ここに来きて当時とうじの思い出おもいで、興奮こうふんなど思い起おもいおこされますか？

（森山もりやま）

そうですね、ここらへんでダイビングヘッド2回かいくらい決きめましたね。ここのスタジアムは本当ほんとうにお客おきゃくさんとの距離きょりがすごく近ちかいし。あのころ本当ほんとうに入はいりきれないぐらいの人ひとが来きて、超ちょう満員まんいんということで、ものすごい盛り上もりあがりの中なかでやれたんですけど。

ここからスタートしたんだなと思おもうと、懐なつかしい感かんじがしますね。

（金城きんじょう）

森山もりやまさん、どんな気持きもちでグランパスに入団にゅうだんされてプレーされていたんですか？

（森山もりやま）

僕ぼくの場合ばあいはやっぱり地元じもとにプロのチームができると思おもったときに、本当ほんとうに戻もどってきたいなという気持きもちはあって。あとは選手せんしゅとしての野心やしんとか、点てんとってやりたいとか、強つよくありたいとか。そういった偏かたよった考え方かんがえかたとかがあったりした時代じだいでしたね。

より点てんをとれば目立めだつし、勝かてば喜よろこんでもらえるし、という部分ぶぶんがあったと思おもうんですけど、自分じぶんの達成たっせい感かんのほうが大おおきかったんじゃないかなと思おもいますね。

例たとえば（チームが）勝かっていて試合しあいに使つかわれないって分わかっていても、最後さいごまでちゃんとアップしたり、ダッシュを何なん回かいも繰り返くりかえしたりとか。前向まえむきな行動こうどうにはつながっていったんですよね。「ああいった頑張がんばりはどこかで誰だれかが見みているよ」って言いわれましたし。

「0－0」または「1－0」なんかで負まけているときは、たぶん、このぐらいの時間じかんから呼よばれると思おもうんで、逆算ぎゃくさんしてアップしようかなって思おもって。ボールの中心ちゅうしんをとらえて蹴けるような練習れんしゅうをどんどんしながら、ちょっと気持きもちを高たかめていって。集中しゅうちゅう力りょくが上あがってくると本当ほんとうにボールの芯しんをとらえるんで。その感触かんしょく、細こまかい感触かんしょくをちょっと確認かくにんしながら。もうそろそろ出番でばんがくるかなってベンチに戻もどって着替きがえだすと呼よばれるみたいな感かんじで。

1995年ねん11月つき4日にち。第だい2ステージ第だい20節せつの柏レイソルかしわれいそる戦せん。

グランパスにとって第だい2ステージ優勝ゆうしょうの可能かのう性せいが残のこる中なかで迎むかえたこの試合しあい、グランパスはチャンスを作つくるものの、ゴールを決きめることができません。先制せんせいしたのはレイソルでした。1点てん差さを追おいかける後半こうはん17分ふん、森山もりやまさんがピッチに入はいります。

そのわずか2分ふん後ご、ストイコビッチのパスを受うけると、右足みぎあしを振ふり抜ぬきました。同点どうてんゴールを決きめます。さらに、その5分ふん後ごには勝ち越かちこしゴール。途中とちゅう出場しゅつじょうからわずか7分ぶんの間かんに2得点とくてんをあげたのです。公式こうしき記録きろくによると、この試合しあい、森山もりやまさんのシュートは2本ほん。まさに“1ショット1ゴール”を2度ど決きめたのです。

この試合しあいで森山もりやまさんは、スーパーサブとしての地位ちいを確たしかなものにしました。

（森山もりやま）

あのとき、チームも点てんとって追おいつきたいっていう気持きもちも、負まけているというのもあるし、ベンゲルさんが森山もりやまを入いれたっていうことは、点てんをとりにいくぞというスイッチでもあったし。そこでスタジアムもそんな雰囲気ふんいきになったし、みんなの思おもいが一致いっちした中なかで、（ゴールが）生うまれたっていう。

僕ぼくもそのひねくれた考え方かんがえかたとかも何なにもなく、すんなり入はいっていけたっていうか。自分じぶんのタイミング、すべてが一致いっちしたっていうかね。ものすごく集中しゅうちゅう力りょくが上あがっているというかボルテージが上あがっているというか。まあ「ゾーン」に入はいっていくというか。何なにも聞きこえない、動うごきがゆっくりに感かんじるとか、決きめたシュートを覚おぼえていないとかっていう。そういった状況じょうきょうだったんですけど。それこそ無心むしんというかね。

