JLPT N1 – Reading Exercise 123

#350

わたしは、暮らしや家族の中にある科学をテーマにして、雑誌に記事を書くことがあります。料理の科学、生活の中にある器具のしくみなどを取りあげて、科学を専門としない人たちにも関心を持ってもらえるよう記事づくりを工夫します。そんなとき(1)編集者の注文はこうです。

「一般の主婦の方々にとっつきやすくするために、内容は科学のことであっても「科学」ということばは使わないでください。「科学」と聞いただけて引いてしまう(そのベージを読むことをやめてしまう)人がけっこういますから」これは、わたしにとってはむずかしい注文であることが多いのですが、編集者の言うことは、一般の人に対する情報発信の心構えとして、現時点では適切と言うほかありません。「科学」ということばを使うか否かが大きな問題なのではありません。読者である「一般の人たち」も、発信する側である「編集者」も、科学に対して距離を感じているということであり、それは、現在の「科学技術」と(2)「それを使う人たち」の関係を象徴しています。作る側、発信する側は、当然その内容を熟知し将来の方向性を提案しますが、それを使う側の人は与えられたものを十分に理解せず「買う」という行動だけで受け入れていると言いかえられます。

(中略)

技術、そして科学技術は、その時代に生きている人々によって求められ発展してきたものであるはずですから、わたしたちはそれらの科学技術を使う主人公です。しかし、はたしてわたしたちの科学技術に対する理解は、科学の発展とともに進んでいるでしょうか?

たとえば、あなたの周りで、「科学はむずかしいから」と決めつけて、苦手だと思っている人はいませんか。

あなた自身はどうでしょう。科学的理論と実用化のレベルが複雑で高度なために、一握りの人たちにしかわからないむずかしいものになってしまっているのは事実です。

専門家や技術者が作り出したものを、マニュアルの通りに使うことさえできれば、(3)そのしくみなどを知る必要はない、という人もいるかもしれません。しかし、そのような使い方では、供給する側から示された技術の「良い部分」しか見えません。科学技術を提供する側からは「良い部分」しか聞かれないのだとしたら……。それらを使う主人公であるわたしたちは、与えられる情報だけではなく、科学的背景やしくみを少しでも知った上で、生活の中に取り入れるか、取り入れないのかを判断することが必要です。

良いこと(ベネフィット)も悪いこと(リスク)も考えながら科学技術とつきあっていく、その第一歩は、「知ること」です。

(佐倉純/古田ゆかり/リビング・サイエンス・ラボ「おはようからおやすみまでの科学」による)

とっつきやすくする:ここでは、受け入れられやすくする

Try It Out!
1
(1)編集者の注文とあるが、編集者はなぜ注文したのか。
1. 読者が科学に苦手意識を持っていると考えているから
2. 読者が科学の専門的なことばを理解できないと考えているから
3. 読者が考える科学と暮らしの中の科学は違うと考えているから
4. 読者が持っている科学のイメージがはっきりしないと考えているから
2
(2)「それを使う人たち」について、筆者はどのように述べでいるか。
1. 科学技術は使っているうちに理解できると思っている。
2. 科学技術を使ってはいるが、理解しているとは言えない。
3. 科学技術を理解してはいるが、使いこなせていない。
4. 科学技術を理解しているつもりで使っている。
3
(3)そのしくみなどを知る必要はないと考えることの問題点は何か。
1. マニュアルがないと製品が使えないこと
2. マニュアル以外の使い方ができなくなること
3. 供給する側の伝えたい情報が理解できないこと
4. 供給する側に都合のいい情報しか得られないこと
4
筆者が言いたいことは何か。
1. 科学技術の知識を豊富に身につけることが大切だ。
2. 科学技術をマニュアルに頼らず使いこなすことが大切だ。
3. 科学技術を取り入れ、そのしくみを知ろうとすることが大切だ。
4. 科学技術を知り、生活に取り入れるかどうかを判断することが大切だ。