イスラエル軍は、合意に基づく戦闘休止の期限が過ぎた現地時間の1日朝、SNSで「ハマスが合意を破り、さらにイスラエルに向かってロケット弾を発射した」などとしてハマスへの軍事作戦を再開したと発表しました。
イスラエル軍はその後、SNSで南部のラファやハンユニスを含むガザ地区各地で200以上の標的に対して攻撃を行ったと明らかにし、テロ活動の拠点への空爆の様子だとする映像も公開しました。
ガザ地区の保健当局は戦闘再開後、178人が死亡し、けが人は589人にのぼっているとしています。
NHKガザ事務所カメラマン「ラファ周辺で10回以上の空爆」
NHKガザ事務所のカメラマンがガザ地区南部ラファ市内にある難民キャンプで撮影した映像ではイスラエル軍によるとみられる攻撃で煙が上がり、多くの人が集まってがれきのなかに閉じ込められた住民を助け出そうとする様子が確認できます。
カメラマンは「ラファ周辺では戦闘再開後1日の午前中だけで10回以上の空爆があった。戦闘の休止前よりも激しいペースだった」と話しています。
ハマス“民間人を標的にする敵に立ち向かう”
ハマスはSNSを更新し「民間人を標的にする敵に立ち向かう」などと徹底抗戦の姿勢を示しました。
また、ハマスの軍事部門カッサム旅団は民間人への攻撃に対する報復としてガザ地区との境界に近いイスラエル南部のスデロットなどにロケット弾による攻撃を行ったとSNSに投稿し、今後、戦闘が激しくなるおそれがあります。
また、戦闘の再開によって支援物資の搬入などに影響が出るおそれもあるほか、イスラエル軍は、多くの住民が避難しているガザ地区南部にも侵攻する構えを見せていて、犠牲者がさらに増えることが懸念されます。
イスラエルとハマスは先月24日から戦闘を休止し、1日までにハマス側がガザ地区で拘束していたイスラエル人と外国籍の人質合わせて105人を解放した一方、イスラエルも刑務所に収容していたパレスチナ人240人を釈放しましたが、戦闘の休止は7日間で終わりました。
ガザ地区南部のナセル病院 救急車次々と負傷者搬送
イスラエル軍が軍事作戦を再開した1日、ロイター通信が配信した映像では攻撃が行われたガザ地区南部のハンユニスにあるナセル病院に救急車が次々に入っていく様子が確認できます。
病院内の映像では、足に包帯を巻いた女の子が抱えられながら運び込まれたり、灰色の粉じんで顔が覆われた赤ちゃんが手当てを受けたりする姿が写されています。治療を受けている女の子は、「母と弟と一緒にいました。兄がどこにいるのかも分かりません」と涙を流しながら話していました。
イスラエル 人質の家族や支援者 軍事作戦再開を批判
イスラエル軍がガザ地区での軍事作戦を再開したことに、イスラエルでは人質の家族や支援者から批判も上がっています。
イスラエル政府は外国籍を含む137人がいまだにハマス側の人質になっているとしていて、イスラエル最大の商業都市テルアビブ中心部の広場には市民が連日集まり、人質が無事に解放されることを願って歌を歌ったり、ろうそくをともしたりしています。
イスラエル軍がガザ地区での戦闘を再開した1日は、家族や支援者およそ20人がまだ解放されていない人質の写真や「全員が戻るまで戦いをやめろ」などと書かれた横断幕を掲げて、戦闘の中止を訴えました。
このうち、親族が人質にとられているという男性は「いずれハマスを壊滅しなければならないのは理解しているが、人質全員を取り戻すまで数週間、あるいは数か月待てるはずだ」と話していました。
同様に、親族が解放されていないという女性は「これまでの合意をもう少し続ければより多くの人質を取り戻せると期待していたので、残念です。拘束されている人たちの健康状態がとても心配です」と涙を流しながら話していました。
また、かつてイスラエル空軍のパイロットだったという男性は「イスラエルは独裁政権ではなく政府は国民のためにあるはずだ。軍事作戦を直ちにやめ、人質全員の解放を求めるべきだ」と話し、政府への不満をあらわにしていました。
米 ブリンケン国務長官「戦闘休止終了 ハマスが約束をほご」
イスラエル軍が軍事作戦を再開したことについてアメリカのブリンケン国務長官は「ハマスが約束をほごにしたからだ」と述べ、イスラエルを支持する姿勢を改めて示しました。
