【全文ぜんぶん】藤井ふじい聡さとし太ふとし棋聖きせい「将棋しょうぎに頂上ちょうじょうはない」

「いい将棋しょうぎを指さす」と臨のぞんだことがタイトル獲得かくとくに

7月つき16日にち、「棋聖きせい戦せん」五ご番ばん勝負しょうぶで渡辺わたなべ明あきら三さん冠かんを3勝しょう1敗はいで破やぶり、史上しじょう最年少さいねんしょうでのタイトル獲得かくとくを果はたした藤井ふじい聡さとし太ふとし棋聖きせい。

7月つき19日にちに18歳さいになり、その翌日よくじつにインタビューに応おうじました。

タイトル戦せんで見みせた和服わふく姿すがたから一転いってん、普段ふだん着ぎで現あらわれた藤井ふじい棋聖きせいに、まずは、熱戦ねっせんを振り返ふりかえっての思おもいから話はなしを聞ききました。

Ｑきゅ-．渡辺わたなべ三さん冠かんとの五ご番ばん勝負しょうぶを振り返ふりかえり、改あらためて、今いまの心境しんきょうを聞きかせてください。

Ａえい．タイトル獲得かくとくという結果けっかを非常ひじょうにうれしく思おもっていますし、渡辺わたなべ先生せんせいとの五ご番ばん勝負しょうぶを体験たいけんできたことは、非常ひじょうに大おおきな経験けいけんになったと思おもいます。全ぜん4局きょくを通をとおして自分じぶんのパフォーマンスをしっかり発揮はっきできたと思おもっていますが、その中なかでも渡辺わたなべ先生せんせいから、こちらが気きづいていない好手こうしゅを指さされる場面ばめんも多おおく、非常ひじょうに勉強べんきょうになりました。

Ｑきゅ-．「3勝しょう1敗はい」でのタイトル獲得かくとく。この結果けっかはどう受け止うけとめていますか。

Ａえい．自分じぶんの実力じつりょく以上いじょうのものが出だせたと思おもいます。渡辺わたなべ先生せんせいはずっと棋界きかいのトップで戦たたかわれてきた方ほうなので、今回こんかい対戦たいせんできることを非常ひじょうに楽たのしみにしていました。結果けっかよりも、しっかり指さしていい将棋しょうぎにしたいと思おもって臨のぞんだことが、幸さいわいしたのかなと思おもいます。

Ｑきゅ-．これまでもたびたび目標もくひょうに語かたってきた「タイトル」を最年少さいねんしょうで獲得かくとくしたこと、感慨かんがい深ふかさがありますか。

Ａえい．そうですね、やはりそれは非常ひじょうにうれしいですし、「東海とうかい地方ちほうにタイトルを」ということが板谷いたや進すすむ先生せんせい（藤井ふじい棋聖きせいの大だい師匠ししょう／1988年ねん・47歳さいで他界たかい）の代だいからの悲願ひがんでしたので、それを達成たっせいできたことは、杉本すぎもと師匠ししょうにも一ひとつの恩返おんがえしができたと思おもいます。

Ｑきゅ-．初はじめてのタイトル戦せんから得えられたものはありましたか。

Ａえい．和服わふくでの対局たいきょくなど今いままでに経験けいけんのないことも多おおかったですし、渡辺わたなべ先生せんせいの指し手さしてや立ち居たちい振る舞ふるまいなども見習みならいたい部分ぶぶんが多おおいと感かんじたので、今回こんかいの経験けいけんを生いかして、今後こんご、タイトルホルダーとしてしっかりやっていきたいです。

Ｑきゅ-．小学生しょうがくせいの時ときから指導しどうを受うけてきた、師匠ししょうの杉本すぎもと昌隆まさたか八はち段だんに対にたいして、今いまどんな思おもいがありますか。

