これに対し原発に反対する市民グループは、設備が経年劣化しているうえ、巨大地震への耐震性が不十分で重大事故が発生する危険があると主張して運転しないよう求める仮処分を大阪地方裁判所に申し立てていました。
また地震に対する安全性についても「関西電力は、耐震補強工事を実施したうえで耐震性を評価しており、問題があるとはいえない」として市民グループの申し立てを退けました。 裁判所が運転開始から40年を超えて稼働している原発の安全性について審理したのは初めてで、判断が注目されていました。
市民グループの代理人の河合弘之弁護士は「結論ありきの決定だと思います。関西電力の言っていることを150%くらい取り入れて、老朽原発を追認している。不当な決定に屈することなく、次の闘いを展開していきたい」などと話していました。
申し立てを行った1人で、美浜原発からおよそ15キロの福井県若狭町に住む石地優さんは「老朽原発を稼働していることで、日々大きな事故が近づいているのではないかと感じている」などと話していました。
原発の老朽化に対応するため、電力会社には運転開始から30年を超える前に重要な設備が安全に使えるか評価し管理方針を作って、10年ごとに更新することが義務づけられています。 ただ、原子炉の大部分や土台のコンクリートといった重要な設備は構造上交換することが難しく、長期間放射線をあびることでもろくなるリスクなども指摘されています。 40年を超えて運転しようとする場合は、原子炉内部の広い範囲で、超音波による検査を行ったり、コンクリートの一部を実際に切り出して強度や放射線を遮る性能を調べたりする「特別点検」を行った上で、原子力規制委員会に申請して審査を受ける必要があります。
また、運転開始からの期間が40年に迫っている高浜原発3号機,4号機と、鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機,2号機も、原子力規制委員会に20年の延長を申請しています。
これについて原子力規制委員会は、運転期間の上限は技術的な観点でなく利用政策として判断すべきだとして、意見を述べないという立場をとっています。 その上で、原発の運転開始後30年から10年を超えない期間ごとに安全性を確認し、認可を得るよう義務づける新たな制度を近くとりまとめることにしています。
関西電力はボーリング調査などを実施した結果から、9本の断層は活断層と定義される12万から13万年前以降の活動はなく近くの活断層が動いても影響はないと主張し、原子力規制委員会も現地調査を行ったうえで関西電力の説明を妥当と判断しました。
しかし、原子力規制委員会から震源を浅く設定することや複数の断層が連動することを想定するよう求められ、関西電力は震源の深さを3キロに変更し揺れの想定を最大993ガルに引き上げました。 そして、設備の耐震設計を修正したり追加の補強工事を行ったりして、2016年に規制委員会から地震対策を含めた安全対策が新規制基準に適合していると認められました。 今回の仮処分の申し立てで、住民側は破砕帯が動く可能性を改めて主張したほか、原発からおよそ1キロの距離にある「白木ー丹生断層」について、極めて近い距離にあるにも関わらず、耐震設計で必要とされる「特別な考慮」がされていないなどと主張しています。 原発の耐震性をめぐる裁判では、2020年、大阪地方裁判所が関西電力大飯原発の「基準地震動」に関する原子力規制委員会の審査の過程に看過しがたい誤りがあるなどとして、原発の設置許可を取り消す判決を言い渡しました。
美浜原子力発電所の場合は、2021年6月の再稼働に先立って、1月に国が、原発の30キロ圏内のおよそ28万人を対象とした避難計画を了承しました。
また、そのほかの30キロ圏内に住む福井県や滋賀県、それに岐阜県のおよそ28万人はまずは屋内退避を行った上で事故の進展によって広域避難する計画です。 今回の仮処分の申し立てで、住民側は放射性物質の影響がおよぶ距離に避難先が設定されていることや、避難ルートが津波や土砂災害の危険性のある場所を通ることなどをあげ、現行の避難計画は実効性があるものとは言えないと主張しました。
東海第二原発の場合は、避難計画の策定が必要な14の市町村のうち、9つの自治体は策定していませんでした。 また、宮城県にある東北電力の女川原発や佐賀県にある九州電力の玄海原発などでも避難計画の実効性を争点とした裁判が行われています。
