日本がサーブルでメダルを獲得するのは初めてです。
フェンシングの団体は1チーム3人ずつが総当たりで戦い、9回の対戦で合計のポイントが多かったチームか、先に45ポイントを取ったチームが勝ちとなります。
世界ランキング8位の女子サーブル団体の日本は、個人で世界選手権2連覇を果たし、開会式で旗手を務めた江村美咲選手に、高嶋理紗選手、福島史帆実選手、それにリザーブの尾崎世梨選手のメンバーで今大会に臨み、初戦の準々決勝で世界2位のハンガリーを45対37で破りました。
準決勝では世界3位のウクライナに32対45で敗れ、決勝進出はなりませんでしたが、3位決定戦で世界1位で地元のフランスと対戦しました。
日本は7対10で迎えた第3試合、リザーブでチーム最年少の21歳、尾崎選手が積極的な攻撃でポイントを重ねて15対13と逆転しました。
その後、29対30で迎えた第7試合は、高嶋選手が6連続ポイントを奪って35対30として再び逆転しました。
そして、3ポイントリードで迎えた最後の第9試合は、試合途中に観客がフランス国歌を歌うアウェーの空気感の中、エースの江村選手が巧みなフットワークから強烈な突きを見せるなどポイントを重ね、45対40で勝って銅メダルを獲得しました。
江村「みんなが背中を押してくれた」
江村選手は、個人では3回戦で敗れた影響について「個人戦から気持ちを立て直せたのかわからないぐらい感情がぐちゃぐちゃで、プレーも自分らしいかと言われるとそうではなかった」と明かしました。
その上で3位決定戦について「いつもだときれいに丁寧なフェンシングをするが、下がってポイントを取られるぐらいなら前にいってみようと、みんなが背中を押してくれて気持ちで前にいくことができた」と目に少し涙を浮かべながら話していました。
尾崎「いい流れを持ってこられた」
尾崎選手は「リザーブでいつ出番が回ってきても自信を持って勝負できる準備をしていた。自分がチームのために強い気持ちで試合に臨もうと戦ったので、チームにいい流れを持ってこられたと思う」と振り返りました。
高嶋「最後は気持ちだけで戦った」
高嶋選手は「最初は相手に押されてしまい、あまり気持ちを強く持つことができなかった。チームのみんなが声をかけてくれて、最後は気持ちだけで戦った」と話していました。
福島「みんなでつなげた団体戦」
福島実選手は「3位決定戦ですごいプレッシャーと緊張があるなかでみんなで戦えたのがすごくよかった。みんなでつなげた団体戦だと思う」と話していました。
男女を通じ日本がサーブルでメダル獲得は初
男女を通じて日本がサーブルでメダルを獲得するのは初めてです。
これで今大会、フェンシングで日本が獲得したメダルは男子エペ個人、女子フルーレ団体、男子エペ団体とあわせて4つとなりました。
また決勝は世界3位のウクライナが世界4位の韓国を45対42で破り、金メダルを獲得しました。
ウクライナは今大会、すべての競技を通じて初めての金メダルです。
21歳の“ジョーカー” ここぞという場面で力出し切る
相手を突くだけではなく、“斬る”ことも有効のサーブル。試合のテンポが速く身体能力がものをいう種目で、日本はこれまでオリンピックで結果を出せずにきました。
この種目で初めてのメダルをかけた3位決定戦は、世界ランキング1位で2年余り勝てていない地元・フランスとの対戦。日本のジェローム・グースコーチが試合を動かす“ジョーカー”に考えていたのが、リザーブメンバーで準決勝から出場した21歳の尾崎世梨選手でした。身長1メートル67センチと日本の女子選手としては長身で、リーチの長さを生かした勢いのあるアタックが持ち味。おととしの世界選手権ではチーム最年少の19歳で出場して団体の銅メダル獲得に貢献していました。「苦しい状況で出場することを最初からイメージして、この舞台に立ちたいとそわそわしていた」尾崎選手はその気持ちをピストで爆発させます。
1巡目の第3試合は相手にリードを許す展開、ここで思い切りのある攻撃で一気に8ポイントをとって逆転し嫌な流れを断ち切ります。そして、最終3巡目の第8試合。今度は大きくリードするなかで、6連続ポイントを奪われて会場はフランスを後押しする観客の大歓声につつまれました。しかし、尾崎選手はこうした場面を待ち望んでいたという“強心臓”ぶりを見せます。1ポイントを取り返してリードを保ったまま最後の江村美咲選手につなぎ、銅メダルをたぐり寄せました。
ジェロームコーチは役割を果たした尾崎選手について「流れを変える存在だった。まだ21歳で初めてのオリンピックだったが難しい局面でも一度も崩れずに力を全部出し切った。とても誇らしい」とたたえました。
試合後、インタビューエリアでは安心感から涙ぐんだ尾崎選手「このパリ大会が日本フェンシング界が変わるきっかけになればいい」母国を応援する地鳴りのような歓声にも動じず、ここぞという場面で力を出し切った21歳の目は、力強く輝いていました。