平和へいわサミット“ロシアに連れ去つれさられた子こどもの帰還きかん”がテーマに

ロシアによる軍事ぐんじ侵攻しんこうで、占領せんりょうされたウクライナの各地かくちでは、児童じどう養護ようご施設しせつの子こどもや夏休なつやすみに「キャンプ」に出でかけた子こどもなどが、ロシアに移送いそうされるケースが相次あいついでいます。

ウクライナや欧米おうべい側がわは、子こども本人ほんにんや家族かぞくなどの意いに沿そわない「連れ去つれさりだ」とロシアを強つよく批判ひはんしています。

ウクライナ政府せいふによりますと、ロシア側がわに「連れ去つれさられた」とされる子こどもたちの数かずは、特定とくていできたもので1万まん9546人にんで、実際じっさいはさらに多おおい可能かのう性せいも指摘してきされています。

このうち、これまでに帰国きこくできた子こどもたちは388人にんにとどまるということです。

子こどもの帰国きこくは、ウクライナのNGOによる救出きゅうしゅつの取り組とりくみのほか、国際こくさい機関きかんや中東ちゅうとうのカタールなどの仲介ちゅうかいによって実現じつげんしたことが伝つたえられています。

ウクライナ政府せいふは、子こどもたちの帰国きこくに向むけて国際こくさい社会しゃかいに協力きょうりょくを訴うったえています。

一方いっぽう、ロシアのプーチン政権せいけんは、子こどもたちの移送いそうについて、強制きょうせいではなく戦闘せんとう地域ちいきの子こどもたちを保護ほごしているだけだなどと主張しゅちょうしています。

ただ、プーチン大統領だいとうりょうが軍事ぐんじ侵攻しんこう後ごに署名しょめいした大統領だいとうりょう令れいでは、ウクライナの孤児こじがロシア国籍こくせきを取得しゅとくしたりウクライナ国籍こくせきの子こどもを養子ようしにしたりする手続てつづきを簡素かんそ化かしていて、占領せんりょう地ちの子こどもたちを自じ国民こくみんにする企くわだてだとも指摘してきされています。

こうした状況じょうきょうを受うけ、去年きょねん3月つき、ICC＝国際こくさい刑事けいじ裁判所さいばんしょは、プーチン大統領だいとうりょうと、ウクライナの子こどもたちをロシア人じんの養子ようしにする政策せいさくの中心ちゅうしんとなってきたリボワベロワ大統領だいとうりょう全権ぜんけん代表だいひょうに対にたいして、ウクライナの支配しはい地域ちいきから子こどもを連れ去つれさっているとして、戦争せんそう犯罪はんざいの疑うたがいで逮捕たいほ状じょうを出だしています。

リボワベロワ氏しは去年きょねん7月つきに公表こうひょうした報告ほうこく書しょで、ロシアに来きたウクライナ東部とうぶの児童じどう養護ようご施設しせつにいた子こどもおよそ1500人にんのうち、380人にんがロシア国内こくないの里親さとおやのもとに預あづけられたと主張しゅちょうし、一時いちじ保護ほご施設しせつでは子こどもの権利けんりが守まもられないなどと正当せいとう化かしています。

子こどもの救出きゅうしゅつに取り組とりくむNGOでは

ウクライナで、ロシアに連れ去つれさられた子こどもの救出きゅうしゅつに取り組とりくんでいるのが首都しゅとキーウに拠点きょてんを置おくNGOの「セーブ・ウクライナ」です。

「セーブ・ウクライナ」のこれまでの取り組とりくみで、今月こんげつ14日にちまでに、ロシアに連れ去つれさられたり、ロシアの占領せんりょう地ちに取り残とりのこされたりした子こども373人にんの帰還きかんを実現じつげんしたとしています。

NGOでは、親族しんぞくなどからの要望ようぼうに応おうじて、子こどもの帰還きかんのために、ロシア側がわで公開こうかいされる里親さとおやの募集ぼしゅうや養子ようしを扱あつかった記事きじなどから情報じょうほうを収集しゅうしゅうします。

そのうえで、子こどもの居場所いばしょを特定とくていし、本人ほんにんなどに連絡れんらくを取とったり、親族しんぞくなどがロシアに向むかったりして、帰国きこくにつなげてきたということです。