Ａえい．師匠ししょうには入門にゅうもんする前まえからずっとお世話おせわになってきたので、今回こんかいタイトルを取とれたことで一ひとつの恩返おんがえしができたかなとは思おもいます。ただ、それだけでは足たりないのかなという思おもいもあるので、これからさらに高たかみを目指めざしていくことがさらなる恩返おんがえしになると思おもっています。

新型しんがたコロナで対局たいきょく休止きゅうし 有意義ゆういぎな成長せいちょうの時間じかんに

中学ちゅうがく2年生ねんせいでのプロ入いりから、4年ねん足たらずでタイトルを獲得かくとくした藤井ふじい棋聖きせい。この間このかんの成長せいちょうについて「中盤ちゅうばん力りょくの伸のび」をあげています。

新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで対局たいきょくができなかった期間きかんが、有意義ゆういぎな時間じかんになったと語かたりました。

Ｑきゅ-．最近さいきんの取材しゅざいでは、自身じしんの成長せいちょう点てんとして「中盤ちゅうばんの力ちから」をあげています。具体ぐたい的てきにはどう成長せいちょうできたと感かんじていますか。

Ａえい．中盤ちゅうばんは、「読よみ」と「形勢けいせい判断はんだん」の両方りょうほうが非常ひじょうに深ふかく問とわれるところだと思おもっていますが、その中なかで、読よみに頼たよりすぎてバランスを欠かいた判断はんだんをしてしまったり、あるいはその読よみが足たりなくて見落みおとしが出でてしまったりということがこれまでの対局たいきょくでもあったので、そこを改善かいぜんしたいと思おもっていました。まずは自分じぶんの将棋しょうぎにそうした課題かだいがあることを認識にんしきすることが大事だいじだと思おもいますし、その上うえで将棋しょうぎソフトなども活用かつようしながら改善かいぜんしていけたのかなと思おもっています。

Ｑきゅ-．新型しんがたコロナウイルスの影響えいきょうで、ことし4月つきからおよそ50日にちにわたって対局たいきょくが中断ちゅうだんしました。この期間きかんはどのように将棋しょうぎと向き合むきあいましたか。

Ａえい．今いままでの方法ほうほうを特別とくべつ大おおきく変かえたことはなかったのですが、しばらく対局たいきょくが空あいたことで、よりじっくりと1つの課題かだいに向き合むきあうことができました。やはり対局たいきょくがあると、そのことを意識いしきせざるを得えない面めんがありますので、まとまった時間じかんでじっくりとできたことがよかったと思おもいます。

Ｑきゅ-．自分じぶんの将棋しょうぎを見みつめ、どんなことに気きがつきましたか。

Ａえい．これまでの自分じぶんの対局たいきょく、特とくに負まけてしまった対局たいきょくを振り返ふりかえると、中盤ちゅうばんでミスが出でて途中とちゅうから差さをつけられてしまう展開てんかいや、中盤ちゅうばんから終盤しゅうばんの入り口いりくちで相手あいてに後おくれを取とってしまう展開てんかいが多おおいと思おもったので、そこを改善かいぜんしたいと思おもいました。

Ｑきゅ-．それをどのように克服こくふくしたのでしょうか。

Ａえい．自分じぶんの傾向けいこうとして、判断はんだんに迷まよったときに1つの読よみ筋すじを深ふかく掘ほりすぎてしまうところがあると思おもったので、適当てきとうなところで読よみを切り上きりあげて形勢けいせい判断はんだんに移うつることや、局面きょくめんによっては、なるべく多おおくの手てを拾ひろって読よむことを意識いしきしました。

Ｑきゅ-．今回こんかいの五ご番ばん勝負しょうぶの中なかでは、第だい2局きょくの「3一いち銀ぎん」や、第だい4局きょくの「8六ろく桂かつら」など、周囲しゅういが驚おどろく手ても登場とうじょうしました。こうした手てはどのようにして見みつけるのでしょうか。

