それは▽価格の変動がほとんどみられない品目が多いことと、▽生活に身近な品目の上昇率が高くなっていることです。
それによりますと最も多いのはマイナス0.5%からプラス0.4%までの価格の変動がほとんどみられない「0%付近」で112品目、率にして21.5%と全体のおよそ5分の1に上ります。 その中にはタクシー代や運送料、保育所保育料などがあります。「0%付近」の割合は1991年の平均の16%と比べても増えています。 また、価格の変動率をみると、「9%付近」が2.5%、それより上が10.5%とこれをあわせると全体の13%を占めます。これも31年前と比べても多くなっています。 上昇率が高い品目にはロシアによるウクライナ侵攻などによる原材料価格の高騰や急速な円安の影響を受けた食料やエネルギーなどが多く含まれ、家計の負担感は全体の3%という数字以上に大きくなっています。 シンクタンクによりますと、1991年当時は上昇率が2%や3%付近のものを中心に全体的に上昇する傾向がみられましたが、今回は食料やエネルギーなど、一部の品目が全体の上昇率を押し上げる形となっていて変動率に偏りがあることも特徴だとしています。
厚生労働省の毎月勤労統計調査によりますと1991年の平均で、現金給与総額は前の年と比べてプラス4.4%、物価の変動を加味した実質賃金はプラス1.1%で物価が上昇しても賃金の伸びがそれを上回っていました。 一方で、ことし8月の実質賃金は前の年の同じ月を1.7%下回り、5か月連続のマイナスとなっていて、物価の上昇に賃金が追いついていません。 生活に身近な食料やエネルギーの価格が大きく上昇しても賃金が上がっていない状況になっているため家計の負担感は大きくなっています。 専門家などからはこうした状況が続くと個人消費の落ち込みなど景気への悪影響が懸念されるという指摘が出ています。
特に肌着などに使われる綿やシルクの価格が上昇している影響で、仕入れ先のメーカーからは値上げの連絡が相次ぎ、この店ではすでにことしに入り50品目ほどの値上げを余儀なくされています。 例えば、2か月前に399円で販売していた靴下は、いまは480円となっているほか、去年は1190円だった冬用のパジャマは、ことしは1390円で販売しています。 一方で、主力商品の1つとなっているタオルは、仕入れ先のメーカーとの交渉を続けるなど、企業努力で価格を維持しているということです。ただ、急速な円安の影響が今後、仕入れ価格に反映されることが予想されるため、来年にはさらなる値上げをせざるをえないとみています。 「ポポみどりや」の店員、武藤三千世さんは「安さを求めてくるお客さんが多い店なので値上げはとても心苦しいです。30年前は、値段を上げても商品が売れていましたが、いまは商店街のにぎわいも昔と比べると薄れ、状況は全く違うと思います」と話しています。
神奈川県に住む30歳の女性は介護職として働く夫と2歳の娘の3人暮らしです。夫の月給は手取りでおよそ20万円で物価の上昇が続く中でも上がっていないといいます。 女性は家計をやりくりしていますが、食費や光熱費の支出が大幅に増えていることに悩んでいます。女性はできるだけ安いものを購入しむだなものは買わないなど家計簿を細かくつけて節約を徹底し1か月の食費を1万円ほどに抑えてきました。 しかし、物価の上昇で7月には食費は2万円近くまで増え、9月は1万5000円ほどになりました。光熱費も去年と比べて2割ほど増えているということです。このためなんとかして食費を抑えたいと考え、安い特売品を購入するために、1日に近所のスーパーやドラッグストアなど4つの店舗をまわる日もあるといいます。 ただ、今後も値上がりが続くとみられる中でこれ以上の節約は難しいと感じています。女性は「栄養バランスが崩れるのでこれ以上食費は削れません。今後も食費や光熱費が値上がりすると聞いているので心配です」と話しています。 女性がことしに入り本格的に利用を始めたのが、企業が宣伝やユーザーの口コミを集めるために提供している商品を安く購入できる「サンプリングサイト」です。月に1度ほどのペースで利用していて、これまでもドレッシングやレトルト食品を定価の半額ほどで入手しました。 このほか、飲食店の覆面調査に協力して食事代を浮かすなどしていて、生活費を抑える工夫を重ねています。女性はパートとして働きたいとも考えていますが、自宅近くに託児所のある職場が見つからず仕事を探すのは簡単ではないと感じています。 女性は「給料が上がらない中で、支出ばかりが増えているので小さな節約をコツコツやっていくしかないと思っています。商品の値段が上がるなら給料も上がるいい循環になってほしい」と話しています。