NGOの創設そうせつ者しゃミコラ・クレバ氏しは「連れ去つれさられた子こどもたちに関にかんする情報じょうほうを見みつけ、子こどもたちとつながりを築きずいてきた。ホットラインを設置せっちしているが毎日まいにちのように連絡れんらくがくる」と話はなしていました。

一方いっぽうで、クレバ氏しは「ICCの決定けってい後ご、ロシアは情報じょうほうを隠かくすようになった。また特とくに子こどもが養子ようし縁組えんぐみされた場合ばあい、ロシアの市民しみん権けんが与あたえられ、見みつけるのが非常ひじょうに困難こんなんになっている」と述のべ、プーチン大統領だいとうりょうなどに逮捕たいほ状じょうが出だされてからは、子こどもの特定とくていがより難むずかしくなっていると訴うったえています。

NGOでは、帰還きかんできた子こどもから詳くわしく聞き取ききとるなどして、情報じょうほう収集しゅうしゅうの強化きょうかを図はかっているということです。

また、去年きょねん5月つき、このNGOから派遣はけんされた女性じょせいがモスクワで拘束こうそくされ、国外こくがい追放ついほうされたと報ほうじられるなど、NGOはロシアの当局とうきょくが監視かんしを強つよめているとみています。

クレバ氏しは「ロシアに制裁せいさいなどの圧力あつりょくをかけて子こどもの情報じょうほうを出ださせる必要ひつようがある。第だい2次じ世界せかい大戦たいせん以降いこうの国際こくさい的てきな枠組わくぐみが機能きのうしない中なか、平和へいわサミットに参加さんかする国くにで実効じっこう性せいのある枠組わくぐみを考え出かんがえだすべきだ」と訴うったえました。

さらに、NGOでは帰還きかんした子こどもたちのケアにも力ちからを入いれています。

子こどものケアにあたる施設しせつを用意よういし、この中なかで行おこなう「アートセラピー」では、当初とうしょ、暗くらい絵えを描えがいていた子こどもがやがて自分じぶんの夢ゆめなどについて描えがくようになるなど、一定いっていの効果こうかもでているということです。

クレバ氏しは「連れ去つれさられた子こどもは先さきのこともわからず不安ふあんや心こころの傷きずを抱かかえ、眠ねむれなくなることもある。私わたしたちが子こどもの心こころを癒やしたり教育きょういくを行おこなったりする機会きかいを増ふやすため国際こくさい社会しゃかいからの支援しえんも必要ひつようです」と話はなしていました。

1週間しゅうかん前まえに帰還きかんした少女しょうじょは

NHKは、ロシアに連れ去つれさられ、今月こんげつ9日にちにウクライナに帰還きかんできたばかりのイローナさん（17）に、話はなしを聞きくことができました。

ウクライナ南部なんぶヘルソン州しゅう出身しゅっしんのイローナさんは、ロシアによる軍事ぐんじ侵攻しんこうでおととし、住すんでいた場所ばしょがロシアの支配しはい下かに置おかれました。

おととし夏なつ、ロシア側がわが主催しゅさいするクリミアで行おこなわれた「キャンプ」に参加さんかしたところ、その後そのご、車くるまでロシア南部なんぶのクラスノダール地方ちほうに連つれていかれたということです。

そこで、イローナさんは当時とうじ16歳さいだったものの、身分みぶん証明しょうめい書しょの生うまれ年ねんを2年ねん早はやく書き換かきかえられて成人せいじん年齢ねんれいに達たっしたことにされ、「ここのルールに従したがわないと家族かぞくが大変たいへんなことになる」と脅おどされて、ロシアで成人せいじん女性じょせいとして暮くらすよう求もとめられたということです。

イローナさんは、当時とうじの心境しんきょうについて「家族かぞくに危害きがいが及およぶかもしれないと思おもうと、わかりましたと言いうしかなかった」と振り返ふりかえりました。

イローナさんは、ロシアで自分じぶんで生計せいけいを立たてる必要ひつように迫せまられ、飲食いんしょく店てんやスーパーなどでアルバイトをして生活せいかつしていたということです。

NGO「セーブ・ウクライナ」のボランティアと連絡れんらくをとってウクライナへの帰国きこくに向むけて準備じゅんびをしていたところ、ロシアの情報じょうほう機関きかんに携帯けいたい電話でんわを取り上とりあげられて妨害ぼうがいされたということです。

