一時漂流のジェット船 ほぼ1日たって伊豆大島に到着
東海汽船が運航するジェット船「セブンアイランド愛」は、子どもを含む乗客116人と乗員5人を乗せ、24日午前7時45分に東京の竹芝桟橋から伊豆諸島の式根島に向けて出港しました。
しかし、およそ2時間15分後の午前10時ごろ、千葉県の房総半島の南西およそ20キロの沖合で、自力で航行できなくなって一時漂流しました。
その後、海上保安部の巡視船や民間のタグボートがロープを使ってえい航を続け、出港からほぼ1日がたった25日午前5時半すぎに伊豆大島の岡田港に到着しました。
航行できなくなった当時、ジェット船からは「油が漏れてかじがきかなくなった」と海上保安庁に通報があったということです。
油圧系統で油が漏れ かじがきかなくなったか
一方で、自力で航行できなくなったあとも船内の空調が使えるなど、ジェット船のエンジンは動いていたということです。
こうしたことから海上保安部は、何らかの原因で油圧系統で油が漏れてかじがきかなくなった可能性があるとみて、乗員から話を聞くなどして詳しい原因を調べています。
難航したえい航 海上でいったい何が
出港からほぼ1日がたって、25日午前5時半すぎに伊豆大島の岡田港に到着した東海汽船のジェット船「セブンアイランド愛」。
海上では何が起きていたのか。
強風や高波によってえい航が阻まれていたことが第3管区海上保安本部への取材でわかりました。
「セブンアイランド愛」が東京の竹芝桟橋を出港したのは24日午前7時45分でした。
海上保安庁に通報があったのは、およそ2時間15分後の午前10時ごろ。
千葉県の房総半島の南西およそ20キロの沖合で「油が漏れてかじがきかなくなった」という内容でした。
通報を受けて午前11時ごろには海上保安部の巡視船が現場に到着し、ロープを渡すなど準備を整えて午後0時20分すぎにえい航を開始しました。
しかし、およそ1時間半後の午後1時50分、巡視船とジェット船をつないでいたロープが切れ、えい航できなくなってしまいました。
当時の天候は晴れ。
一方で風速は13メートル、波は1.5メートルと高い状況だったといいます。
こうした状況で揺れが大きくなると、船と船を結ぶロープがたるんだり引っ張られたりしてすり切れてしまうことがあるということです。
このとき、すぐ近くに民間のタグボートが来ていて巡視船に代わってえい航の準備を始めますが、1時間ほどあとの午後2時50分ごろになって「えい航することができない」と連絡があったということです。
このため海上保安部が別の巡視船を派遣。
この間、およそ2時間余りえい航が中断したとみられ、午後4時10分すぎから再び巡視船によるえい航が始まりました。
その後、午後8時ごろからは再度、えい航を民間のタグボートが引き継ぎ、ジェット船はようやく岡田港に到着しました。
えい航の活動中、風速は常に10メートル前後、波の高さは2メートルを超える時もあり、目的地の岡田港とは逆の東側に流されるなど難航したということです。
ジェット船の位置情報では
船の位置などを電波で発信する装置のデータ分析を行っている「IHIジェットサービス」のデータでは、東海汽船が運航するジェット船「セブンアイランド愛」は24日午前7時45分ごろに竹芝桟橋を出港した後、午前9時ごろまでは時速70キロ余りで航行を続けていましたが、その数分後、速度は急速に落ちていました。
その後、船はゆっくりと房総半島の沖合で東に向けて移動したことが分かります。
午後0時20分すぎから海上保安部の巡視船がえい航を始めますが、巡視船とジェット船をつないでいたロープが切れたりするなどえい航が中断したとみられる間も船の位置は東に移動し、午後4時過ぎには千葉県南房総市の野島埼灯台の南東およそ20キロまで移動します。
その後、民間のタグボートがえい航を引き継いだ午後8時ごろからはゆっくりとした速度で西に向かい始めました。
そして、伊豆大島の岡田港に到着したのは25日午前5時半すぎでした。
活動にあたった特殊救難隊の隊長は
一時、漂流したジェット船をえい航する活動には「海猿」として知られる海難事故対応のスペシャリスト、第3管区海上保安本部の特殊救難隊が加わっていました。
この特殊救難隊の隊長が25日、NHKのインタビューに応じ、今回の活動について「海上が荒れていたため船が大きく揺れたことに加え、夜間におよび視野が悪くなる中で作業に時間を要した。不安な表情を浮かべる乗客もいたが、互いに声を掛け合いながらみんなで乗り越えた」と語りました。
第3管区海上保安本部羽田特殊救難基地に所属する特殊救難隊の木村慎吾隊長が25日午後、NHKのインタビューに応じました。
木村隊長は隊員3人とともに巡視艇「うみかぜ」で現場に向かい、実際にジェット船に乗り込んで活動にあたったということで、当時の状況を語りました。
まず、ジェット船をえい航するため、巡視船とジェット船をロープでつなぐ作業に取りかかったということです。
当時の海上の様子について木村隊長は「天気は良かったが、海上は荒れていて風速は10メートルはあった。白波がたっているような状況だった」と話しました。
また、25日にかけての一連の活動については「揺れが割と大きい状態だったので、何かにつかまっていないと船内で歩いたり、立ったりしているのが難しく、作業をより困難なものにした。夜間になって視野も悪くなったことからさらに活動が難しくなり、時間を要してしまった」と話していました。
さらに、船内の乗客の様子については「時間がたつにつれ体調不良を訴える人が徐々に増えていった。ピーク時には8割の乗客に船酔いなどの症状が見られた」と明かしました。
そのうえで「波が高く、暗い状況の中、トイレに行く乗客の安全を管理したり、隊の活動内容を船内マイクで周知したりしたほか、乗客に『悪化していないですか』とか『水分を取っていますか』と声をかけて対応した。不安な表情を浮かべる人もいたが、乗員や乗客が互いに声を掛け合いながらみんなで乗り越えていた」と話していました。