神奈川県横須賀市に住む臼井修さん(68)は、30年以上飲食店を経営するなどしてきましたが、65歳からは年金を受け取りアパートで1人で暮らしています。 2か月に1度支給される年金は11万円余りで、そこから賃料や光熱費を差し引いて、1か月の食費は1万円ほどに抑える必要があります。しかし、ことしに入ってからは多くの食品が値上がりしてそのことが難しくなってきています。 一方で今年度の公的年金の支給額は、現役世代の賃金水準が下がったことなどから、昨年度より0.4%引き下げられました。このため臼井さんの場合年金が1か月当たり200円余り、年間にしておよそ2600円減ったといいます。 物価の上昇が続くなか、月に1度、近くのフードバンクからお米や缶詰、それにレトルト食品など2週間分の食料を無料で受け取ってなんとかしのいでいるといいます。今後、さらに食品や光熱費の値上がりが続けば働くことも考えたいといいますが、高齢のうえ、持病もあるため仕事を見つけるのは簡単ではないと話します。 臼井さんは「物価が上がっているのに年金は下がっていて反比例の状況です。フードバンクからの食料はとてもありがたく、なくなってしまうと困る状態ですまわりの人に助けられながらなんとか頑張ろうと思います」と話していました。
フードロス削減のため、会員制のウェブサイトで規格外の野菜を販売する都内の卸売り会社では、会員数が4月から10月の半年間でおよそ2万5000人から、およそ4万8000人へと2倍近くに増えているほか、1日当たりの注文数も1・5倍に増えています。 取り扱っているのは、形が不ぞろいな物や小ぶりな物など、小売店の店頭には並ばない野菜です。この会社で扱う通常の野菜の卸売価格と比べても5割程度安くなっています。 大田市場の中にある作業場では、社員たちが小さな傷があるオクラや小ぶりなピーマンなどを段ボールに詰めて発送の準備をしていました。 一方、燃料費の高騰などを背景に運送費など仕入れにかかるコストが1年前と比べて5%から10%ほど高くなっているということです。
全国で700店舗余りのリサイクルショップを運営する会社では、9月から10月中旬の秋冬物の古着の売り上げが前の年の同じ時期と比べて全国平均で2割増えていて、店によっては6割増えているところもあるということです。 このうち、さいたま市内の大型店舗では、平日からお年寄りや家族連れ、それに若者など幅広い年代の利用者が衣料品を買い求めていました。この店で扱っている古着は新品と比べて平均して3割余り安く、半額以下の商品も多いということです。 買い物に訪れたお年寄りは「年金暮らしなので少しでも安いものを買いたかった」と話していました。大学生は「新品ではなかなか買えない服を探しに来ました。最近はお昼ご飯を自分で作るなどして節約しています」と話していました。 スーパーセカンドストリート大宮日進店の柴田大輔店長は「2000円以下の秋冬ものがよく売れています。2着、3着と数多く買い求めるお客様が増えているのが特徴です」と話していました。
とくに食料品を中心に生活に身近なものが高い上昇率になっていて、家計の負担感は大きくなっている」と分析しています。そのうえで、「いままで日本は賃金を抑えてサービス価格が上昇しないという流れでデフレが長く続いてきた。 しかし、いまはさまざまなコストがあがって、値上げをせざるをえないという状況で賃金が目減りしてしまうので、賃上げが必要だという流れになってきている。これをきっかけに賃上げを行っていけば値上げの動きが落ち着いた時に安定的な物価上昇となる可能性があると考えている」と話しています。 また今後の見通しについては「円安によるコストを転嫁する形での3%台の物価上昇は今年度いっぱい、半年程度続くとみている。その先はアメリカやヨーロッパの景気が後退するとみていて、それにより円安に歯止めがかかり、資源価格が落ち着けば、来年度には物価上昇は2%台になるとみている」としています。
31年前は賃金も上昇 一方で今回は…
安さが売りの店では399円の靴下が480円に
子育て世帯 ”これ以上の節約は難しい”
“物価は上がっているのに年金は下がっている”
物価の上昇が続く中 規格外の野菜が人気に
古着の売り上げが増加
”物価高を賃上げの機会に”
3%の上昇率は、消費税率引き上げの影響を除けば31年1か月ぶりの水準となります。
この物価の上昇、生活の現場からは、やりくりが苦しくなっているという声が多く聞かれます。
どんなものがいくら上がっているか詳しくみてみると、上昇率が高い品目には食料やエネルギーなど生活に身近なものが多く含まれ、家計の負担感は3%という数字以上に大きくなっています。
数字以上の家計の負担感