そこに近くにいた警察官が防護板を広げて駆け寄り、爆発物と総理の間に体を入れて、押し出すように避難させています。総理はこの後、警察官らと避難して無事でした。
このとき、木村容疑者と総理との距離は10メートルほど。
およそ5分の出来事でした。
2つはよく似た形状で、捜査関係者によると、いずれも「パイプ爆弾」とみられるということです。
当時の映像を見ると、銀色の筒状で、長さは30センチほど。 筒の両側にふたをして中に火薬を詰め込み、着火して爆発させる構造とみられます。 警察が爆発していない方を調べたところ、使われていたのは花火などで使用される「黒色火薬」とみられ、筒の外側にはナットのようなものや導線のようなものが映像から確認できます。
倉庫に直撃して網の上に落下したとみられます。 さらに筒のふたとみられる部分は、60メートルあまり離れたコンテナの壁にめり込んでいました。
爆発後、聴衆のすぐそばを通り抜けたとみられています。 警察が容疑者の自宅を捜索したところ、火薬とみられる粉末や金属製のパイプのようなもの、それに工具類が見つかっていて、容疑者が自分で爆弾を作ったとみて調べています。
「一体型の金属の爆弾なら全体が破裂して周辺に被害を出すが、今回はパイプ型で、火薬が爆発するショックでふただけが吹き飛んで本体と反発して飛散し、一種のロケット弾のような状態になっていたのではないか。木製のコンテナにこれだけ穴が空いたとすると、かなりの威力。会場には屋根があり、物置もそんなに高くないので、聴衆のすぐ頭の上あたりを飛んでいったとみられ、もし命中していたら致命傷になっていた可能性がある。これは完全に武器、兵器といってよい」
事件当日の朝に自宅を出て午前7時台のバスに乗りました。そして午前8時すぎに阪急電鉄の川西能勢口駅から電車に乗車。その後、大阪の梅田やなんばといった大阪市中心部を経由して、南海電鉄の和歌山市駅に午前10時すぎに着いたとみられています。
バスを降りたあと、木村容疑者は漁港の演説会場まで歩いて向かったとみられます。
この直後に爆発物を投げ込んだとみられます。
金属の板は、リュックサックに入れた爆発物が暴発する場合に備え、みずからの身を守るために入れていた可能性もあります。 また、手提げかばんの中には、刃渡りおよそ13センチの果物ナイフが入っていました。
一方、木村容疑者は、去年の参議院選挙の際、▽被選挙権年齢の規定があったことや、▽供託金を準備できなかったために立候補できなかったとして、国に損害賠償を求める訴えを起こしていました。 本人のものとみられるツイッターのアカウントでも、去年から裁判の内容や自らの主張を繰り返し発信していました。
選挙制度への不満が動機なのか、警察が慎重に調べています。 以下、時系列です。 <2022年> 6月22日 ・参議院選挙公示 ・木村容疑者が国に損害賠償求める訴状作成 6月24日 ・木村容疑者、神戸地方裁判所に提訴 6月27日 ・本人とみられるアカウントで最初のツイート。訴状だとする写真を添付し、「参院選に立候補出来なかったとして、20代前半の原告が国を提訴しました。訴訟では、憲法15条で保障された成年者による立候補が制限されているか、選挙供託金は違憲かを争点としています。成人以上の年齢を要求することや、300万円もの大金を支払わないと立候補させないことは、明確な制限選挙です」などと投稿
・安倍元総理大臣銃撃事件 7月10日 ・参議院選挙 投開票 7月14日 ・岸田総理大臣が安倍元総理の国葬実施を表明 8月5日 ・第1回口頭弁論 ・東京の供託金めぐる別の裁判の支援団体のホームページを印刷して裁判所に提出。ツイッターに「日本で行われているのは制限選挙であり、普通選挙は行われていません。国民が立候補出来なければ政治腐敗が横行するのは当たり前です」などと投稿 9月8日 ・ツイッターで岸田総理の名前を挙げ、国会答弁のニュースを引用しながら、「岸田首相も世襲3世ですが、民意を無視する人が政治家には通常なれません」などと投稿 9月24日 ・木村容疑者とみられる人物が川西市の当時の市議会議員の市政報告会に参加。対応した国会議員は、「市議会議員になることに関心があったようで、彼が被選挙権が無いので、被選挙権があるように法改正をしてほしいという内容の話をしていた。ほかの方々もいるところで、彼だけがずっとしゃべってきたというのは、印象に残った」 9月27日 ・安倍元総理の国葬実施 10月7日 ・第2回口頭弁論/結審。ツイッターでは「今回で結審しました。1回目は被告、国が答弁から逃げた為、実質1回での結審です」と投稿 ・容疑者が準備書面を提出。