有明ありあけ海かい「のり」取り引とりひき 漁協ぎょきょうが不当ふとうに拘束こうそくか 排除はいじょ措置そち命令めいれいへ

独占どくせん禁止きんし法ほう違反いはんの疑うたがいが持もたれているのは、佐賀さが市しにある「佐賀さが県けん有明海ありあけかい漁業ぎょぎょう協同きょうどう組合くみあい」と、熊本くまもと市しにある「熊本くまもと県けん漁業ぎょぎょう協同きょうどう組合くみあい連合れんごう会かい」です。

関係かんけい者しゃによりますと、この2つの団体だんたいは有明海ありあけかい周辺しゅうへんの「のり」の生産せいさん者しゃに対にたいし、すべての「のり」を組合くみあいに出荷しゅっかするという内容ないようの誓約せいやく書しょを書かかせ、生産せいさん者しゃの取り引とりひきを不当ふとうに拘束こうそくしている疑うたがいがあるということです。

その後そのごの販売はんばい先さきや販売はんばい価格かかくも組合くみあいに一任いちにんすることを求もとめていたとみられるということです。

公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいは去年きょねん6月つき、2つの団体だんたいに立ち入たちいり検査けんさに入はいり、関係かんけい者しゃへの聞き取ききとりなどを続つづけてきましたが、近ちかく、独占どくせん禁止きんし法ほうが規定きていする行政ぎょうせい処分しょぶんで最もっとも重おもい排除はいじょ措置そち命令めいれいを出だす方針ほうしんを固かためたということです。

漁りょう連れんや漁協ぎょきょうに独占どくせん禁止きんし法ほう違反いはんの行政ぎょうせい処分しょぶんが出だされれば、1947年ねんに独占どくせん禁止きんし法ほうが制定せいていされて以降いこう、初はじめてのケースとみられます。

一方いっぽう、公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいは同おなじ有明ありあけ海かいの「のり」の生産せいさん者しゃが加入かにゅうする、福岡ふくおか県けん柳川やなかわ市しの「福岡ふくおか有明海ありあけかい漁業ぎょぎょう協同きょうどう組合くみあい連合れんごう会かい」にも、立ち入たちいり検査けんさを行おこなっていますが、漁りょう連れん側がわが、事実じじつを認みとめるとともに再発さいはつ防止ぼうし策さくなどを確約かくやくする計画けいかくを提出ていしゅつしています。

生産せいさん者しゃへの「誓約せいやく書しょ」 その内容ないようは

関係かんけい者しゃによりますと、佐賀さがや熊本くまもとの漁協ぎょきょうなどはのり漁りょうの時期じきに合あわせて毎年まいとし生産せいさん者しゃに対にたいし、のりの漁りょうや出荷しゅっかについての規約きやくが記載きさいされた「誓約せいやく書しょ」の提出ていしゅつを求もとめてきたとみられます。

NHKが独自どくじに入手にゅうしゅした「誓約せいやく書しょ」は、佐賀さが県けん有明海ありあけかい漁協ぎょきょうが今こんシーズン、生産せいさん者しゃに配くばったもので、「全量ぜんりょう組合くみあいに出荷しゅっかするよう努つとめます」などと記しるされています。

漁協ぎょきょうによりますと、誓約せいやく書しょには以前いぜん「全量ぜんりょう組合くみあいに出荷しゅっかします」と記載きさいされていましたが、公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいの調査ちょうさを受うけて2021年ねんから文言もんごんが修正しゅうせいされたということです。

ただ、漁協ぎょきょうはいずれの誓約せいやく書しょについても「全量ぜんりょう出荷しゅっかを強制きょうせいするものではなく、漁業ぎょぎょう者しゃにお願おねがいするものだった」として、全量ぜんりょうの出荷しゅっかを義務ぎむづけるものではなかったとしています。

佐賀さが県けん沖おき のり養殖ようしょくとは

佐賀さが県けん沖おきの有明ありあけ海かいは全国ぜんこく有数ゆうすうののり養殖ようしょくの産地さんちで昨さくシーズン、記録きろく的てきな不作ふさくとなるまでは、19年ねん連続れんぞくで販売はんばい枚数まいすう、販売はんばい額がくともに日本一にっぽんいちとなっていました。

最大さいだい6メートルの干満かんまんの差さによって太陽たいようの光ひかりと海うみの栄養えいようを吸収きゅうしゅうしやすい、のり養殖ようしょくに適てきした環境かんきょうがつくられ佐賀さが県けんの中心ちゅうしん的てきな一いち次じ産業さんぎょうとなってきました。

ただ最近さいきんは担い手にないて不足ふそくなどにより生産せいさん者しゃの減少げんしょうが深刻しんこくで、県けん有明海ありあけかい漁協ぎょきょうによりますと、漁協ぎょきょうが合併がっぺいした平成へいせい19年度ねんどに千せん人にんを超こえていた生産せいさん者しゃは、今年度こんねんど647人にんにまで落ち込おちこみ、15年ねんほどで4割わり余あまりの減少げんしょうとなっています。

