その後、円相場は政府・日銀による市場介入のあとに再び円安方向に押し戻されるというケースが相次ぎますが、11月10日に発表されたアメリカの消費者物価指数が市場予想を下回ると一転して、円高方向に変動。1ドル=137円台まで値上がりしました。
円相場が急転したのは、アメリカのFRBの利上げのペースが緩むのではないかという見方が市場に広がったためです。
今後の円相場はどうなるのか?
25人の専門家に来年・2023年末に予想される為替の水準を聞いたところ19人から回答がありました。
▽このうち「130円」「130円程度」が合わせて4人。「130円台」「132円」「133円」「135円」「138円」の予想と合わせて130円台を予想するのは10人となりました。 ▽また、長いレンジで予想した専門家の回答を見ると、「125円~135円」「120円~140円程度」「132円~147円」と130円台を挟んだ形での予想が3人いました。 ▽一方、「120円」「125円」と120円台を予想する人が4人。 ▽「140円」と140円台を予想する人は1人でした。 ▽「150円」は1人でした。
インフレを抑え込もうと大幅な利上げを続けるアメリカと、ぶれずに金融緩和を続ける日本。ことし1月以降、日米の金利差は急速に拡大。それに合わせて円相場も急速に円安が進み、金利差と円相場の推移はほぼ一致します。 さまざまな要因で変動する為替相場ですが、今はアメリカの金融政策の動向が最大の焦点。この状況は当面変わらないと多くの専門家が見ています。 ただ来年の予想の幅に30円も差があるのは、アメリカの金融政策の動向について見解が分かれているからです。
明治安田総合研究所 小玉祐一さん『1ドル=120円と予想』 「アメリカの金融政策の転機が見えてくると、かなりのスピードで円高が進む可能性はあるのではないか」 三菱UFJモルガン・スタンレー証券 六車治美さん『1ドル=132円~147円と予想』 「まだ米国経済指標で強い結果も出てくると予想され、このまま一気に円高ドル安になるよりは、振れを伴いながら少しずつドル高のピークアウトが出てくるとみている」 一方、依然、円安圧力が強いとみる専門家の中には日本の構造的な問題を指摘する声も。 JPモルガン証券 藤田亜矢子さん『1ドル=150円と予想』 「アメリカの利上げはいずれ終わるなり、景気の循環が変わるなりして解消されていく。しかし、円安の本質的な背景には、潜在成長率の低下などといった構造的な問題がある」
野村総合研究所 木内登英さん 「リーマンショック以降、日本の貿易構造が変わり、企業は海外での生産を増やした。その結果、為替が円安になっても、競争力が高まって輸出が増えるとはならなくなった。円安のプラス面が小さくなっていったという構造変化が起こっている」 また、投資先としての日本、そして円の魅力が低下しているとの声も聞かれました。 東短リサーチ 加藤出さん 「デジタル時代に適応できる企業が少なく、人口減少・高齢化によって、海外から日本経済が魅力的に見えず、良い投資がなかなか入ってこない。本来であれば、ある国の先行きについて経済成長していくと多くの人が思えば、そこの通貨が買われていき、結果としての良い円高というものが起きることが望ましいが、残念ながら今は逆方向に来ている」
多くの専門家があげたのが「賃上げ」でした。物価の上昇を上回る賃上げを実現し、経済の好循環をつくること。これが目指すべき方向性だという点は専門家が一致して指摘していました。 「賃上げ」をいかに実現するのか、これに対する専門家の回答は来週のコラムで改めてご紹介します。 このほか「今の円安を生かす」というキーワードをあげた専門家も多くみられました。 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 小林真一郎さん 「従来輸出していなかったものが、円安をきっかけに輸出を増やすことができるかもしれない。例えば、農産品がその候補の1つ。ここまで円安になれば、日本の農産品も海外において、価格競争力が強まってくる」 また、「稼ぐ力」「生産性・潜在成長力向上」といった日本の国力を向上させることで構造的な問題を克服すべきだという指摘も多くみられました。 第一生命経済研究所 熊野英生さん 「この10年間ずっと円安局面が続き、企業経営者は円高恐怖症に陥ってしまった。これを変えるためには、企業自体が体質改善することが必要。それはまさに『稼ぐ力』であって、企業がグローバルに展開し、円高でも円安でもドルでもユーロでも円でも、どの通貨でも稼げるようになれば、円高トラウマは少しずつ克服されていく」 25人の専門家の“集合知”、マーケットの将来予測では見解が分かれるところもありましたが、日本が抱える構造的な課題とその克服に向けての処方箋については、一致するところが多くあったと感じました。
25日には東京都区部の消費者物価指数が発表されます。
予想の根拠は?
見方が分かれるアメリカの金融政策の動向
日本の「構造的な問題」とは?
日本に求められるものは?
NHKスペシャル「円安に物価高 どうなる日本 ~専門家たちの集合知で迫る~」
注目予定