国連事務総長 国連憲章99条基づき 安保理に停戦求めるよう要請
パレスチナのガザ地区の情勢をめぐり、国連のグテーレス事務総長は6日、国連憲章の99条に基づいて、安全保障理事会に対し人道的な停戦を求めるよう要請しました。
国連の報道官が定例会見で明らかにしたもので、国連憲章の99条では「国連の事務総長は国際社会の平和と安全の維持に脅威となる事項について安全保障理事会に注意を促すことができる」と定められています。
報道官によりますと、グテーレス事務総長がこの条項に基づいて安保理に要請を行うのは2017年1月に就任して以来初めてで、グテーレス事務総長としては一歩踏み込んだ措置をとったものです。
戦闘2か月 イスラエル軍 南部でハマス拠点標的の作戦開始
ことし10月、ガザ地区を実効支配するハマスの戦闘員がイスラエル側に越境して奇襲攻撃を行い、これに報復する形でイスラエル軍が軍事作戦を開始してから7日で2か月となります。
戦闘は先月24日から7日間休止されたものの、今月1日、再開され、イスラエル軍はハマスの壊滅を目指すとして北部に続き南部でも地上侵攻に乗り出しています。
6日夜には、南部の中心都市ハンユニスの中心部でハマスの拠点を標的とした作戦を始めたと明らかにし、ハマスの戦闘員を殺害し、武器庫として使われていたモスクなどに攻撃を加えたとしています。
現地メディアはハンユニスの地下トンネル施設にハマスのガザ地区の指導者、ヤヒヤ・シンワル氏など幹部が潜んでいる可能性があるというイスラエル軍の見立てを伝えています。
ネタニヤフ首相は6日夜動画を公開し、「部隊はシンワルの家を包囲している。とらえるのは時間の問題だ」と述べて、早期の発見に自信をのぞかせました。
一方、ハマスはハンユニスや周辺でイスラエル軍の車両を破壊したと明らかにしたほか、ガザ地区からイスラエル側に向けてロケット弾を発射するなど徹底抗戦を続けています。
ガザの保健当局は戦闘開始以降の2か月間でガザ地区で1万6248人が死亡し、このうち今月1日の戦闘再開以降の死者は1240人にのぼるとしていて、犠牲者の増加に歯止めがかからなくなっています。
一方、イスラエル側は1200人以上が死亡したとしています。
ラファに増え続ける避難民 エジプト側からの人道支援物資減少
南部にあるラファにはハンユニスなどから避難する住民が増え続けていますが、戦闘の再開後、エジプト側から搬入される人道支援物資は減っていて、燃料や水が不足しています。
また、UNRWA=国連パレスチナ難民救済事業機関が4日に発表した報告書によりますと、ガザ地区では人口の8割を超えるおよそ190万人が避難を余儀なくされているということで、人道状況が悪化しています。
イスラエル側はハマスの壊滅に向けて地上侵攻を続ける構えを見せていますが、ハマス側は侵攻が続くかぎり人質の解放や交渉には応じないとしていて、事態打開に向けた道筋は見えない状況です。
イスラエル軍 押収したとする武器の映像公開
パレスチナのガザ地区での軍事作戦を続けるイスラエル軍は6日「ガザ地区で最大規模の武器庫を地区北部の、診療所と学校の近くで発見した」と発表し、押収したとする武器の映像を公開しました。
その中では、空き地に多くの武器が並べられ、ロケットランチャーの弾頭数百個、「カラシニコフ」と呼ばれる自動小銃AK47、それにさまざまな大きさの地雷や無人機などが確認できます。
また、ロケット弾もハマスなどがガザ地区内で製造していることで知られる最大射程90キロのものに加え、それよりさらに射程が長いと見られる、長さ4メートルほどの大型のものを兵士が2、3人がかりで運ぶ様子が映っています。
これらについてイスラエル軍は、いずれも人口密集地にある民間の建物の近くで見つかったとしていて、ハマスがガザ地区の住民を人間の盾として利用している証拠だと主張しています。
子どもたちがけがをした父親を懸命に捜す姿
ガザ地区南部のハンユニスではイスラエル軍の攻撃によって多くの負傷者が次々と病院に運ばれていて、市内にあるナセル病院で6日に撮影された映像では、子どもたちがけがをした父親を懸命に捜す姿が映っています。
子どもたちは担架に乗せられ運ばれてきた父親を見つけると、むせび泣きながら近づいて抱きしめていました。
5歳の男の子は「教室で友達と遊ぼうとしていたら突然、ドーンという音がした」と話したほか、手に包帯を巻いた11歳の女の子は「私たちは学校にいました。攻撃が2回あって、私たちやお父さんに当たりみんなけがをしました」と時折、声を詰まらせながら話していました。
WHO=世界保健機関は4日の発表で、ガザ地区南部の主要な2つの病院について、350床あるナセル病院にはおよそ1000人の患者と数千人の避難民が、370床あるヨーロッパ・ガザ病院にはおよそ1000人の患者と推定で7万人の避難民がいるとみられ、いずれも収容能力の3倍を超えているとしています。