Ａえい．中盤ちゅうばんでは、なるべく多おおくの手てを拾ひろって考かんがえるということ、あるいは終盤しゅうばんでは、形かたちに頼たよりすぎずに読よみを入いれるということを意識いしきしているので、そういった自分じぶんの特徴とくちょうから出でたところがあるのかなと思おもいます。

Ｑきゅ-．意表いひょうを突つこうという狙ねらいはない。

Ａえい．はい、そういったことは特とくにないですね。どの局面きょくめんであっても自分じぶんなりにしっかりと考かんがえて、いいと思おもった手てを指さしたいと考かんがえています。

Ｑきゅ-．トップ棋士きしが相手あいての対局たいきょくも増ふえましたが、経験けいけんの差さを痛感つうかんするようなこともありますか。

Ａえい．トップの方ほうと対戦たいせんすると、自分じぶんには気きがつかない好手こうしゅを指さされる場面ばめんが多おおいので、やはりそこは自分じぶんの課題かだいと言いえると思おもいます。ただ、そういうところから学まなんで改善かいぜんしていくことは可能かのうだと思おもいます。対局たいきょくを通をとおして得えられる相手あいての感覚かんかくを自分じぶんなりに解釈かいしゃくして取り入とりいれていけたらなと思おもっています。

どんな「異名いみょう」で呼よばれたい？

Ｑきゅ-．これまでの名めい棋士きしは、羽生はぶ善治よしはる九きゅう段だんの独創どくそうの一いち手て「羽生はぶマジック」や、谷川たにがわ浩司こうじ九きゅう段だんの並外なみはずれた終盤しゅうばん力りょく「光速こうそくの寄よせ」など、棋風きふうを表あらわす異名いみょうと共とともに語かたられています。今後こんご、自分じぶんの将棋しょうぎにそうした呼び名よびなが付つくとしたら、どんな名前なまえがいいと思おもいますか。

Ａえい．いやあ、自分じぶんから特とくに「これ」という希望きぼうはないので…。ぜひ、何なにかいい名前なまえをつけていただけたらうれしいですね。（笑えみ）

Ｑきゅ-．自身じしんの将棋しょうぎについては、どんな棋風きふうだと考かんがえていますか。

Ａえい．うーう-ん、棋風きふうというのは、自分じぶんで意識いしきしてしまうとそれにとらわれてしまうというか、縛しばられてしまうところがあると思おもうので、自分じぶんとしては棋風きふうはあまり意識いしきしていないです。ただ、見みていただく方ほうにとっては、特徴とくちょうのあるおもしろい将棋しょうぎが指させればと思おもっています。

“最強さいきょうの棋士きし”を目指めざして

Ｑきゅ-．トップ棋士きしに話はなしを聞きくと、タイトルを取とったあと、それが重圧じゅうあつになったと語かたる人ひともいます。タイトル獲得かくとくが自分じぶんの将棋しょうぎに影響えいきょうを与あたえることはあると思おもいますか。

Ａえい．“タイトルホルダーらしい将棋しょうぎ”というものはないので、やはり自分じぶんの将棋しょうぎを指さしていくしかないと思おもいます。これから取り組とりくんでいくことは、タイトルを取とる前まえも後ごも変かわらないのかなと思おもいます。

Ｑきゅ-．これまで目標もくひょうとしてきた「タイトル」を獲得かくとくした今いま、次つぎの目標もくひょうとしてはどんなことを目指めざしたいですか。

Ａえい．今回こんかいの棋聖きせい戦せんや王位おうい戦せんは自分じぶんにとっても非常ひじょうにいい経験けいけんだと感かんじているので、その経験けいけんを生いかして成長せいちょうしたいと思おもっています。対局たいきょくを通をとおして自分じぶんの課題かだいが見みえた場面ばめんもあるので、そこを改善かいぜんしてより強つよくなれるように取り組とりくみたいと思おもっています。