あれが本当ほんとうになかったら経験けいけんできなかったら、その後そのごの活躍かつやくっていうかなかったと思おもうし、今いまの生き方いきかたもなかったんじゃないかなというのはあります。

僕ぼくが「やめてえな」とか「移籍いせきしたいな」とか、「なんで自分じぶんのよさわかってくんねえんだよ」とか言いって、「あのコーチ、あの監督かんとく使つかえねえな」なんて考かんがえているうちは何なにも変かわらなかったんですけど。「よし、最高さいこうのゴール決きめるぞ」って俺おれの中なかでそこの問題もんだいと向き合むきあった瞬間しゅんかんに、たぶん好転こうてんし始はじめていったと思おもうんですよね。

（金城きんじょう）

この経験けいけんというのは森山もりやまさんにとってどういう経験けいけんだと思おもわれますか？

（森山もりやま）

与あたえられたことに関にかんして、そこを目指めざす。ここも、やりがい、生いきがいがあるなあ、なんて思おもいだしちゃったら、逆ぎゃくに、今度こんど点てんとったらこのスタジアムの人ひとみんな喜よろこんでくれるな、なんて思おもうと、自分じぶん一いち人にんの達成たっせい感かんじゃないじゃないですか。自分じぶんの行動こうどうでこんなに人ひとに喜よろこんでもらえるっていうんだったら、どんどんやりたい。何なにかもうサポーターのほうからね、選手せんしゅ交代こうたいの要求ようきゅうをしてくるようになりましてね。

（金城きんじょう）

森山もりやまさんを早はやく出だせと。

（森山もりやま）

そう。そういう時間じかん帯たいになったらコールが出でて。まあ一種いっしゅの楽たのしみになったんだろうな、みたいな。

途中とちゅうで出でて流ながれを変かえていく、流ながれに乗のっていくっていうこと自体じたいがやっぱりそもそも難むずかしいことだと思おもうんです。例たとえば、自分じぶんの身みでいうと、転勤てんきんもあります。新あたらしい職場しょくばに飛び込とびこんでいく、自分じぶんが入はいったことによってプラスの方向ほうこうに持もっていければいいんですが、入はいったことでマイナスになってしまわないかなっていう怖こわさもあったりして。

森山もりやまさんだったらどうなのかなと思おもうんですけど。

（森山もりやま）

そうですね。やっぱりサッカーも人ひとがやるスポーツなんで、職場しょくばも人ひとがいての職場しょくばだと思おもうんで。やっぱり対話たいわしながらね、お互おたがいを理解りかいしあうことが第一歩だいいっぽだと思おもうんですよね。話はなしをしないと血ち流りゅうが止とまったような状況じょうきょうになるじゃないですか。血ち流りゅうが止とまったら、よくないですよね。

今いま考かんがえていることとか思おもってること、多面ためん的てきな意見いけんをどんどん聞ききながら思おもいを同おなじにして。合あっていない意見いけんだったら合意ごうい形成けいせいして。進すすむべき道みちを確認かくにんしながら向むかっていくっていうことが、やっぱり重要じゅうようで。

（金城きんじょう）

例たとえば今いま、自分じぶんの役割やくわりが見みつけられない、組織そしきの中なかでどういうふうに貢献こうけんしていいのかわからないという人ひとがいたとしますと、自分じぶんもそういう瞬間しゅんかんもあったりするんですけど、そういうときにどういう発想はっそうになっていったらいいなと思おもいますか？

（森山もりやま）

それは、できないものはできませんからね。だから自分じぶんの思おもっているものに関にかんして、俺おれは点てんとることがあったから。でも、点てんとること以外いがい、勉強べんきょうもできないし、ちゃんとコミュ二にケーションもしゃべれないし、計算けいさんも弱よわいし。本当ほんとうにね、いいところなんか見みつからないんですよ。でも、点てんとるってことだけは、ちょっといいじゃん。

絶対ぜったい、人ひとには才能さいのうがあって、いいところってあると思おもうんですよね。そのパーソナルの部分ぶぶんで勝負しょうぶしていくとか、自分じぶんのその才能さいのう、例たとえば外国がいこく語ご、語学ごがくができるとか、計算けいさんが速はやいとか、めちゃくちゃ優やさしいとか。絶対ぜったいちょっとはいいことある。そこをやっぱりプラス発想はっそうしていく。まず自分じぶんのよさを、よさというか才能さいのう、才能さいのうというとちょっと重おもくなっちゃうんですけど、ちょっといいところでもいいですよ。そういうのを見みつけるといいですよね。