アメリカのブリンケン国務長官は11月30日から1日にかけて、イスラエル、パレスチナのヨルダン川西岸、それにUAE=アラブ首長国連邦を訪れ、政府要人と会談しました。
一連の日程を終えたブリンケン長官は1日、UAEで記者団に対しエルサレムで武装した2人が市民を銃撃し3人が死亡した事件や、ロケット弾の発射をあげたうえで「戦闘の休止がなぜ終了したかが大切だ。それはハマスが約束をほごにしたからだ」と述べ、イスラム組織ハマスが戦闘の休止期間中に攻撃を行ったなどとして、戦闘を再開したイスラエルを支持する姿勢を改めて示しました。
また、ブリンケン長官は民間人の保護と人道支援の継続が不可欠だと強調した上で「イスラエルはきょう速やかに、安全な場所の情報を提供するなどの対策を取り始めている。イスラエルは民間人を保護するためにあらゆる措置を講じようと、さまざまな計画を立てている」と述べました。
一方、アメリカの有力紙、ニューヨーク・タイムズがイスラエルが10月7日のハマスの攻撃の情報を1年以上前から把握していたと報じたことについて記者団から問われると「誰がいつ何を知っていたか、全容を明らかにする機会はあるだろう」と述べました。
パレスチナ赤新月社「イスラエル軍が支援物資の搬入を禁止」
パレスチナ赤新月社は1日、SNSで、イスラエル軍が、ガザ地区とエジプトの境界にあるラファ検問所を通じた支援物資の搬入をできないようにしていると明らかにしました。
それによりますと、イスラエル軍は、ラファ検問所で活動するすべての団体に対して、支援物資を積んだトラックのエジプト側からガザ地区への通行を1日から「さらなる通知があるまで禁止すると通告した」ということです。
パレスチナ赤新月社は、支援物資の搬入の禁止は、民間人の苦しみを悪化させ、人道支援を行う団体がより困難な課題に直面することになるとして、できる限り早く物資の搬入を認めるよう求めています。
COP28首脳級会合でも懸念の声
イスラエル・パレスチナ情勢について、気候変動対策を話し合う国連の会議、COP28の首脳級会合でも、アラブ諸国の首脳などから懸念の声があがりました。
このうち、中東のヨルダンのアブドラ国王は「私たちの周りで起きている人道的な悲劇と気候変動を切り離して語ることはできないことを、これまで以上に認識しなければならない。私たちがこうしている間にも、パレスチナの人々の暮らしと命は差し迫った脅威に直面している。戦争による大規模な破壊は水と食料不足という環境上の脅威をさらに深刻にしている」と訴えました。
そのうえで「気候変動への対応について話し合うため、私たちはここに集まっているが、最も弱い立場の人たちについても話し合おう」と述べ、深刻化するガザ地区の人道危機への対応についてもCOP28で協議すべきだという考えを示しました。
また、トルコのエルドアン大統領は「気候危機を議論する一方で、私たちのすぐ隣のパレスチナで起きている人道危機を無視することはできない。1万6000人以上の罪のない民間人の命を奪ったイスラエルの攻撃は、その大多数が子どもと女性であり、決して正当化されるものではない」として、ガザ地区への攻撃を行っているイスラエルを非難しました。
さらにヨーロッパのスロベニアのムサル大統領は「ガザやウクライナでは壊滅的な人道的大惨事と生態学的災害となっている」と述べ、紛争は直接的な人的被害に加え、環境破壊にもつながっているとして懸念を示しました。
イスラエル政府の報道官 “137人がいまだに人質”
イスラエルがパレスチナのガザ地区への軍事作戦を再開する中、イスラエル政府の報道官は1日の会見でハマスが解放する人質のリストを提出せず1日朝、ロケット弾を発射したと非難し、戦闘休止が終わったのはハマスの責任だと主張しました。
会見で報道官は「ハマスは義務づけられていた女性の人質全員と子どもの解放をせず、ロケット弾の攻撃を再開し、戦闘の休止を終えることを決めた」と述べました。
また、外国籍を含む137人がいまだにハマス側の人質になっていると明らかにしました。
内訳は、子どもを含む男性が117人、女性が20人だとしています。
この中には75歳以上の人も10人いるとしています。
一方、戦闘休止期間の前も含めこれまでに外国籍を含む110人が解放されたとしています。