100年ほど前にあたる1900年のとき、地球上の人口はおよそ16億人であった。それが現在、55億人になっている。
私たちが金魚鉢の金魚だと思えばよい。3匹の金魚が突然3.5倍の11匹に増えれば水が濁るように、3.5倍も人口が増えれば環境に何らかの悪い影響が出るのは当然であろう。「1」この人口のまま止まればまだよいのだが、(中略)たいへんな勢いでまだ増え続けている。1991年での世界入口の増加率は1.7%と推定されているが、それで計算すると、人口は40年間で倍増することになる。この増大傾向の修正のためには、地球上の私たち全員の「2」ライフスタイルの見直しが急務である。それにはどのような課題があるのだろうか。
(中略)
一つは私たち全員の価値観の問題である。伝統的価値観として「子沢山」が望ましいと見なす民族は世界でも少なくない。私たちの民族もそうである。子沢山を祝福する気持ちが私たちの国では現在でもあり、にぎやかな家庭の幸福像を描きがちである。1989年に、1人の女性が—-生の間に平均して何人の子供を産むかという合計特殊出生率が1.57になったときに、1.57ショックといって大騒ぎになった。「3」その騒ぎも、この価値観と関連している。そのときに、子供が1人ではかわいそうだ、日本の将来の労働力の減少をどうするのか、というような指摘があった。自民族の人口の減少に対する警戒心はたいへん強いのである。もちろん、ここでは国や民族レベルでの議論をしているのであって、個別の家族の子沢山の是非を論じているのではない。
二つ目の問題は社会システムの問題である。とくに貧困と差別について考える必要がある。国の経済力不足などで国の社会保障が十分でないと、老後などを心配して「4」国民はある人数の子供をつくろうとする。また、貧しい家族は子供に家族の労働力を期待して子沢山になる傾向が見られる。
さまざまな差別が人口に関わるライフスタイルに影響を与えるが、とくに男女差別は直接的な影響を与える。環境と開発に関する世界委員会がまとめた『地球の未来を守るために』(Our Common Future)は女性の地位の向上が子供数の減少につながると指摘したが、これは大切な指摘であろう。女性の地位が向上すれば、家族内での子供を産むかどうかということについて女性の発言権が増大し、「5」そのような社会においては子供の数が減少する。また、女性の雇用機会が十分に与えられている社会では、婚姻年齢が上昇し、そのことが子供数の減少につながっているという。
(鳥越皓之編「環境とライフスタイル」有斐閣アルマによる)
「1」この人口のまま止まればまだよいとあるが、どういう意味か。
1.
人口はまだ勢いよく増えているから環境を守ることができる。
2.
人口の増加率が現在と同じ程度であれば環境への影響はない。
3.
今以上に人ロが増えなければ環境の悪化もそれほどではない。
4.
人口が100年前と同じ16億人であれば環境への影響はない。
「2」ライフスタイルの見直しが急務であるとあるが、どうしてライフスタイノレを急いで変える必要があるのか。
1.
ライフスタイルを変えれば、入口の増加率を低くしていくことができるから。
2.
ライフスタイルを変えれば、人口が増えても環境に悪い影響を与えないから。
3.
ライフスタイルを変えれば、食料生産が間に合って生活が豊かになるから。
4.
ライフスタイルを変えれば、日本でも子供の数を増やすことができるから。
「3」その騒ぎも、この価値観と関連しているとあるが、どういうことか。
1.
日本で1人の女性が一生の問に産む子供の数が減ったことは、子供は要らないという現在の家族観に合致するということ
2.
日本で1人の女性が一生の間に産む子供の数が減ったことは、子供の数が多いほうがよいという伝統的な家族観に反するということ
3.
日本で1人の女性が一生の間に産む子供の数が増えたことは、子供は要らないという現在の家族観に反するということ
4.
日本で1人の女性が一生の間に産む子供の数が増えたことは、子供の数が多いほうがよいという伝統的な家族観に合致するということ
「4」国民はある人数の子供をつくろうとするとあるが、どうしてそうするのか。
1.
国全体で老人より若い世代が多いほうが、労働力が豊かでいいと考えるから。
2.
平均寿命が短いため、子供もたくさんつくっておいたほうがいいと思うから。
3.
親が死んだあとに、子供が一人残ってしまうのはかわいそうだと思うから。
4.
何人か子供がいれば、年を取ってから世話をしてもらえると考えるから。
1.
夫が子供の数を決められる社会
2.
男女差別がまだ強く残っている社会
3.
妻の意見が尊重される社会
4.
老後の保障が十分でない社会
1.
日本の女性が一生の間に産む子供の数が1.57人にまで減ったのは、国や民族の存続に関わる大きな問題だ。
2.
人口の増大傾向を止めるには、子沢山を望ましいとする価値観を変え、貧困や男女差別をなくす必要がある。
3.
家庭内の女性の地位が向上し、女性の雇用機会が十分あれば、男女差別もなくなるし環境問題も解決できる。
4.
地球の環境を守るためには、人ロ増加率をおさえて100年前の16億人程度にまで減らさなければならない。