タワーマンションの住民じゅうみん 船ふねでけが人けがにん搬送はんそうの防災ぼうさい訓練くんれん

訓練くんれんを行おこなったのは、東京とうきょう 港みなと区くに３さん棟むねあり5000人にんが入居にゅうきょする国内こくない最大さいだい級きゅうの42階かい建だてのタワーマンションの住民じゅうみんたちです。

訓練くんれんは首都しゅと直下ちょっか地震じしんでけが人けがにんが出でたという想定そうていで行おこなわれ、けが人けがにん役やくの男性だんせいを４よん人にんがかりでマンションから運河うんがの桟橋さんばしに停泊ていはくしている船ふねまで運はこびました。

途中とちゅう、桟橋さんばしに降おりる階段かいだんの段差だんさや船ふねの入り口いりくちの狭せまさから、およそ20メートルの距離きょりを運はこぶのに10分ふんほどの時間じかんがかかり、今後こんごの課題かだいとなりました。

このマンションでは、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの発生はっせい時じにエレベーターが止とまるなど影響えいきょうが出でたことから、自主じしゅ防災ぼうさい組織そしきを立たち上あげるなど独自どくじの対策たいさくを進すすめています。

湾岸わんがん沿ぞいにあるため、大だい規模きぼ災害さいがい時じ、外部がいぶからの助たすけがすぐに来くることが期待きたいできず、橋はしが通とおれなくなった場合ばあい、陸路りくろを使つかうのも難むずかしいと考かんがえられます。このためマンションでは「海上かいじょうタクシー」を運航うんこうしている会社かいしゃと独自どくじに協定きょうていを結むすび、災害さいがい時じには津波つなみの危険きけん性せいがなくなりしだい、船ふねを使つかってけが人けがにんを搬送はんそうできないか、検討けんとうを進すすめています。協定きょうていは来月らいげつにも結むすばれる予定よていで、住民じゅうみんが日頃ひごろから一定いってい程度ていど、海上かいじょうタクシーを利用りようする代かわりに、災害さいがい時じに船ふねを活用かつようできるようにする方針ほうしんです。

参加さんかした男性だんせいは、「大人おとな１いち人にん運はこぶだけで最低さいてい４よん人にんは必要ひつようだということが分わかった。男手おとこでがない日ひ中なかはどうするかや、災害さいがい時じ、船ふね会社かいしゃとどう連絡れんらくをつけるかなど新あらたな課題かだいが見みつかった」と話はなしていました。

ワールドシティタワーズの中嶋なかじま信行のぶゆき防災ぼうさい部長ぶちょうは「大だい地震じしんが起おきればここでも複数ふくすうの重傷じゅうしょう者しゃが出でると想定そうていしている。行政ぎょうせいの助たすけを期待きたいするのは非常ひじょうに厳きびしい中なか、自分じぶんたちの命いのちを守まもることができるよう平常へいじょう時じの準備じゅんびを進すすめていきたい」と話はなしていました。

高層こうそうマンション 震災しんさいの教訓きょうくんとは

訓練くんれんが行おこなわれた東京とうきょう 港みなと区くのタワーマンションでは、東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいの発生はっせい時じ、31機きのエレベーターが止とまり、高層こうそう階かいの住民じゅうみんが降おりてこられなくなったり、自宅じたくに戻もどれなくなったりするなど混乱こんらんしました。

マンションの防災ぼうさい部長ぶちょうで、34階かいに住すむ中嶋なかじま信行のぶゆきさんも、当時とうじ、外そとから自宅じたくに戻もどることができず、「もろさ」を感かんじたといいます。

中嶋なかじまさんは、「実じつは何なにの備そなえもないことが分わかった。災害さいがいに備そなえる組織そしきを作つくらないと首都しゅと直下ちょっか地震じしんでは本当ほんとうに大変たいへんなことになるという思おもいが住民じゅうみんの間まで共有きょうゆうされた」と話はなしていました。

危機きき感かんを覚おぼえた中嶋なかじまさんたちは、自主じしゅ防災ぼうさい組織そしきの立たち上あげを考かんがえますが、当初とうしょは消極しょうきょく的てきな意見いけんもあり、合意ごうい形成けいせいには苦労くろうしたということです。しかし、自主じしゅ防災ぼうさい組織そしきを立たち上あげれば港みなと区くから支援しえんを受うけられることなどを説明せつめいすることで、１いち年ねん余あまりかけて5000人にんの住民じゅうみん全員ぜんいんが加入かにゅうする組織そしきを作つくりあげました。

独自どくじの対策たいさく進すすめる

現在げんざいは月つき１いち回かいの会議かいぎや、定期ていき的てきな安否あんぴ確認かくにんの訓練くんれんも実施じっししているほか、首都しゅと直下ちょっか地震じしんでは、最悪さいあくの場合ばあい190人にんがけがをするなどという独自どくじの被害ひがい想定そうていも行おこなって、防災ぼうさい計画けいかくの策定さくていを進すすめています。

