JLPT N1 – Reading Exercise 102

#329

世界の諸民族のあいさつを調べてみると、(中略)握手に代表されるような相互的なあいさつはきわめてめずらしいことがよくわかる。それはたいていの社会で、身分や地位や役割がはっきり定まっているからにほかならない。また、毎日の軽いあいさつがおこなわれる社会が少ないというのは、それらの社会では人々はもっぱら家族や親族や部族など所属する社会集団の成員として生きていて、個人としての役割があまりみとめられていないことと関係している。そうした集団内では、物のやりとりなどの際にも、ふつうあいさつはいらないのである。たとえばインドでは家族や友入のあいだではふつう感謝の表現はおこなわれない。かえってタブー視されるのだが、家庭の食卓で塩を手渡してもらっても「ありがとう」という欧米流は、家族が一体になって暮らす社会では、むしろ「他人行儀」なことなのだろう。

日本人もいつのまにか家庭のなかで「ありがとう」をくりかえすようになった。しかも、それは文句なしによい習慣とかんがえられているようだ。それは家族が身を寄せあうようにして生きていた暮らしがすっかり過去のものになり、人間関係が様変わりしたことを如実に物語っている。

(野村雅一「身ぶりとしぐさの入類学」中央公論新社による)

タブー視する:人前で話したり、したりしてはいけないことだと考える

他人行儀:(家族や親しい人に対して)他人に対するように冷たく振る舞うようす

様変わりする:ようすがすっかり変わる

如実に:明らかに

Try It Out!
1
相互的なあいさつはきわめてめずらしいとあるが、なぜか。
1. 多くの社会では、人々の身分 や役割がきまっているから
2. 身分や地位に関係なく、握手が代表的なあいさつだから
3. 毎日の軽いあいさつがおこなわれるのが、あたりまえだから
4. 世界の諸民族では、身分や役割がまだはっきり定まっていないから
2
インドについての説明として正しいものはどれか。
1. 個人としての役割がみとめられているので、ふつう家族に「ありがとう」と言わない。
2. 家庭の食卓で塩を手渡してもらって感謝の表現を使わないことは、タブー視される。
3. 家族や親族などの社会集団の成員同士の間では、感謝の表現がよく使われる。
4. 家族が一体となって暮らす社会なので、あまり「ありがとう」と言わない。
3
日本についての説明として正しいものはどれか。
1. 「ありがとう」がよい習慣と考えられるのは、人間関係がかわって個人としての役割があまりみとめられていないからである。
2. かつては家庭あ中で感謝の表現はあまり使われなかったが、最近はよい習慣と考えられて頻繁に使われる。
3. 昔から家庭の中では感謝の言葉がよく使われていたが、最近は文句なしのよい習慣として定着している。
4. 家庭の中で感謝の言葉がよく使われるのは、家族が身を寄せ合うようにして暮らしているからである。