Ｑきゅ-．藤井ふじい棋聖きせいがプロ入いり当時とうじに書かいた色紙いろがみには、「最強さいきょうの棋士きし」という目標もくひょうが書かかれています。今いま、この目標もくひょうにどこまで近ちかづけたと思おもいますか？

Ａえい．将棋しょうぎは、どこまで強つよくなったとしても終おわりがないと思おもっていて、そういう意味いみでは、本当ほんとうの意味いみでの頂上ちょうじょうというものもないのかなと思おもいます。四よん段だんになった当初とうしょの色紙いろがみということで懐なつかしいんですが、なかなかいい目標もくひょうだなと思おもったので、引き続ひきつづきこの目標もくひょうを胸むねに頑張がんばっていきたいと思おもいます。

Ｑきゅ-．今後こんご長期ちょうき的てきな視点してんで、藤井ふじい棋聖きせいが目指めざす棋士きし像ぞうはありますか。

Ａえい．将棋しょうぎ界かいには、谷川たにがわ先生せんせい、羽生はぶ先生せんせい、渡辺わたなべ先生せんせいといった本当ほんとうにすばらしい先輩せんぱい方かたがおられますので、そういった方ほうの姿勢しせいを勉強べんきょうしながら、より多おおくの方ほうに将棋しょうぎの魅力みりょくを伝つたえられるようになりたいなと思おもっています。

盤上ばんじょうの「探究たんきゅう」これからも

インタビューの最後さいご、棋士きしとしての今後こんごの心構こころがまえについて、色紙いろがみに一筆いっぴつを求もとめました。

藤井ふじい棋聖きせいが記しるしたのは、タイトル獲得かくとく翌日よくじつの記者きしゃ会見かいけんでも見みせた『探究たんきゅう』ということばでした。

Ｑきゅ-．「探究たんきゅう」ということばには、どのような思おもいを込こめていますか。

Ａえい．タイトルを取とったときに「探究たんきゅう」と書かいたんですけど、やはりその思おもいは今いまでも変かわらないというか、将棋しょうぎというものはすごく深ふかいゲームなので、探究たんきゅう心しんを持もって取り組とりくみたいという思おもいは変かわりません。

Ｑきゅ-．プロ入いり当時とうじに書かいた「最強さいきょうの棋士きし」の目標もくひょうと、今いま記しるした「探究たんきゅう」。思おもいに変化へんかはあるのでしょうか。

Ａえい．棋士きしになってから４よん年ねん弱じゃくがたちますが、多おおくの対局たいきょくを通をとおしていろいろな新あたらしい発見はっけんがありましたし、将棋しょうぎの奥深おくふかさを感かんじる機会きかいが多おおかったと思おもうので、これからも盤上ばんじょうに対にたいして探究たんきゅう心しんを持もって、引き続ひきつづき取り組とりくんでいきたいと思おもっています。

Ｑきゅ-．その探究たんきゅう心しんこそが、目標もくひょうである「最強さいきょうの棋士きし」につながっていくのかもしれませんね。

Ａえい．そうですね。より強つよくなって新あたらしい景色けしきを見みたいという気持きもちは、当時とうじも今いまも変かわらないと思おもっています。

Ｑきゅ-．現在げんざいは「王位おうい戦せん」七なな番ばん勝負しょうぶも進行しんこう中ちゅうで、ここまで２に連勝れんしょうです。今後こんごへの意気込いきごみを聞きかせてください。

Ａえい．当然とうぜん、タイトルを獲得かくとくしたいという思おもいはあるんですが、それは「結果けっか」であって、実力じつりょくをより高たかめることによってでしか実現じつげんできないと思おもっています。第だい２に局きょくまででも、木村きむら（一基いっき）王位おういの指し手さしてには非常ひじょうに勉強べんきょうになるところが多おおかったので、そうしたところをしっかりと振り返ふりかえって、第だい３さん局きょく以降いこうに生いかして頑張がんばりたいと思おもっています。