さらにその後そのご、うそ発見はっけん器きにかけられ、ウクライナ軍ぐんに知り合しりあいがいないかなどと尋問じんもんを受うけたということです。

ロシア側がわがウクライナ軍ぐんの情報じょうほうを入手にゅうしゅするため子こどもを利用りようしようとしていることもうかがわれます。

イローナさんは、携帯けいたい電話でんわを買かい直なおすなどしてNGOなどと連絡れんらくを通をつうじて、今月こんげつ、2年ねんぶりに帰国きこくを果はたすことができました。

イローナさんは「帰国きこくできて呼吸こきゅうが楽らくになった気きがした。ロシアにいた間まは10年ねん以上いじょうのように長ながく感かんじた」と話はなしていました。

現在げんざいは「セーブ・ウクライナ」で一時いちじ的てきに保護ほごされていて「ほかの子こたちも早はやく帰かえってきてほしい」と訴うったえています。

連れ去つれさられて養子ようしにされた男性だんせいも

おととし5月つきにロシアに連れ去つれさられて養子ようしにされた末すえ、去年きょねん11月つき、ウクライナに帰国きこくした男性だんせいがNHKの取材しゅざいに応おうじ、心こころの傷きずを音楽おんがくで克服こくふくしたと明あかすとともに、ほかの子こどもの帰国きこくに向むけても支援しえんが必要ひつようだと訴うったえました。

ウクライナ東部とうぶドネツク州しゅうのマリウポリ出身しゅっしんのボフダン・イエルモヒンさんは、幼おさないころ両親りょうしんを亡なくし、学校がっこうの寮りょうで暮くらしていました。

おととしマリウポリがロシア軍ぐんに占拠せんきょされると、ロシア側がわが支配しはいする、州しゅうの中心ちゅうしん都市としドネツクに、「安全あんぜんのため」と称しょうして連れ去つれさられ、さらに1000キロほど離はなれたモスクワ郊外こうがいの里親さとおやのもとに養子ようしにされたということです。

イエルモヒンさんは、脱出だっしゅつを試こころみ続つづけ、ロシアで徴兵ちょうへいの対象たいしょうとなる18歳さいの誕生たんじょう日びを前まえに「ゼレンスキー大統領だいとうりょう、帰国きこくできるよう助たすけてください」と訴うったえる動画どうがを弁護士べんごしを通をつうじてSNSに公開こうかいしました。

この映像えいぞうが注目ちゅうもくを浴あびると、ロシア側がわが帰国きこくを認みとめ、去年きょねん11月つき、ウクライナに帰かえることができました。

イエルモヒンさんは、ロシアに滞在たいざい中ちゅう、ロシア側がわに「洗脳せんのう」されるような言動げんどうに苦くるしめられたということで「日課にっかのようにずっと『ウクライナはネオナチだ』と聞きかされ続つづけた。『ウクライナでは臓器ぞうきのために子こどもが取り引とりひきされている』とか『帰かえったらすぐに動員どういんされる』とも言いわれた」と明あかしました。

イエルモヒンさんは、こうしたストレスやマリウポリで目の当まのあたりにした戦闘せんとうによる心こころの傷きずで精神せいしん的てきに不安定ふあんていだったといいます。

これを克服こくふくしようと好すきな音楽おんがくに打ち込うちこんだということで、「祖国そこく」という歌うたを作詞さくしして心こころを和やわらげるとともに帰国きこくの意思いしをみずから確認かくにんしていたということです。

イエルモヒンさんは「毎日まいにちがつらかった。心こころの傷きずは大人おとなも子こどもも皆みな抱かかえていて、正ただしいアプローチが必要ひつようです。自分じぶんの場合ばあいは音楽おんがくを作つくることで気持きもちを落ち着おちつけることができ、みずから克服こくふくしました」と振り返ふりかえりました。

一方いっぽう、多おおくの子こどもがいまだ帰還きかんできていない状況じょうきょうについて「自分じぶんだけが有名ゆうめいになって脱出だっしゅつできたのが間違まちがっているという感覚かんかくはずっと持もっている」とも話はなしています。

イエルモヒンさんはことし、政治せいじ家かなどとともに団体だんたいを設立せつりつし、ロシアに残のこる子こどもの帰国きこくの支援しえんや、帰国きこくしたあと社会しゃかいに溶とけ込こめるようなケアを行おこなっていくと決意けついを示しめしていました。