しかし、大会組織委員会は混雑緩和のため観客は電車や路線バスなどの公共交通機関で訪れるよう求めていて、学校単位の観戦でも貸し切りバスでは会場周辺には立ち入れません。
このため遠方からの観戦を予定している学校や障害のある子どもたちが通う特別支援学校などからは、混雑が予想される公共交通機関で子どもたちを安全に引率することは難しく、炎天下の移動で熱中症も懸念されるとして、貸し切りバスやスクールバスでの移動を認めるよう求める声が上がっています。
大会組織委員会は会場へのアクセスに例外を認めると会場や周辺の安全管理が難しくなるおそれがあるとして、今後慎重に判断するとしています。
担当者は「大会関係者や一般の観客の移動に影響が出ることも考えられるため、学校観戦だけを切り出して結論を出すことはできない。バスの台数や乗り降りにかかる時間を確認しながら慎重に検討していきたい」と話しています。
特別支援学校 スクールバスの使用欠かせず
障害のある子どもたちが通う特別支援学校では、安全を確保しながら競技会場を訪れて観戦するためには、スクールバスの使用が欠かせないとしています。
東京 府中市の特別支援学校では、東京パラリンピックで小学生から高校生までのおよそ400人全員が車いすバスケットボールやバドミントンなどの会場を訪れ、観戦する予定です。
中でもおよそ140人いる身体障害の子どもたちは、車いすなどで電車や路線バスを使って一緒に移動することは難しいうえ、体温調整が困難な子どもも多く、安全に移動するためにはスクールバスの使用が欠かせないといいます。
また、車いすの子どもは長時間、同じ姿勢で観戦を続けると体に負担がかかるため体をほぐす必要があり、寝かせるためのマットを持って子どもと同じ数の教員が同行する必要があるということです。
子どもたちは毎日、車いすで乗り降りできるリフト付きのスクールバスで登下校しており、学校は普段使っている14台のバスで会場にアクセスできるよう配慮を求めています。
さらにおよそ260人いる知的障害のある子どもは、初めての場所に行くと不安定になりやすいため、観戦前に写真を使って会場の雰囲気を学ぶ時間を作りたいとしています。
このため学校は子どもたちを休ませるスペースを確保できるかや、事前の下見ができるかなど本番の会場についてきめ細かい情報の提供を求めています。
都立府中けやきの森学園の村山孝統括校長は「子どもたちに観戦のことを事前によく理解してもらい、体の弱い子どもや動きの遅い子どものために万全の準備をするためにもできるだけ多くの情報を共有してほしい」と話しています。
片道3時間近く… 安全確保できず
子どもたちに東京パラリンピックの競技を観戦してもらう計画を立てている自治体では、電車や路線バスなどの公共交通機関を使った移動では十分な安全が確保できないと懸念しています。
神奈川県箱根町は前回1964年の東京パラリンピックで多くの選手を輩出した旧国立箱根療養所に近く、パラスポーツを通じた障害者教育に力を入れてきました。
これまでも車いすバスケットボールなどのパラスポーツの体験会を開いたほか、去年はゴールボールやボッチャといったパラ独自の競技のボールを町内4つの小中学校すべてに配備しました。そして、東京パラリンピックでは競泳や車いすバスケットボールなどの観戦チケットを独自に購入し、授業の一環として町内のすべての小中学生のおよそ550人を会場に引率し、観戦してもらう計画です。
しかし、公共交通機関を使った移動では十分な安全確保ができず、現実的ではないとしています。町によりますと、例えば車いすバスケットボールが行われる東京 江東区の有明アリーナを訪れる場合、小田原駅まで箱根登山鉄道で向かい、JRで新橋駅まで、さらに、ゆりかもめで最寄りの有明テニスの森駅まで移動することになり、片道で3時間近くかかる見通しです。
その道中も会場に向かう人たちで混雑が予想され、大勢の子どもたちを安全に引率することは難しく、猛暑の中で熱中症も懸念されるとしています。
箱根町教育委員会の小林恭一教育長は「56年ぶりに東京で開かれるパラリンピックを体験することは子どもたちにとってこれほどいい機会はないと思うが、公共交通機関では会場まで無事に行けるかどうかも分からない。会場近くまで貸し切りバスを入れていただくことを検討してほしい」と話しています。