岸田内閣は安倍元総理の国葬を閣議決定のみで強行したとして「このような民主主義への挑戦は許されるべきものではない」と主張 11月18日 ・1審の神戸地方裁判所が木村容疑者の訴えを棄却 11月28日 ・ツイッターで裁判官の名前を記載しながら「引き続き、控訴して民主主義を勝ち取ります」などと投稿。控訴状の日付もこの日 12月1日 ・大阪高等裁判所に控訴 <2023年> 3月23日 ・2審の第1回口頭弁論/結審 ・ツイッターで「審議を拒否しいきなりの結審でした。大阪高裁の無法ぶりが露呈しました。基本的人権である参政権を制限することは絶対に許されません」などと投稿 4月11日午後8時半ごろ ・最後のツイッター投稿。「投票だけは行っている、民主主義風の専制政治国家が日本です」などと投稿 4月14日 ・自民党が今回の応援演説の予定をホームページで公表 4月15日 ・岸田総理の演説会場を襲撃、逮捕 ・供託金めぐる別の裁判の担当弁護士に事件の弁護を打診依頼 5月25日 ・2審の判決予定
近所の人は「顔を合わせれば挨拶をする礼儀正しい姿が印象に残っている。自宅の庭で母親と一緒にガーデニングを楽しむ姿を何度も見ていた」と話していました。
小学生時代を知る女性は「小学生のころはとにかく明るくて元気な子というイメージしかないです。私の息子と容疑者の兄が同級生でよく遊んでいました。こんな事件を起こす子ではないと思うので、驚きました」と話していました。 一方、中学生になると周囲は異なる印象を抱いていました。 (小中学校時代の容疑者を知る女性) 「木村くんは小学校時代はおふざけキャラで、にぎやかで明るい性格だった。しかし、中学に入ってとたんに何もしゃべらなくなり陰キャになった。理由はよく分からない」
「朝早く登校してきて自分の机に突っ伏している様子をよく見かけました。教室で友達と話したり、遊んだりしている印象はあまりありませんでした」 (同級生の女性) 「あまり会話をした記憶はありませんが、学校ではおとなしい感じの生徒でした」 木村容疑者は、中学校の卒業文集に「光について」というタイトルで文章を書いています。 「人は光を見ると希望を連想させることがよくある。それほど人間が光に依存していることが分かる」 「ブラックホールがなぜ黒いのか。それは強い重力のために物質だけでなく『光』さえ脱出することができない天体だからだ」 「タイムマシンの現実性だが、まずは光の速度を越えなければ話にならないので、到底タイムマシンを拝む日は来ないだろう」 そして、クラスメートへの寄せ書きには直筆で「ありがとうございました」とひと言だけ、書いていました。
■ポイント(1)動機の解明 現在、木村容疑者は、調べに対して黙秘を続けています。亀井弁護士は「大事なのは、容疑者がどういう目的で本件犯行に及んだのかという、目的と動機だ。何をもくろみ、どういう結果を考えたのか。そこの主観的な事情が非常に重要になる。完全黙秘されてしまうと、間接的な外形的に見られる証拠から推認するしかないので解明は非常に難しいと思う」と話しています。 ■ポイント(2)精神鑑定を実施するかどうか 木村容疑者は選挙制度に不満を抱いていたとみられ、国に損害賠償を求める訴えを起こしている中で事件が起きたことがわかっています。亀井弁護士は「政治や選挙活動に関心を持って訴訟までしている人間が、爆発物を使い、場合によっては多数の人が死ぬかもしれない行為に及ぶということは、行為と結果にかい離があり、人物像のイメージがつなぎきれない。精神的な疾患がないかどうかという疑いのもとで、鑑定留置を行う可能性は高いのではないか」と分析しています。 ■ポイント(3)公職選挙法違反か否か 亀井弁護士は、今回の事件で特徴的なのは、「選挙活動を妨害した」といえるかどうかだと指摘します。亀井弁護士は、「公職選挙法違反の選挙妨害が想起される。安倍元総理大臣の襲撃事件では逮捕・起訴された被告は、政治活動や選挙活動にそこまで関心があるわけではなかったとみられているが、今回、木村容疑者は、選挙制度や政治のあり方に影響を及ぼしたいという思いで行ったのかどうか、動機はまだわからない。民主主義の根幹である選挙制度に対する挑戦ということならば、量刑でも非常に大きな意味を持ち、この事件の性質を決めていくと思う」と話しています。
手製の「パイプ爆弾」を使ったか
木村容疑者の足取りは
なぜ事件を起こしたのか?
木村容疑者は、どんな人物?
今後の捜査の焦点は?
これまでの取材でわかってきた爆発物の構造や容疑者についてまとめます。
現場では何が起きた?