また、１いち週間しゅうかん程度ていどは在宅ざいたく避難ひなんが続つづけられるよう、各かく世帯せたいでの食料しょくりょうの備蓄びちくを促うながしています。さらに、断水だんすいの対策たいさくとして、屋内おくないにあるプールの水みずを浄化じょうか装置そうちを使つかって「飲のみ水すい」にできないかと考かんがえていて、今月こんげつ２に日にちには実証じっしょう実験じっけんを行おこないました。ソーラーパネル型がたの装置そうちでは１いち時間じかんにおよそ120リットルの水みずを浄化じょうかできますが、500万まん円えん余あまりの費用ひようがかかり、今後こんご、住民じゅうみん負担ふたんで購入こうにゅうするか検討けんとうすることにしています。

中嶋なかじまさんは、「タワーマンションは多おおくの人ひとが暮くらす１ひとつの街まちのようなものだ。課題かだいはあるが自分じぶんのすみかを守まもる取り組とりくみを続つづけたい」と話はなしていました。

タワーマンションの課題かだいは

一般いっぱん的てきに、６ろく階かい以上いじょうある高層こうそうマンションのうち、20階かい以上いじょうある超ちょう高層こうそうマンションが、いわゆる「タワーマンション」と呼よばれています。

不動産ふどうさん調査ちょうさ会社かいしゃの東京とうきょうカンテイによりますと、「タワーマンション」は去年きょねんの時点じてんで全国ぜんこくに1289棟むねあり、３さん割わり以上いじょうの419棟むねが東京とうきょうに集中しゅうちゅうしています。タワーマンションは建築けんちく基準きじゅんが厳きびしく、優すぐれた耐震たいしん性せいがあるとされているため、災害さいがい時じには、極力きょくりょく、自宅じたくで生活せいかつを続つづける「在宅ざいたく避難ひなん」が前提ぜんていとなっています。ただ、大だい地震じしんの際さいは、エレベーターが長期間ちょうきかん止とまることが想定そうていされ、高層こうそう階かいの住人じゅうにんは十分じゅうぶんな物資ぶっしを補給ほきゅうできなくなることから、いわゆる「高層こうそう難民なんみん」になるおそれが指摘してきされています。

７なな割わりが住すむ港みなと区くは

東京とうきょう 港みなと区くは、住民じゅうみんの７なな割わりに当にあたる10万まん世帯せたいが高層こうそうマンションに住すんでいるため、重点じゅうてん課題かだいとしてマンションの防災ぼうさい対策たいさくに取り組とりくんでいます。港みなと区くが昨年度さくねんど（平成へいせい29年度ねんど）、700棟むねの高層こうそうマンションを対象たいしょうに行いった実態じったい調査ちょうさでは、防災ぼうさい組織そしきの結成けっせい率りつはおよそ37％にとどまっていたほか、水みずや食料しょくりょうなどの備蓄びちくを進すすめていないところも42％に上のぼりました。

このため港みなと区くでは、自主じしゅ防災ぼうさい組織そしきを作つくった場合ばあいにはテントや発電はつでん機きなどの資機材しきざいを無償むしょうで提供ていきょうするほか、防災ぼうさいの専門せんもん家かを派遣はけんしたり、「在宅ざいたく避難ひなん」についてのハンドブックを作成さくせいしたりするなど、支援しえん制度せいどを設もうけています。港みなと区くの防災ぼうさい課かは、「大おおきな地震じしんが相次あいつぎ、住民じゅうみんの意識いしきは高たかまりつつあるが、高層こうそうマンションでは住民じゅうみんどうしの連携れんけいが進すすみにくいのが実情じつじょうだ。被害ひがいの拡大かくだいを防ふせぐには、住民じゅうみんの『自助じじょ・共助きょうじょ』は必須ひっすで、粘り強ねばりづよく対策たいさくを進すすめたい」としています。

「在宅ざいたく避難ひなんの覚悟かくごを」

マンションの防災ぼうさい対策たいさくに詳くわしい跡あと見学けんがく園えん女子じょし大学だいがくの鍵屋かぎや一いち教授きょうじゅは、「タワーマンションでは、大おおきな地震じしんが来くればエレベーターが長期間ちょうきかん止とまって高層こうそう階かいに住民じゅうみんが取り残とりのこされる。大だい人数にんずうが一斉いっせいに階段かいだんで降おりようとすれば将棋倒しょうぎだおしになるなどのリスクも考かんがえられる。住民じゅうみんは１いち週間しゅうかん程度ていどはその場所ばしょで生活せいかつする覚悟かくごが必要ひつようだ」と指摘してきしています。

そのうえで、「タワーマンションの中なかには、高齢こうれい者しゃや障害しょうがい者しゃ、赤あかちゃんなど、災害さいがい時じには自分じぶんの力ちからだけでは生活せいかつできない人ひとも多おおくいる。こうした人ひとの安全あんぜんを守まもり、生活せいかつを支ささえるためには、マンション内ないの住民じゅうみんが協力きょうりょくしあうことが必要ひつようで、日頃ひごろから横よこのつながりを持もつコミュニティを作つくっていくことが大切たいせつだ」と話はなしています。