子育こそだてしながら選手せんしゅやっている人ひともいるんで。コンディションを整ととのえなきゃいけないけど、夜泣よなきがあったりとかしたら、夜よる、目めをさまして子こどもの面倒めんどう見みている。その中なかでも、やっぱり自分じぶんの好すきなものをやりたいっていう、その頑張がんばりには頭あたまが下さがっちゃうななんて思おもうんで。

もっとこのチームを名古屋なごやの人ひとたちに知しってもらって、応援おうえんしてもらえるような状況じょうきょうになったらいいなあ、なんて。

川尻かわじり選手せんしゅは、子こどもとの日常にちじょうがプレーにもつながっていると言いいます。

（川尻かわじり）

息子むすこと選手せんしゅ入場にゅうじょうすることがいちばんの目標もくひょうで。そのためにまあいろいろ頑張がんばらなきゃいけないんですけど。

子こどもって何なにするか予想よそうがつかないので。走はしっていてつまずいてこけたりとかもよくあるし、あと、道路どうろ飛び出とびだすとかもそうですし。なんかちょっと高たかいところからジャンプしたりとか、歩あるいていて本当ほんとうこけたりするので。

何なん個こも予想よそうをして、自分じぶんの中なかで「次つぎ、何なにしないかな」って注意深ちゅういぶかく見みながら接せっすることが多おおいので。サッカーでも予測よそくとかに変換へんかんして、「次つぎ、何なにが起おこるかな」って自分じぶんの中なかで想像そうぞうしてプレーしています。

（森山もりやま）

川尻かわじり選手せんしゅが息子むすこへの思おもいっていうのをプレーに出でそうっていうのは、違ちがうパワー出だせる可能かのう性せいもありますし。チームがピンチのときに、パッと判断はんだんよく動うごいてくれたり声こえかけしてくれたりとか。そういうのはやっぱりチーム力りょく、あなたにしかできないっていうね、プレーなんじゃないかなと思おもいますね。

（森山もりやま）

みずから考かんがえてやっていくっていうことは、サッカーだけじゃなくてほかの社会しゃかいにも通用つうようすることだと思おもうし。監督かんとく・コーチの指示しじ待まち、答こたえ待まちだと、与あたえられたことしかやれなくなっちゃうんで。思考しこう停止ていしになっていると頭あたま使つかわなくてもよくなっちゃうから。サッカーでもだめだな、普通ふつうの生活せいかつでもだめだなっていう。

自分じぶんで考かんがえ行動こうどうできる人材じんざいになっていけば、どの企業きぎょうにも必要ひつようとされる、どの組織そしきにも、どのコミュニティにも必要ひつようとされる人ひとになっていくんじゃないかなっていう。「あなたしかいない」っていう人材じんざいになれば、それはスーパーサブですよね。「あなたじゃないとダメなんです」って言いわせちゃったら勝かちですよね。

（金城きんじょう）

改あらためてスーパーサブって今いま振り返ふりかえって、どんな存在そんざいだというふうに考かんがえてらっしゃいますか？

（森山もりやま）

そうですね。まあ最初さいしょはメンバーから外はずされたネガティブなものかなと思おもったけど、要ようは、いろんな役割やくわりがあるってことは、カレーに福神漬ふくじんづけ、最高さいこうじゃないですか（笑えみ）どんなものにも意味いみがあって、どんなものにも価値かちがあって、って。

だから、スーパーサブも重要じゅうようなポジションですよ。

自分じぶんがそう言いわれて世よに出でてきたかもしれないけど、もっともっと前まえから、チームがあって支ささえる人ひとがいて、サブの控ひかえの選手せんしゅがいて活躍かつやくした人ひとっていっぱいいると思おもうんですよ。たまたま僕ぼくがＪリーグじぇいり-ぐっていう中なかでそういう役割やくわりをさせてもらって、また認知にんちしてもらって今いまでも覚おぼえてもらっているっていう。だから、ちょっと外はずれただけでネガティブになっていたらもったいないよっていう感かんじは、今いまなら言いえるなっていう。