ虫だに秋はなきにこそなけ/千載(雑中)」
(2)国を治める。
「~・り初(ソ)めさせ給ひて後/栄花(疑)」
<i>~を捨・てる</i>
俗世間から隠遁(イントン)する。 また, 出家する。
<i>~を背(ソム)・く</i>
(1)隠遁(イントン)する。 出家する。
「~・く苔の衣はただ一重/後撰(雑三)」
(2)この世を去る。 他界する。
「此の国の人, ~・きて冥途に至る時/今昔 12」
<i>~を尽く・す</i>
一生を終える。
「此処に~・してむと思ひ取り給へ/源氏(椎本)」
<i>~を逃(ノガ)・れる</i>
俗世間から隠遁(イントン)する。 また, 出家する。
<i>~を離・る</i>
隠遁(イントン)する。 出家する。
「かく~・るるさまに物し給へば/源氏(夕顔)」
<i>~を憚(ハバカ)・る</i>
世間に気がねする。 世間との交わりをつつしむ。
<i>~を響(ヒビ)か・す</i>
世の中に名をとどろかす。
「楽の声, 鼓の音~・す/源氏(紅葉賀)」
<i>~を経(ヘ)る</i>
(1)年月を経過する。
(2)男女の情事を知る。
「女の世経ずと覚えたるが/伊勢 120」
<i>~を渡・す</i>
(1)衆生(シユジヨウ)を救済する。 済度(サイド)する。
「仏の世に出で給ひて, ~・し給へる/栄花(鶴の林)」
(2)隠居して跡目(アトメ)を譲る。
「子孫に~・し/浮世草子・胸算用 5」
<i>~を渡・る</i>
世の中で暮らしていく。 生計を立てる。
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