ただ、美浜原発3号機が止まった場合でも、電力を融通し合える中部と西日本のエリアでは、関西電力のほかの4基をはじめ、九州電力の3基、四国電力の1基の原発が動いていて、この冬の電力供給の余力を示す「予備率」は、安定供給のために最低限必要とされる3%以上を確保できるとしています。 一方、美浜原発3号機が停止した場合、関西電力では、火力発電所の燃料費として1か月あたりおよそ100億円のコストの増加が見込まれるということです。
市民グループ ”不当決定ゆるさず 即時抗告へ”
市民グループが会見「強く抗議 不安は広く市民に広がっている」
関西電力 ”ご理解いただいた”
老朽原発の安全性の確認は
運転延長 新たな政府方針
美浜原発 耐震性・安全対策は
避難計画の策定は
美浜原発3号機 運転停止したら…
原発の運転は福島第一原発事故のあと原則40年に制限されていますが、46年前の1976年に運転を開始した関西電力の美浜原発3号機は国の原子力規制委員会の審査で最長60年の運転延長が可能となる初めてのケースとして2021年6月、再稼働しています。
大阪地方裁判所の井上直哉裁判長は20日、決定を出し、この中で40年を超えた原発の安全評価について「有識者の議論や原子力規制委員会の技術評価を踏まえると、関西電力が経年劣化の状況を評価した手法は不合理とはいえず、規制委員会の審査も問題があるとはいえない。運転開始後40年以上経過していることをもって、新規制基準が定める老朽化対策以上に原発の安全性を厳格、慎重に判断しなければならないとはいえない」とする判断を示しました。
大阪地方裁判所が申し立てを退ける決定を出したことについて市民グループは、裁判所の前で「不当決定ゆるさず即時抗告へ!」などと書かれた紙を掲げました。
大阪地方裁判所が申し立てを退ける決定を出したあと、市民グループは会見を行い、代理人の河合弘之弁護士は「決定はあまりに内容がなく、福島原発事故の悲劇は裁判官の頭の中で忘却されているかのようだ。司法の役割を放棄したに等しく、強く抗議する。老朽原発の運転に対する不安は広く市民の中に広がっており、私たちはこのたたかいをこれからも粘り強く続けていく」などと話していました。
仮処分の申し立てが退けられたことについて、関西電力は「当社の主張を裁判所にご理解いただいた結果だと考えている。引き続き安全性・信頼性の向上に努め、今後も立地地域をはじめ社会の皆さまのご理解をたまわりながら、美浜原発3号機の運転保全に万全を期していく」とコメントしています。
原子力発電所の運転期間は、東京電力福島第一原発の事故のあと原則40年に制限され、1回に限り最長60年までの延長が可能とされました。
国内では、美浜原発3号機のほか、福井県にある関西電力の高浜原発1号機、2号機、それに茨城県にある日本原子力発電の東海第二原発の合わせて4基が審査に合格し、最長60年までの運転が認められていて、このうち、美浜原発3号機が、現在唯一運転しています。
政府が原子力発電の最大限の活用を掲げるなか、経済産業省は法律で最長60年と定められている原発の運転期間について、上限は維持しつつ原子力規制委員会の審査などで運転を停止した期間を例外として除外することで、実質的に60年を超えて運転できるようにする方針をまとめています。
また、経済産業省の方針では裁判所の仮処分命令で停止した期間も60年の運転期間から除外することになっています。
関西電力の美浜原子力発電所3号機をめぐっては、原子炉建屋の真下や敷地内を通る9本の「破砕帯」と呼ばれる断層の活動性や、敷地のおよそ1キロ東側にある活断層の「白木ー丹生断層」が動いた場合引きづられて動く可能性が指摘されていました。
一方で、美浜原発で想定される地震の揺れ「基準地震動」について、関西電力は当初、北西にある長さ18キロの活断層「C断層」などを震源として、断層の深さを4キロとして最大750ガルの揺れを想定していました。
原発からおおむね30キロ圏内の自治体には原発事故に備えて避難計画を策定することが義務づけられて、国が計画が適切かどうか判断し了承することになっています。
計画では、原発で重大な事故が起きた場合、5キロ圏内に住む福井県美浜町と敦賀市のおよそ850人は、福井県内の別の自治体や奈良県に避難することにしています。
原発の避難計画をめぐっては、去年3月に水戸地方裁判所が日本原子力発電の東海第二原発について、避難計画の不備を理由に再稼働を認めない判決を言い渡しました。
政府は、電力の需給ひっ迫に備えてこの冬に最大で9基の原発を稼働させることを目指していて、この中には、美浜原発3号機も含まれています。
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