松川まつかわさんはあの日ひ、自宅じたくの2階かいにいました。気きが付つくと津波つなみが自分じぶんの目めの前まえに迫せまっていたといいます。

なんとか夫おっとと2人にんで屋根やねの上うえに登のぼって避難ひなんし、一いち晩ばんを明あかしました。

松川まつかわとも子ともこさん

「窓まどから外そとを見みると目めの前まえに真っ黒まっくろい波なみが押し寄おしよせていました。ただ、『ああ』と声こえを出だすだけで、何なにを考かんがえてたかも分わからない状況じょうきょうでした。なんとか避難ひなんした屋根やねの上うえで、近ちかくの家いえなどが流ながされるのをただ見みているしかありませんでした」

松川まつかわさんにけがはありませんでしたが、自宅じたくの壁かべなどが大おおきく壊こわれたほか、家財かざいも流ながされました。

避難ひなん所しょとなった小学校しょうがっこうでの生活せいかつは5か月かげつにもおよび、ようやく仮設かせつ住宅じゅうたくに移うつったのは8月つきになってからでした。

そうした中なか、被災ひさいした翌年よくねん、松川まつかわさんは仮設かせつ住宅じゅうたくを訪おとずれた神戸こうべのNPOから、年賀状ねんがじょうを受け取うけとります。

そこには、励はげましのメッセージが書かかれていました。

松川まつかわとも子ともこさん

「元気げんきを出だして、明あけない夜よるはないよって、必かならず明あかるく明あけるからって。そういう励はげましのことばが多おおかったです。言葉ことばがドスン、ドスンって響ひびきました」

阪神はんしん・淡路あわじ大震災だいしんさいで被災ひさいし、両親りょうしんを亡なくしました。

東日本ひがしにっぽん大震災だいしんさいが起おこったとき、ひと事ひとごとだと思おもえなかったといいます。

体調たいちょうを崩くずしていましたが、なにかできないかと考かんがえていたとき、この年賀状ねんがじょうの存在そんざいを知しり、入院にゅういん中ちゅうのベッドの上うえで書かきました。

野原のはら久美子くみこさん

「やっぱり気持きもちが分わかるんですよ。自分じぶんが経験けいけんしてきてるから、悲かなしかったり、大変たいへんだなっていうのが分わかるんです。私わたしが今いまこうやって生いきているのも多おおくの方ほうに助たすけてもらったおかげ。だから、ちょっとでも恩返おんがえしがしたいと思おもって書かいたんです。助たすけてもらった人ひとに恩おんを返かえすんじゃなくて、違ちがう人ひとに恩おんを返かえすことによって、また、その人ひとが違ちがう人ひとを助たすけるっていうことかな」

その後そのご、野原のはらさんが石巻いしのまき市しの仮設かせつ住宅じゅうたくを訪おとずれるなどして、交流こうりゅうが深ふかまっていきました。

松川まつかわさんは何気なにげないやりとりをする時間じかんが大切たいせつだったといいます。

元気げんきづけられた松川まつかわさんは自宅じたくを再建さいけんするなど徐々じょじょに生活せいかつを取り戻とりもどしていきました。

松川まつかわとも子ともこさん

「いろいろおしゃべりしたり、絵えをかいたり、長ながくおつきあいするうちに、次第しだいに姉妹しまいみたいな感覚かんかくで何なにでも話はなせるようになりました。自分じぶんを見みていてくれる人ひとがいるということが、頑張がんばるための励はげみになったと思おもいます」

自分じぶんの経験けいけんから、体からだを大切たいせつにして元気げんきに過すごしてくださいとメッセージを送おくります。

松川まつかわとも子ともこさん

「被災ひさいした直後ちょくごは元気げんきにふるまっていられるのですが、時間じかんがたつにつれ、体からだの不調ふちょうが出でてきて、元気げんきがなくなってしまう人ひとが多おおいんです。なので、元気げんきを出だしてください、体からだが一番いちばんですよっていう思おもいを伝つたえたいです」

村上むらかみさんは年賀状ねんがじょうを受け取うけとると、ぱっと笑顔えがおになりました。

差出人さしだしにんの松川まつかわさんが同おなじように被災ひさいした経験けいけんを持もっていると聞きき、すぐに松川まつかわさんに返事へんじを書かきます。

村上むらかみ信子のぶこさん

「災害さいがいに遭あって、同おなじ苦くるしみを負おって、きつかったろうなと分わかってくれたことで、とても励はげまされました。とてもうれしくて、感謝かんしゃの心こころを伝つたえたいと思おもい、返事へんじを書かかずにはいられませんでした」

誰だれかを励はげまして返事へんじをもらうことで、自分じぶんも再ふたたび元気げんきづけられているといいます。

松川まつかわとも子ともこさん

「被災ひさいした人ひとが元気げんきであればいいなと思おもって書かいているので、返事へんじを受け取うけとり、私わたしの気持きもちが届とどいたと感かんじてうれしい気持きもちになります。自分じぶんが仮設かせつ住宅じゅうたくで年賀状ねんがじょうをもらった時ときのように温あたたかい気持きもちになります」