また、ナセル病院で治療を続ける国際NGOの「国境なき医師団」は4日の声明で、患者が途切れることなく搬送されているため「限界に達している」として医療の危機的な状況を訴えています。
国連人権高等弁務官「『残虐な犯罪』の危険性が高まる」
国連人権高等弁務官事務所のトップ、ターク人権高等弁務官は6日、スイスのジュネーブで会見を開き、ガザ地区の状況について「住民は執ような砲撃と集団的な処罰を受け続けている」と強い危機感を示したうえで「残虐な犯罪の危険性が高まっている」と指摘して調査の必要性を強調しました。
ターク人権高等弁務官はイスラエルとイスラム組織ハマスの衝突が始まってから2か月がたつことについて「ガザ地区の住民はイスラエルによる執ような砲撃と集団的な処罰を受け続けている。死と破壊に苦しみ、食料や水、救命医療物資など不可欠なものを大規模に奪われている。ガザ地区のパレスチナ人は深まる恐怖の中で生きている」と現状に強い危機感を示しました。
そのうえで、人道危機の状況について「完全に予測可能であり、防ぐことも可能だった」と指摘したうえで「『残虐な犯罪』の危険性が高まっている」として戦争犯罪のおそれがあると訴えました。
またターク人権高等弁務官は、10月7日のハマスによる大規模な襲撃の際、女性に性的な暴行が加えられたとする疑いが訴えられていることについて「被害者の正義を保証するため完全な調査の必要がある。国際人権法と人道法のすべての違反について厳格な調査と説明責任を果たすことが極めて重要だ」と述べました。
医療物資の提供を行っている慈善団体は
イギリスの首都ロンドンを拠点にガザ地区の人々に医療物資の提供を行っている慈善団体は、今月4日、現地の状況について緊急の声明を発表しました。
慈善団体、「メディカル・エイド・フォー・パレスチニアンズ」がガザ地区で活動を続けるメンバーから聞いた話によりますと、イスラエル軍がガザ地区全域を細かいエリアに分けた地図を作り退避するよう通告していることについて「危険だと定められた地域の外でも砲撃が続き、避難や食料を確保するための場所を探そうとする人々がパニックに陥っている」としています。
また、メンバーは全員がすまいを追われていて「ガザには『安全な場所』というものが存在しないことを知ってほしい。私たちの安全と尊厳は何も残されていない」と話したとしています。
そのうえで団体は「地図は民間人の命を保護するためのものでなく、イスラエルが人々を恐怖に陥れるための新たな戦術だ」と非難しました。
また、声明の最後にイギリスを含む世界のリーダーたちに対して「停戦を要求したり、民間人の保護において越えてはならない一線を設けたりすることに消極的であることが、ガザの大惨事に拍車をかけている。手遅れになる前に、大量虐殺を阻止するための行動が必要だ」と強く訴えています。
ハマスの人質となり11月解放された学生は
イスラム組織ハマスの人質となり11月解放された学生のミア・ラインバーグさん(17)が5日エルサレムの自宅でロイター通信の取材に答えました。
ミアさんはかわいがっていた犬のベラとともに連れ去られ、解放された際にハマスが公開した映像には、ミアさんが犬を抱いて歩く様子がうつっていました。
ミアさんは、拘束されている間与えられた食事の残り物をベラに与えてかわいがり、ベラの存在が精神的な支えになっていたということです。
ミアさんは「病院で検査も受けましたが身体的には大丈夫です。精神的には大変な経験でしたが、トラウマにはなっているとは感じていません」と話していました。
また一緒に人質となっていた母親のガブリエラさん(59)は「少しずつ、少しずつ、普通の生活に戻ろうとしています」と話していました。
ただ、ミアさんのおばとおじはまだ人質になっているということで、ミアさんは「毎日恋しいです。彼らなしでここにいることは間違っていると思います。戻ってこられてうれしいですがまだ終わっていません。人質になっている人全員が戻ってこないといけないのです」と全員の一刻も早い解放を訴えていました。
イスラエル軍の報道官は6日、依然として138人がガザ地区で人質になっているとしています。
フーシ派「イスラエル南部の軍事目標に弾道ミサイル発射」
イエメンの首都サヌアを含む北部を掌握する反政府勢力フーシ派は6日、イスラエル南部の軍事目標に対して弾道ミサイルを発射したなどとSNSに投稿しました。
そのうえで「イスラエルがガザ地区への侵攻をやめるまで、イスラエルに対する軍事作戦を継続し、イスラエルの船舶による紅海などでの航行を阻止する」としています。
一方、イスラエル軍は6日、イスラエル南部で地対地ミサイルの攻撃が確認されたものの紅海上で迎撃したなどと発表しています。
イスラエルと敵対するフーシ派は今月3日にもビデオ声明で紅海につながるバーブルマンデブ海峡で「イスラエルの船舶2隻に対する攻撃を行った」と発表するなどこれまでにも周辺海域での攻撃などを繰り返しています。