また、昨さくシーズンの記録きろく的てきな不作ふさくの原因げんいんにもなった赤潮あかしおがたびたび発生はっせいし、県けんの西南せいなん部ぶを中心ちゅうしんに以前いぜんのようにのりが採とれなくなっていて、有明ありあけ海かいの再生さいせいも大おおきな課題かだいとなっています。

有明ありあけ海かいの生産せいさん者しゃからは

すべての「のり」を組合くみあいに出荷しゅっかするよう強つよく求もとめる漁協ぎょきょう側がわの対応たいおうについて、有明ありあけ海かいの生産せいさん者しゃからはさまざまな意見いけんが聞きかれました。

佐賀さが県けん沖おきの有明ありあけ海かいでのり養殖ようしょくを営いとなむ川崎かわさき賢けん朗あきらさんは、漁協ぎょきょうにのりを出荷しゅっかするかたわら、一部いちぶを使つかって独自どくじの商品しょうひんを開発かいはつし、販売はんばいも手てがけています。

漁協ぎょきょうの誓約せいやく書しょに「強制きょうせい力りょくまではなかった」と語かたり、「生産せいさんに集中しゅうちゅうしたい漁業ぎょぎょう者しゃにとっては漁協ぎょきょうに全量ぜんりょうを出荷しゅっかすることによる恩恵おんけいもあるのではないか」と話はなしました。

別べつの70代だいの生産せいさん者しゃの男性だんせいは「組合くみあいを通をとおして売うったほうが検査けんさも平等びょうどうで安心あんしんだ。

自分じぶんが一生懸命いっしょうけんめい生産せいさんしたのりを買かいたたかれるのは嫌いやだし、個人こじんで売うるのは精神せいしん的てきにきついところもあるので、組合くみあい中心ちゅうしんがよいと思おもう」と話はなしていました。

一方いっぽう、匿名とくめいを条件じょうけんに取材しゅざいに応おうじた別べつの生産せいさん者しゃは「漁協ぎょきょうは報道ほうどうの取材しゅざいには、『強制きょうせいしていない』と答こたえるだろうが、個人こじん販売はんばいを推奨すいしょうしているわけではない。個人こじん販売はんばいをしていてもおおっぴらに言いうことはできず、こういう空気くうきは変かえていく必要ひつようがある」と話はなしていました。

行政ぎょうせい処分しょぶんへの踏み切ふみきり その背景はいけいは

零細れいさいが多おおい生産せいさん者しゃを保護ほごしてきた側面そくめんもある有明ありあけ海かいの「のり」の販売はんばい制度せいど。

なぜ、公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいは行政ぎょうせい処分しょぶんに踏み切ふみきろうとしているのでしょうか。

背景はいけいには、日本にっぽんの水産すいさん業ぎょうが置おかれた状況じょうきょうと、政府せいふが進すすめている規制きせい改革かいかく推進すいしんの議論ぎろんがあるとみられます。

国内こくないの水産すいさん業ぎょうは担い手にないてが減へり、生産せいさん量りょうも低下ていかしています。

一方いっぽう、世界せかい的てきには水産物すいさんぶつの需要じゅようが拡大かくだいしていて、産業さんぎょうを成長せいちょうさせていく必要ひつようがあるだけでなく、より高度こうどな資源しげん管理かんりも求もとめられています。

こうした中なか、国くにの規制きせい改革かいかく推進すいしん会議かいぎの事務じむ局きょくが、2021年ねんから2022年ねんにかけて漁業ぎょぎょう者しゃへのヒアリングを実施じっししたところ、有明ありあけ海かいの「のり」の出荷しゅっかをめぐる誓約せいやく書しょの存在そんざいが確認かくにんされたということです。

公正こうせい取引とりひき委員いいん会かいの関係かんけい者しゃは、NHKの取材しゅざいに対にたいし「日本にっぽんの一いち次じ産業さんぎょうは担い手にないて不足ふそくや高齢こうれい化かが深刻しんこくで、このままでは衰退すいたいが避さけられない。こうした中なかで生産せいさん者しゃを縛しばり、自由じゆうな流通りゅうつうを妨さまたげてしまえば、競争きょうそうを阻害そがいするだけでなく、将来しょうらいにつながるイノベーションの芽めを摘つんでしまうことになりかねない」と語かたっています。

専門せんもん家か「流通りゅうつうのあるべき姿すがた 議論ぎろん 研究けんきゅうを」

「のり」の流通りゅうつうに詳くわしい石巻いしのまき専修せんしゅう大学だいがくの李り東勲とうくん教授きょうじゅは、のりの共同きょうどう販売はんばい制度せいどそのものには零細れいさいな生産せいさん者しゃをまとめ、安定あんてい的てきな供給きょうきゅうにつなげる利点りてんがあるとしたうえで「漁協ぎょきょうに任まかせておけばそれでよいという、生産せいさん者しゃの安易あんいな姿勢しせいにつながっている側面そくめんもある。自由じゆうな取り引とりひきを希望きぼうする生産せいさん者しゃがいれば、その道そのみちを探さぐれるようにするべきだ。水産物すいさんぶつの流通りゅうつうには見みえない部分ぶぶんがまだ多おおいが、組合くみあいや生産せいさん者しゃも流通りゅうつうのあるべき姿すがたを議論ぎろんし、研究けんきゅうしていくべきだ」と話はなしています。